耽美試行

さくら協奏曲(9)

 41〜45 2014.5.17〜2014.5.29

    

(9)

-41-

松倉織物の専務松倉正敏が、最近は土蔵にこもりっぱなしで絵を描いているんです。会社の方は年配の主任、番頭さんにまかせっきりです。三度の食事すら土蔵に運ばせ、寝るのも土蔵で、という日が多くなっているんです。表の会社と奥の土蔵との連絡役は、事務員の千代子があたっていて、内妻の役割で、正敏の身の回りの面倒も見ているところです。めっきり寒くなってきて、まもなく正月を迎えるころになって、土蔵のアトリエには練炭火鉢が三つも置かれて、アトリエのなかを暖かくしている始末です。
「専務、不渡り手形をつかまされたと、主任さんがあわてているけど」
千代子が、表の会社の出来事を、正敏に伝えているんですが、正敏には、そのことが煩わしく思えて、千代子に伝言するのです。
「不渡りの手当は、蓄えを崩してあたればよい、だめなら土地を売ればよい」
資産家の家系だから、少々のことで傾く会社ではない、とはいいながらも昨今は、不景気で、会社倒産もまま噂にあって、経営が立ち行かなくなるケースが多いのですが。

「だから、鈴をモデルにするから、今夜は、鈴ひとりで来るように伝えなさい」
「専務、それは、鈴がどうゆうか、ひとりでは不安なのではないかと」
「なんだ、お千代も立ち会いたい、そうなんだろ」
「そのほうが、鈴ちゃんだって、安心なんじゃ、ないかしら」
千代子には、高校を出てきてまだ一年が経たない19才の鈴子に、専務の正敏が気を入れていることに気づいているから、嫉妬、男と女が二人だけになると、何が起こるかわからない。分からないというよりも、大人の千代子には、起こることが予想できるから、内縁関係になっている専務の正敏を、若い鈴子にとられたくない。
「ひとりで来るように、いいつけなさい」
正敏には、鈴子の好奇心がつかめる気がして、ひとりでも来るとの確信を持てるのです。千代子は、内縁関係にあるとはいっても、松倉織物の従業員であるから、専務の命令には従うしかありません。ただ、鈴子が、承知するかどうか、そのことです。

鈴子が専務が待つ土蔵のアトリエへやってきたのは、午後七時。軽く食事を済ませてきて五時間の約束です。午前零時にはモデルを終える。そうして翌日の鈴子は、午後からの出勤にしてもらえる条件です。
「専務さん、わたし、きちゃったよ」
鈴子がやって来て一番の言葉、はきはきしていて、むしろ楽しみにしていたとでもいうような顔つきで、松倉正敏のこころをゆさぶるのです。
「来てくれたのかい、鈴、今夜も、モデルになって、くれるんだね」
「ええ、モデルさん、きれいに描いてくださいね」
半裸どころか全裸モデル、それに絵の依頼は、縛り絵、緊縛、そんなことに鈴子が応じるのかどうか。これは千代子にもすべてを明かしていないから、千代子が知ったら、どんな反応をするのか。
「そうだね、きれいに、えがいて、あげるから、ゆうとおりにするんだよ」
色白でぽっちゃりの鈴子が、分厚いオーバーコートを脱ぐと、薄いワンピース姿で、下着が透けてみえるのでした。


-42-

屈託なく明るく振る舞う鈴子が、正敏には眩く感じます。天女のような、妖精のような、まるで夢の中に現われた女人のように、オーバーコートを脱いだ鈴子を、見てしまうのです。こころを締めつけられる感覚が、正敏を満たしていきます。立ったままの鈴子を、じっと見つめてしまう松倉正敏です。
「専務さん、わたし、どうしたらいいんですか」
はやく指示を出してほしいとばかりに、下着が透けるワンピース姿の鈴子が訊ねます。
「お座り、その椅子にお座り」
「はい、専務さん、服、脱ぐんですか」
まるで花台のような丸い木の椅子に、鈴子が言われるままに座ります。
「そうだね、脱げるかね、大丈夫かね」
「はい、そのつもりで来たから、大丈夫です」
鈴子の目線は、しっかりと正敏に向けられていて、どうしたわけか正敏は、その目線に目線をかえすことができない。こころの動揺を覚えます。正敏の声がふるえます。天女のような、妖精のような、肌白いぽっちゃり娘、19才の鈴子。

鈴子は、丸い木の椅子に座ったまま、ワンピースを脱いでしまって、下着だけの姿になりました。白いブラジャー、白い木綿のズロース、白い肌、お化粧はしていなくて、口紅は赤。土蔵のなか、鈴子の下着姿が、艶めかしい。親子ほども年がちがう鈴子を見る正敏には、こころが動揺します。
「征二くんってご存知でしょ、ええ、お寿司屋さんの出前してるひと」
鈴子が、空気を破るように、ラブホテルで身を任せた高校生の征二のことを、話題にしはじめます。
「高校生で音楽が好きで、音楽家になるんやゆうて、ピアノを習いだしたんですって」
「なんやね、鈴は、その男が好きなんか」
「興味ありますねん、なんかしら、ベートーベンみたいで」
「惚れたのか」
「いやですよ、専務さん、そんな、惚れたのかなんて、言い方」
もじもじ、鈴子は、白いブラジャーのうえに腕を置き、白いズロースを穿いたまま、太ももをぴったしとくっつけ、膝を閉じて、背伸びをするのです。

鈴子を裸にして、手を後ろへまわさせ手首を括って、括った残りを肩から前へ垂らし、臍のあたりで結び目をいれて股間をくぐらせ、引き上げ、お尻のうえで結び目をつくり、背中の手首に、巻いてしまったのです。
「はぁああん、専務さん、こんなの、ああっ」
丸い椅子には座れなくて、肘掛椅子に座った正敏のまえに、立ち尽くしてしまう鈴子です。股間に通され、一本になった二本の紐が、前屈みになるとゆるむのですが、裸体をまっすぐに立てると、締めつけてくるんです。
「鈴、そのまま、立っていなさい、スケッチするから」
天井からは60Wの電球がぶらさがり、60W電球を三つならべたボックスの光が、鈴子を明るく照らしあげます。鈴子、縛られて、男の正敏に見入られて、なにやら、へんな気分になってきます。放心していく感じで、頭の中に征二の姿が見えてきます。
「ほうら、鈴、まっすぐにして、歩いてごらんよ」
正敏の前、1mほどのところに立っている鈴子が、言われるままに、足を前へだします。
「ああっ、はぁああっ」
ほとんど声にならないくらいの小さな溜息を洩らす鈴子。股間に渡った紐が、へんな刺激を起こしてしまうんです。


-43-

土蔵のなかは密室です。絵を描く道具や机があるから、動ける部分は二畳ほどの広さです。裸になった鈴子が、後ろ手に括られています。鈴子の裸体を割った二本の紐がよじれて縦一本になって股間を通っています。こころもち前屈みになってしまう鈴子。
「さあ、歩け、鈴、そろそろでいいから、歩いて、歩くんだ」
「はぁああ、専務さま、なんかぁ、へんですよぉ」
天井からの60W電球の光、床に置かれた照明ボックスは60W電球が三個。鈴子を照らす足元からの光のほうが多くて、奇妙な影になって壁に映ります。正敏がスケッチブックを置いて、立ちあがります。立ちあがって、後ろ手に括られた鈴子の前に、立ちはだかります。
「鈴、うるわしいからだ、白い、白い、いいねぇ」
「いやぁあん、専務さま、さわったらぁ、いやぁあん」
軽く、ほんの軽く、右の手の人差し指を折り曲げて、鈴子の乳首をしたから、はね上げてしまう正敏です。ぷくらと盛り上がった乳房は、まだ青くて硬い感じがして、正敏の目には眩いくらいです。

首から股間へ、縦になった二本をよじった紐を、おへそのあたりで引っ張る正敏。鈴子は、なされるがまま、首をうなだれ、背中を丸め、ため息のような淡い呼吸の音を洩らします。
「はぁああ、専務さま、あああん、あかん、あかんですぅ」
鈴子の前から背中へ、左腕をまわして手首を握ってやる正敏。右手で、鈴子の乳房を、まさぐりだします。立ったまま身動き取れない鈴子が、立ったままの正敏に抱かれる格好で、手首を握られ乳房をまさぐられるのです。
「鈴、やわらかいねぇ、あったかいねぇ、鈴、鈴」
「はぁあ、ああん、専務さま、あかん、あかんですよぉ」
乳房をまさぐられながら、抱き寄せられた鈴子の乳首へ、正敏の唇が当てられます。唇に挟まれたのは鈴子の右乳首、左乳首は乳房ごと正敏の右手がかぶせられて、軽く揉まれてしまいます。
「ああっ、専務さまぁ、ああっ」
乳首を吸われて揉まれて、そのうえ愛撫され、かすかにうごめく裸体の股間をこする紐。鈴子は、ジーンと痺れるような、分泌物が滲み出る感触を、じんわりと感じてしまうのです。

正敏に抱かれる鈴子は、まだ少女のようなあどけなさ、とはいえ熟れたからだも併せ持つ不思議な女体です。絵描に没頭、モデルの鈴子のからだに没頭していく朝倉正敏。松倉織物の専務、社長の父は経営の判断ができない状態で、実質の経営者である正敏ですが、行き詰りつつある会社経営を思うと、そこから逃れたい気持ちになるのです。
「ああ、鈴、鈴、鈴・・・・」
正敏の鈴子への没頭ぶりはただ事ではなくなり、心の大部分を鈴子のことで占められるようになっています。恋でも愛でもなくて、性愛でもなくて、ただ鈴子を、ともにすることで心が安らぐ。
「ああん、専務さまぁ、いやぁあん、いやぁあん」
「なになに、鈴、いいきもちなのかぃ、こうして、ほうら」
「きもち、いいです、ああっ、専務さまぁ」
松倉織物の奥にある土蔵は密室、専務正敏のお絵描場所で、鈴子は縛り絵のモデルです。モデルはそのまま正敏の性愛の対象、崇拝すべき女体。鈴子は十九歳、正敏の心をつかんで、狂わせていく魔物です。


-44-

鈴子の頬が赤みを帯びているから、上気しているのが、正敏にはわかっています。正敏は、裸体に紐をかけられ恥じらう鈴子を、まるで天女が訪れたのかと見間違うほどに見惚れ、心を奪われています。手が出せない、なぶることはできても、性交には至れない聖なるモノのようにも思えているのです。
「ああっ、専務さまぁ、うち、うち、ああっ、ああっ」
乳首をつまんで、揉んでやると、気持ちがいいのか、鈴子は、やわらかい声を洩らしてきます。
「はぁああ、ああっ、はぁああ、ああっ」
左手で、鈴子が後ろにまわした手首を握り、乳首から右手を解いやります。解いた右手は、紐が掛かった股間へ挿しいれていく正敏です。まだ生え揃わないちじれ毛を撫ぜおろし、閉じられた鈴子の股間へ、右手の平を水をすくうごとくに丸めて、挿しこんでしまうのです。裸体を縦に割った紐が股間を封じているから、正敏は、鈴子の股間を、紐ごと弄ってやります。鈴子は、もう声をださず、こらえるように、かすかな息の、喉にすれる音だけを、洩らしてきます。

正敏の心に迫りくる思い悩みは、この世の出来事、会社の専務であって責任者、社長の父は脳疾患で会社の采配をふれないから、その判断は正敏にかかっているのです。
「ですから、専務、ここはなんとかしのげますが、年明けには、あぶない、です」
祖父の代からたたき上げの番頭が、会社の采配を振る格好で、これまで正敏がほったらかすままに、会社運営をおこなっていたのです。松倉織物株式会社、取引先からの約束手形が不渡りになって、年の瀬、大晦日の三日前になって、自社の手形も不渡りになる様相になってきたのです。取引銀行からの急遽借入手続きをとりおこなったところで、なんとか不渡りにはならないこととなったのですが、正月あけて十日の支払いが滞ってしまいそうな気配が、まだ残っています。
「土地を担保にといっても、銀行が、貸せないというんですよ、世の中、不景気なんだから、と」
正敏の元に、資金繰り予想を伝えてきた番頭には、蓄えを崩せばよい、遊休の土地を売ればよい、と指示したところですが、その蓄えが底をつき、土地を担保に銀行からの借り入れもままならないところまできていたのです。

土蔵のなかは、練炭火鉢で暖房を効かせているから、裸になっても寒くはありません。裸のままの鈴子は、手を後ろに括られたまま、正敏の手の平に翻弄されて喘ぎながら、それでもべつに嫌でもなんでもなくて、むしろ恍惚となってきています。
「鈴、鈴はいくつ、なのか、ねぇ」
「はぁああ、ああ、じゅうきゅ、来年、成人式ですぅ・・・・」
「鈴はまだ、選挙にもいけないのか、若いんだ」
正敏は、まだ未成年の鈴子に、すがる気持ちで、救いを求めたとしても、求めきれるものではないとの悟りができていなくて、ただ、世の中の出来事にたいして、成行きまかせです。とはいえ、正敏の心は奇跡を求めているのです。鈴子に没頭していく心は、現実からの逃避。没頭と逃避は裏腹になって、土蔵という密室のなかで正敏は、鈴子に深く傾斜しているのです。
「大晦日は、すき焼き食べに連れてってやるよ」
「はぁああ、すき焼き、お肉、食べるんですかぁ」
鈴子の目が眩くひかって、京極にあるすき焼きの店で、鈴子に、牛肉をたらふく食べさせるとの約束をする正敏です。


-45-

松倉織物の年末は12月28日まで、それから正月休みにはいります。従業員はそれぞれの家庭で正月を迎える準備に入った29日、正敏の世話をする戦争未亡人の坂倉千代子が台所へ入っています。妻を病で亡くした正敏とは内縁関係ですが、表立っては専務と事務主任の関係です。織物工場は休み、事務所も休み、千代子が松倉正敏の正月を迎える準備を、おせち料理、お餅の手配、生活場の掃除、日常と晴れの日と、その両方を世話しているのです。おせっかいといえばおせっかい、正敏とは内縁とはいえ、同居はいていないからです。
「わるいな、お千代、掃除すんだら、お茶にしてくれよ」
なんとなく愁いた表情の正敏ですが、お茶をするということが、意味することを千代子はわきまえています。暗黙のなかでからだを求められていることを悟っています。
「専務、ほんなら、土蔵でお茶にしましょか、待っててください」
この日、会社にいるのは、正敏と二人だけの千代子です。若い鈴子もいないし、番頭さんもいません。土蔵のほうは正敏のお絵描場所ですから、朝から練炭火鉢で温めてあるから、そこは安息の場所でもあるのです。

「昨日は、手形が落ちて、よかったって」
「そうだな、よかったな」
「でも、番頭さんがいってましたけど、十日があぶないって」
「あぶないかもしれんな」
心配している千代子が正敏にいうまでもなく、正敏はそのことを知っているけど、成行きに任せているんです。なるようになる、それよりも、生きていることの意味を、問うても答えが出るわけではないけれど、どうしようもない。
「専務、ほら、溜まってんでしょ、してあげますから」
暖かい土蔵のなか、とっておきの緑茶をのんで、正敏を立たせる千代子です。まるで子供に洋服を着せ替えるような仕草で、正敏の腰のベルトをゆるめ、縦のボタンをはずして、なかのモノをとり出して、口に頬張ってしまいます。まだ萎えている正敏の分身を、千代子が、使えるようにしていくんです。

「あさってやな、大晦日、すき焼き食べにいくからなっ」
千代子と鈴子、それに正敏の三人で、千本京極にある料理屋ですき焼きを食べるというのです。
「はい、ほんなら、予約しておきます」
男のモノを握ったまま、千代子は、正敏と会話しますが、気持ちは高揚していて、それどころではありません。
「おおおっ、お千代、ええわぁ、やっぱり、お千代、ええわぁ」
口に咥えられて、じゅぱじゅぱ、千代子のフェラチオに、正敏は興奮してきます。仁王立ちのまま、ひざまづいた千代子の頭をかかえて、なされるかままになされていくのです。二人だけの土蔵、男と女、苦しいときこそ支え合う、そんな関係を千代子は思うのですが、正敏には、それどころではない、もっと深いところでの、世間に対して、淋しさ、冷たさを感じているのです。大晦日には、すき焼きをたべて、宴席をもりあげて、一年を締めくくるというのです。








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最新更新日 2014.6.1


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