耽美試行

はなこよみ(4)

 27〜30 2014.9.21〜2014.9.28

    

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(4)
友子が大島織物の社屋を訪ねたのは、大島由紀夫に会う目的ですが、その目的というのは、就職先として再来年の春にはOLとして働けないかということで、就活です。それと、この前、牡丹の花が咲く頃に、大学の同窓会総会で会ってそれから、しばらく経って、田能村明人の個展へ招待され、多良書房へ連れてこられ田能村を紹介され、一緒にショーを観ることになったのでした。友子には、あれから、その夜に起こった出来事を、誰にも言えずに内緒ごととして胸の内に仕舞っているところです。大学で源氏物語を研究している友子には、ショーがおこなわれていた多良書房の演舞場の光景が思い出されてきます。油断していたわけではなかったのですが、ショーを観ながらの二人だけのボックスで、田能村にからだを求められ、からだを許してしまったのが、悔やまれてならないのです。というのも、そのことを、恋人の大村淳史に知られたら、と思うと、それは困るからです。その後には、淳史と会ってセックスしたけれど、その日、その夜の出来事は、話すに話せなかったからいまや友子の秘密です。
「そうなの、それで、会社へ来てくれたという訳か」
「そうなんです、先輩の専務さんになら、採用のことおねがいできるかと・・・・」
「つまり、そうか、じゃぁあ、総務の小松沙世に話しておくから、履歴書、これだね」
大島織物株式会社のビルは堀川通りに面した四階建ての自社所有のビルです。一階がショーウインドウと商談室。向井友子はいま、この商談室にて大島由紀夫と会っているところです。

リクルートスーツ、どうしてだか友子はその慣習にしたがって、黒スカートに白ブラウスと黒ジャケット、就職のことは余り興味がないとはいっても、まだ三回生で一年以上も先のこと、とはいってももう就職活動を始める時期でもあるのです。京都の地場産業でもある織物の、それに芸術的な付加価値も持っている産業に、源氏物語を研究する道筋として、友子は大島織物という会社を志望する動機としているのです。
「いきなり、プライベートだけど、こちらのほうの収納庫を、見せてあげますよ」
面談らしきセレモニーが終わって、友子は、多良書房の収納庫を見せてもらえることになります。収納庫はビルの裏庭の一角にある土蔵、昔ながらの白壁で高いところにある窓には、鉄の格子がはまった蔵です。
「わぁああ、すごい、なんだか、むずむずしてきちゃう、ですねぇ」
「そうかな、向井さん、お気に入りかな、この空間構成」
「なんだか、胎内をイメージしたような空間、ですよね」
この蔵の内部、それじたいがアート作品のように造られていて、書籍の収納棚、小作品とはいっても100号の大きさまでの絵画を収納するスペース。
「これなんか、田能村の作品だけど、売るのがもったいないくらいだ、560万だよ」
アートブックという手作りの豪華な書籍が、収納棚では皮製の丸味を帯びた背表紙が三冊並んでいます。作業用の机は120cmの正方形、分厚い板に堅牢な足が四本つけられて、部屋の真ん中です。畳一枚分の簡単なスタジオが作られていて、商品見本として、カタログ用に撮影される場所。それに高級な一枚板のデスクと椅子があります。

「ううん、ああっ、大島さん、だめですよぉ」
「その気になっておくれ、向井友子、ぼくは、キミに惚れてるんだよ」
男と女、ふたりだけの土蔵ののなかです。リクルートルックの友子が、専務の由紀夫に抱かれます。ポニーテールにした髪の毛が揺れます。友子は、想定外、由紀夫だって想定外、とはいえ男と女が二人だけになって、施錠が出来る場所だから、愛の行為が起こっても、それは世にはよくある出来事です。
「ああ、大島さん、わたし、どうしょ、わたし・・・・」
友子は大島に抱擁されて、逃げようとは思わなくて、でも動転してしまって、どうしたらいいのか判断できなくて、そのまま抱かれて、キッスされだして、友子、からだの力を抜いてしまって、為されるがままになってしまいます。恋心っていう感情ではなくて、優男、実業家、アートコレクター、ダンディな男子の大島由紀をに対して友子が思う気持ちは、尊敬の気持ちも含めて、身近に思える大学の先輩です。
「はぁああ、いけませんわ、こんなこと、いけませんわぁ・・・・」
「ううううん、いいじゃない、知り合ったんだから、さぁ」
由紀夫には、友子が、月並はずれた可憐さと美を秘めた仕草と表情に、胸打たれてしまって、恋を抱いた相手です。自分への打算があるとしても、奥野菜穂子とは違った向井友子の打算はそれだけでカワイイと思う由紀夫です。

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大島織物ビルの別館となっている土蔵に連れ込まれた大学三回生の友子です。大島織物の専務由紀夫から不意に抱かれてしまって抵抗してしまう友子です。尊敬の念を抱いていたとしても、抱かれるなんて思いもかけなかったからです。
「いけませんわ、こんなこと」
「だけど、ぼくは、キミのことが好きだ」
「そんなこと、いわれても、わたし、困りますぅ」
「田能村と、関係したんだろ、そうなんだろ」
由紀夫が、うしろから抱きしめてきて、胸を触りだして、友子が抵抗するから余計に、逃さないようにと、抱きしめられてしまうんです。
「ええっ、どうして、そんなことを」
「田能村は、ぼくとは深いつきあいだから、なんでも筒抜けなんだよ」
抱きしめる由紀夫の手がやわらかくなり、抱かれるのがほどかれて、友子は、由紀夫と向き合う格好になってしまいます。

「田能村さんとのこと、誰にも言わないでほしい・・・・」
友子は恋人の淳史との関係が壊れないかと心配していて、この大原由紀夫のことを淳史が知っていたから、なにかの折りに、洩れるのを防ぎたい気持ちでいっぱいだからです。
「誰にもいわないけれど、それじゃ、ぼくの心に仕舞っておけと、いうことかなぁ」
「誰にも知られたくないの、わたし、困ります」
「ぼくと、関係しないか、そしたら秘密、守る」
「秘密、守ってくださいますか、ほんとうですか」
友子は、大原由紀夫のことは、嫌いではないけれど、好きなわけでもなくて、でも好感をもって接することはできると思っています。就活で、大原織物を訪問したのも、大学の先輩が専務をしていて、美術織物というジャンルで、勉強している日本の古典文学を生かせるかも知れないとの思いもあるのです。文学部で源氏物語を研究して、卒業してからは商社とか金融機関とかのOLでは、詰まらないなぁと、思っている友子でしたから。
「ああっ、だめですよぉ、やっぱりぃ・・・・」
土蔵のなかは密室です。男と女の一対だけが、いま、ここに、居るんです。好意を持たれた友子が、なにかにつけ優位にある大原由紀夫に抱かれてしまう、というのはセクハラの類になるけれど、言葉で拒否しているけど、友子にも関係したい気持ちも、無くはないのです。

抱かれて、キッスされてしまう友子は、まだ大学の三回生です。なによりも、いちばんおそれているのは妊娠してしまうことです。恋人の淳史とは、もし万が一のことがあれば結婚してしまえると思う友子です。しかし、それ以外のひととの関係は、そうはいかないから、怖いと思ってしまうんです。友子、なんとなく、一人に限定してしまう習俗に対して懐疑の念を抱いています。もっとオーラルなものでいいのではないか、とも思ったりします。源氏物語を研究していても、それはかなり開放された関係ではないかと、思えるのです。男である源氏の君だけが特権、ということでもなくて、女だって、責任さえ持てれば、それはそれで許されるのではないかと思うんです。
「ううん、向井くん、キミがぼくの会社へ来てくれたら、美術部に配属だね」
キッスしながら、由紀夫が友子にいうことばには、口から出まかせ、無責任だ、とは必ずしもいえなくて、案外こういった関係の人事というものが、多々あるのだとは、由紀夫のセオリーです。リクルートルックの友子、黒いタイトスカートがめくりあげられると、黒のパンティストッキングが露わになってしまいます。ブラウスのボタンがはずされると、胸がはだけて、インナーのブラが垣間見えてしまいます。男の目には友子の姿がそれだけで、情欲を沸かせてしまうに十分な火付け役です。友子が、それなりに受け入れてしまうのにも、ある種の打算がないとはいえないのです。

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キッスされたまま、お洋服のうえから、からだをまさぐられると、友子は、奇妙な気持ちになってくるんです。淳史に抱かれるときとは違う感覚ですけれど、由紀夫に抱かれていてふ〜っとからだが軽くなってそのまま舞い上がってしまいそうな感じです。
「ううっ、ふうううっ・・・・」
黒いタイトのスカートをめくられ、黒いストッキングに包まれたパンストのうえから撫ぜられると、なんだかじれったいような気持ちになってきます。パンストのしたにはショーツを穿いているから、由紀夫の手の感触がそのまま伝わってくるというのではないぶん、じれったさを感じるのかも知れません。軽く抱かれて髪の毛を撫ぜられてきちゃうと、友子は、もう身動き取れない棒のようになって、由紀夫の手を受け入れてしまうのです。
「ああっ、だめ、だめ、ああっ」
唇を離されて抱かれたままの友子、目をつむっているけど、音の気配とからだの気配で、パンストのなかへ手を入れられてきているのを感じます。
「向井友子、ぼくの後輩、好きになっちゃったよ」
由紀夫が耳元で囁くように小声で話しかけてきます。スカートがめくりあげられ、パンストの腰あたりから入れられた由紀夫の手がショーツの内にも入れられて、友子、ナマの手の感触に、少し身震いしちゃいます。
「はぁああ、せんぱい、わたしのがっこのせんぱいぃ・・・・」
パンストとショーツの内へ手を入れられて、指先が股間へ入れられてくるのを感じる友子。抱かれて、片方の手が髪の毛を退けて耳を触ってこられて、片方が股間へと侵入してくるんです。その格好のまま、ふたたび唇を重ねられ、こんどは由紀夫が舌を絡ませてくるんです。

大原織物株式会社、美術織物を手がける織物会社で、そのデザインから出来上がりの見栄えまで、現代の一級に値する芸術作品だとも評されているところです。友子は、そこの美術部へ配属されるという口約束を取り付けたうえで、専務の大原由紀夫にからだを要求されているのです。無理やりということでもなくて、友子は友子で由紀夫に憧れ的な好意を抱いているし、由紀夫には友子の清楚なすがたに心打たれて恋心です。大原織物ビルの別館となっている土蔵の中へ連れ込まれた友子。外から遮断された土蔵の空間は、多良書房の収蔵庫の役割を果たしていて、絵画や書籍が保存され、その美術空間は、阿弥陀如来さまの胎内のようにも感じられるんです。
「いいね、友子、ぼくと、かんけいして、いいよね」
ひとまわり程の年齢差の由紀夫に囁かれて、友子は、もう拒む理由も特別には見当たらなくて、感情のうえでの拒否感覚もなくなって、すなおにうなずいてしまうのです。由紀夫がまだ独身だということも、友子の心理を柔らかくしているのかも知れません。
「はぁあ、せんぱいぃ、ああっ」
上半身は白いブラウスを着衣のまま、下半身、スカートは穿いたまま、黒いパンストが太腿の中ほどまで降ろされ、白い生成りのショーツも一緒に降ろされてしまった大学は文学部の三回生、向井友子です。

1.2m四方の木のテーブルに仰向いて倒されてしまった友子。靴は土蔵の入り口で脱いでいて皮のスリッパの足先から、スリッパははずしてしまって、仰向いた友子に、立ったままの由紀夫が、おおいかぶさる格好で、友子がまだ太腿のところで留めているパンストとショーツを、降ろして片足を抜いてしまって、実質、友子の下半身を裸にさせてしまって、股間を弄りだす由紀夫です。自らズボンのベルトをはずし、ズボンのまえのホックをはずし、ファスナーを降ろし、穿いている柄のトランクスとともに脱ぎ捨ててしまって、下半身裸になった由紀夫。テーブルに仰向かせている友子のお尻を縁にもってこさせ、膝裏を抱きかかえて開かせ、上へもちあげます。由紀夫の腰からは半勃起のモノが、友子の股間の真ん中に狙いをつけて、あてがわれてきます。
「ああん、せんぱいぃ、うち、ああ、どないしょ、ああっ」
高いところの窓から、外の明るい光がさしこんでいるのが、上を向き、薄く目をあけた友子の意識に、入りこみます。
「ああっ、ああっ、せんぱいぃ!」
由紀夫のモノが挿入されてくる感覚で、圧迫される感じで、友子が小さな声をあげてしまいます。からだが折られて膝をひろげた格好にされた友子です。由紀夫は無言ですが、荒々しく息する音が、友子には聞こえています。むしろお声を洩らすのは友子。挿しこまれてキツイ刺激を受けていたのが、しだいにやわらぎ、埋め込まれてしまう刺激で、からだのなかが満たされていきます。大原織物株式会社の別館での出来事です。

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向井友子は大学三回生、秋になって就職活動の時期になって、それまでは古典文学の研究や琳派の研究とかで大学院に進学、ってことも考えていたけれど、別に大学院に進んでも病院経営している家だから、なんの抵抗もなくて、母親などはむしろ文学研究を続けて、教職の道にでも進んで、研究を続けるのがいい、ともいうところです。こころが揺れる友子。恋人の大村淳史は、大学院生で、そのまま研究生活を送って、大学に残って、学閥のなかに組み込んでもらえて、三十になったらどこかの女子大にでも出向いて先生をこなし、ゆくゆくは出身大学の学部にもどって、研究生活を続けたいというから、友子の淳史に従って、大学院に進んでいこうとも思っていた。それが、三回生になってまわりの友達たちが就活をはじめるようになって、自分もそれにならって就活。その第一歩が、大原織物へのアプローチです。
「せんぱい、いけないこと、してしまいました、わたし・・・・」
「いいじゃない、いまどき、フリーセックスで、さぁ」
「でも、わたし、そんなこと、認められません」
「そうかなぁ、田能村と、だってしたんだ、誰とでもするんだろ」
土蔵のテーブルに仰向いた友子に、由紀夫が射精を終え、スキンを処理してしまってゴミ箱に捨て、ティシュで最後のひとしずくを絞りとりながら、友子のことばに応じているんです。友子は、終わって抜かれて数秒で、我に気が付いたとでもいうように、起きあがり、下半身裸の自分を隠すように、黒いタイトスカートを穿き直し、乱れた髪の毛を手当てしながら、由紀夫にいうのでした。

土蔵の収蔵品が、テーブルにも並べられているのですが、身づくろいをおえた友子は、そのなかに陶器の青い深みある精彩を放っている、小さなオブジェが目に留まったのです。
「ああ、それね、奥野菜穂子って作家の作品、友子の先輩、陶芸家してるんだよ」
「奥野菜穂子さんって、聞いたことあります、その名前」
「このまえ、東京店で評判になった、テレビでも取り上げていたから」
「そうそう、そうです、でも、芸大じゃなかったかしら」
「いや、菜穂子は卒業後、芸大に編入してるんだ」
ライトが消されると薄暗い土蔵のなかです。はしごを使わないと上には手が届かない書籍棚には、シュールリアリストたちの美術書が保管され、一角には雑誌の類で、カストリ雑誌と言われている昭和20年代の性を扱った雑誌が、保管されているのです。
「多良書房のほいだけじゃ置けないから、ここに、こうして、保管してるんだよ」
「なんだか、へぇええ、ブルトンとか、モリニエもあるんですねぇ」
貴重な書籍、友子にも多少は興味があるから、クリムトが好きだし、ベルメールとウニカの夫婦とか、興味あって好きだし、ええ、もちろん日本の源氏物語とか、琳派の絵画とか、好きだし。
「美術部って、なにをされてるんですか」
「織物のデザインを制作している処だけど、そのうち社団法人にして管理したいんだ」
「わたし、そこへ、配属なんですか」
からだを交えたあとだというのに、友子は、就活の続きに入って、情報を得ようとしているんです。











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最新更新日 2014.12.13


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