耽美試行

さくら協奏曲(3)

 11〜15 2014.2.27〜2014.3.5

    

(3)

-11-

征二が春子の部屋、清心荘二階四畳半の殺風景な部屋を訪ねるのは、夕方の6時過ぎです。夏の日は夕暮れ時、秘密めいた春子の部屋は、征二にとっては女の部屋、おしろいの匂い、夏の終わりのすえた空気の匂いが入り交じったむし暑い部屋です。木枠の窓にはスリガラス、開かれてカーテンで半分閉じられているけれど、西日が入るから暑い。扇風機がガタガタ、古道具屋で200円払って買ったのだと征二にいった春子。そばに寄って匂いを嗅ぐと油臭い。シャツ一枚の征二は、春子の前で汗にまみれてしまうのは緊張のせいかもしれません。
「ううん、9月になるから、学校がはじまるから」
「ベートベンは高校生、いいなぁ、わたい、あこがれちゃうよ」
「来てもいい?」
「来てもいいよ、ベートベンの邪魔にならないなら」
「邪魔になんてなるもんか、ねえさん、来ちゃうよ」
綿の薄いズボンにシャツ姿の征二が、5才も年上の春子の部屋を訪ねる。週に一回、いいえ二週に一回、そのくらいの頻度で、高校生の征二は、春子の部屋を訪ねるのでした。

征二が言われるままに、春子の前に立ちます。女すわり、シュミーズにズロース、パーマをかけた髪の毛、乳房がシュミーズから透けて見えるから、性に目覚めはじめた征二は、大人の春子をまばゆく感じます。立たされて、ズボンのベルトを外され、降ろされ、ぱんつを降ろされていく征二。幼年の頃の記憶がよみがえってきて、あれは母親がこのような処置をしてくれた、それをいま春子がしてくれる。春子がしてくれるのは、母親がしてくれたのとはちがう目的のためです。
「ベートベン、わたいに、こんなことされて、いや?」
征二は、嫌ではないけれど、好きなことだけど好きともいえなくて、どぎまぎしてしまいます。性器を春子の前に突きだし、ぼっきしてしまった物を、春子がにぎって、皮をむいてくれて、頭を突出させて、唇をつけてきて、むいた頭を口に中に含み入れられてしまうのを、嫌なわけがないのです。
「はぁああ、ねえさん、ううっ」
征二はこのことがなにであるかを、知らないわけではなくて、知っています。男と女がいる処でおこなわれる儀式のようなもの。

春子の手と唇が、征二のむすこを包んで咥えてしごいて精液を放出させる。春子が征二に交合をさせたのは一回だけで、強く挑んでこない征二には、いつも口で放出させるばかりです。春子には春子のわけがあり、作次郎とのことがあり、征二との交渉で赤子が出来たら困るとの気持ちがあり、感情だけで動くというより理性も持ち合わせた春子です。
「うううっ、いい、いい、いい」
気持ちいい、征二は春子が刺激してくれることで、からだの芯が締まってくるように感じられ、その恍惚感がたまらまく忘れられないようになってきているのです。硬くなった物を、春子は執拗になめ続け、手を上下に動かし、征二をその気に昇らせていくのです。無言、春子は、なにも言わなくて、息する音が荒くなってきて、放心してしまうような、でも、征二が射精してくるまで、先を唇にはさみ、手を上下させることで陰茎をしごいているのです。春子には、征二が高揚して射精していく変化がわかるらしくて、うまく射精するところまで誘導してしまいます。


-12-

九月になって、高校1年の二学期が始まった日、征二は久しぶりに会ったクラスの友だちと、あれやこれやと夏の出来事に花が咲いていました。この夏の、征二のなによりの関心ごとは、春子とのことでした。つまり初体験のことです。アパートの春子の四畳半を訪問したこととそこでの体験でしたが、高校1年生、友だちとの話題とは遠く離れたことのようでした。紺の制服に身を包んだ女生徒が半数のクラスです。征二にとっては、制服を着た女生徒は、まばゆく眺めるだけの存在であって、親しくなるということもなかったのです。ただ、夏休みに入る前から、気になっていた女生徒、中野利子に親しみをもっていて、淡く恋していた、といえばそうかも知れない気持ちを、抱いていたものでした。その利子が、登校日の初日は、学校には来ていなくて、征二はどうしたことかと、心配になりました。でも、それは、次の日にはクラスの教室に、利子がいたから、征二はうれしくなって、ひとり安心したのです。

手紙で好きだと告白をしたわけではなかったが、征二は利子と、学校ではない場所で会うようになっていました。利子は繁華街のうどん屋の娘で、出前を終はえた帰り道の途中、征二と会う時間をつくるのでした。あらかじめ了解がとられてあって、征二が電話機の前でまっていると、リンリンと電話がかかってきて、俊子は、いまから出前にでるから、鳴滝駅に20分後にはいける、ということを告げられるのです。夜の八時過ぎ、征二が自転車で、鳴滝駅までいくと、エプロンをした利子が、出前の鉢物をいれる箱を手に持ったまま、駅のホームを離れ、暗い夜道を、数分の間、寄り添ってきて歩くのでした。手を握る訳でもなく、特別に大きな話題があるわけでもなく、しかし征二は利子が好きだったし、利子にしても征二のことを嫌いではなかった。なのに利子は征二との会話の中に、結婚ということばを混ぜて、征二に言うのでした。
「そうなのよ、お兄ちゃんと結婚する約束、しているのよ」
お兄ちゃんというから利子より年上、すでに働いていて生活力があるから、利子を養える。そんな男と結婚するというのを、高校一年の利子が、高校一年の征二に、話すのでした。

お兄ちゃんは親切にしてくれて、わたしは貧しい家だから、はやく親に安心させてあげないといけないから、高校をやめて、結婚して、親から離れるのよ、と利子がいうのです。男16才の征二には、大人びた利子の話の内容が、その真意がつかめないのです。美人というわけではないけれど器量も良く、働き者になりそうな利子です。征二にとって、うどん屋出前姿の娘は、どうみても学校にいる利子とは違った女子です。征二は、暗い裸電球のホームで、利子を見送ったあと、暗い夜道のなかで淋しい気持ちに襲われます。好きな女生徒、春子とはちがう、まったくちがう、しかし征二にとっては、ともに女という存在、こころが傾いていく存在です。男と女を意識しだす征二。中野利子とは、寒くなって、思い余って利子の店へうどんを食べに行ったのです。二年生になってクラスが違って、利子のことを遠くに思うようになっていました。その利子は、それからおよそ一年後のこと、高校を中途退学していて、その兄ちゃんと一緒に、生活するようになっていたのでした。


-13-

征二がアルバイト先の得意先の受付に、二つ年上の金谷鈴子がいました。鈴子は高校を卒業して地元の帯地問屋に勤めていて、受付係だけれど、いってみれば雑用係をしているのでした。征二は高校二年生、アルバイトは16才でバイクの免許をとって、スーパーカブに乗れたから、寿司屋の出前のバイトに就いていました。学校が終わった午後に、二時間から三時間ほど配達にはいります。配達先の松倉織物のは株式会社で、受付にいたのが鈴子でした。ぽっちゃり、小柄と云えば小柄な、愛嬌があって喋りやすいタイプの女です。制服というのがあって、紺色のチョッキに膝までのタイトスカート、シームレスのパンティストッキングを穿いていたから、それなりに大人っぽくみえます。
「うちは6時に終わるのよ、征二さんは何時に終わるの?」
松倉織物へ取引先のえらいおひとが来られたときには、征二がバイトする寿司屋から、寿司をとるのです。
「ぼくは、7時過ぎ、待っててくれるなら」
ふたりだけで話がしたいと言い出したのは鈴子の方からで、征二には、誘うだけの勇気はありませんでした。

マリヤという名前の、甘党の喫茶店があって、鈴子は、その喫茶店を指定したのです。鈴子の勤める松倉織物からは徒歩で一分、征二のバイト先からだと徒歩で5分、繁華街の狭い路地のなかにマリヤがありました。何の話をするのかといえば、鈴子は日本映画の話題、東映では錦之介、大映では雷蔵とか、征二にしてみれば映画の話題は、イタリア映画に興味があって、よく観ていたけれど、鈴子の前では話題にしなくて、鈴子の興味に従うのでした。
「ううん、うち、できがわるいから、おこられてばっかりなの」
「そやから、きばらしに、映画をみるの?」
「好きなの、映画、おもしろいから」
チョコパフェが置かれたテーブルに、手を伏せておいた鈴子の手の甲は、ぷっくら膨らんでいて指が短めのように思えます。征二は高校生だから、珈琲を飲む、それもブラック、砂糖もミルクも入れないで、苦いままの珈琲。鈴子は、苦いからいやだというのです。食べかけのチョコパフェと飲みかけの珈琲が置かれたテーブルの上で、鈴子のほうから、征二の手に、手をかぶせてきたのです。

皮膚が触れ合うことって、それだけで興奮を呼ぶものらしくて、征二は胸が高鳴ったし、鈴子はキリッとした目つきになって、戸惑ったかのように目を伏せて、征二の手のうえから、手を引っ込めてしまったのでした。チョコパフェを食べ終えてしまった鈴子が、いいことしに行きたい、と征二に言ったのです。征二には、鈴子の要求がすぐにはのみ込めなかったが、一瞬まさかと思う気持ちがひらめいて、鈴子の顔をみたのです。
高校を卒業して、会社という大人の世界へ入って、鈴子は、男と女の出来事に、興味をもって征二にちょっかいを出してきたのです。
「ううん、いいの、うち、せいじに、あげるの」
「かなたにさんは、ぼくに、くれるの?」
「あげる、うちをあげるから、いいでしょ?」
喫茶店のマリヤから、繁華街のはずれにある連れ込みホテルのナポリへ、導いていったのは鈴子のほうでした。


-14-

ナポリの部屋は洋間で、ダブルのベッドが部屋の三分の二を占めていて、ベッド横の片方は壁、片方にテーブルを介して肘掛椅子が置かれてあります。
「ナポリって、イタリアの街の名前にあるよ」
「そう、せいじってイタリアのこと、好きなんよね」
「うん、映画、よく見るんよ、新京極の映画館」
「ここ、ナポリよ、ナポリのお部屋よ」
ラブホテルナポリにいる私服の鈴子は、マリアにいた鈴子の楽しげな気配とは違って、緊張している気配がオクテの征二にも伝わってきます。春子の部屋で、征二が経験していることが、ナポリの部屋でもおこなわれる、としても征二には、鈴子をどう扱えばいいのか、わからない。立ったままの鈴子と征二、抱きあうこともできなくて、鈴子がブルーのセーターを脱ぎ、スカートを脱ぎ、ブラウスを脱いでしまって、征二にも脱ぐように促してきます。鈴子は、未経験だったけれど、女性週刊誌の記事を読んでいて、その場での取り繕いをイメージしているのです。

下着だけになった鈴子が、ベッドに倒れ込み、仰向いて寝そべり、征二が横へ来ることを、仕草で示し、征二はブラとショーツだけの鈴子、色白でぽちゃり、大福もちのような肌を見て、生唾を呑みこむのでした。やりかたは、映画とかのラブシーンを思い出せば、そのようなやりかたでできる。しかし、交合するときの体験は春子のことが、頭をよぎる征二です。
「ううん、いいの、せいじに、あげるの・・・・」
鈴子はブラをはずし、ショーツをとって素っ裸になり、眼をつむったまま、うわ言のように言葉を紡ぎ出します。征二が素っ裸になり、ベッドのうえ、鈴子のよこにあぐら座りします。男子の本能、仰向いて寝そべった裸の鈴子の上半身を抱き上げ、引き寄せ、キッスをし、乳房をまさぐり、舌を絡ませ、腰のものが起立してきて、鈴子に握らせます。
「はぁあああ、はぁあああ」
鈴子の息する音がふるえています。征二は無言で、鈴子とキッスをして、唇を離し、左腕に抱いた鈴子の足をひろげさせ、右手を股間にいれてしまいます。

ぽっちゃりとした白い肌、腰の真ん中にまつわる黒い毛のゾーン、征二は、興奮してきます。
股間に手を入れられた鈴子が、呻きの声を洩らしてくるけれど、初体験、処女、ふるえているのが征二に伝わってきます。
「ああっ、いたい・・・・」
征二の指が、鈴子の秘唇をまさぐりひらけ、濡れる感じの箇所へ指をいれたときです。鈴子が微かに顔をしかめ、痛いと小声をあげたのを、征二が聞いた。
「いいの、いたくっても、いいの、いいの・・・・」
うわごとのように鈴子が小声を洩らし、征二は、寝そべらせた鈴子のうえにかぶさります。鈴子に足をひろげさせ、開いた太ももの間に、うつむいた征二の太ももが入り、鈴子の股間へ、征二の勃起ブツが挿しこまれていきます。鈴子は、お顔をしかめ、ぐっとこらえるなかで、痛いと征二に言ったのです。春子とはまったく違った反応に、征二は、鈴子のなかへ、ゆっくりと入れ込んでいって、結合がおわったのです。


-15-

ラブホテルナポリの一室、ダブルベッドに敷かれたシーツのうえに、鈴子が仰向き寝そべっています。全裸で太ももをひろげ、膝を立てています。征二が、鈴子におおいかぶさる格好で、ひろげられた太もものあいだにはいり、勃起させたブツをほぼ根元まで、鈴子の秘芯に挿しこんでいて動きを止めた状態です。鈴子が痛みをこらえて呻くのを、征二が動きを止めることで痛みを和らげられるかと、抱いて重なったままなのです。
「はぁああ、ああ、いたい、いたい、はぁああ、ああっ」
色白でぽっちゃり肌の鈴子、18才、高校を卒業してまだ半年が過ぎたところで、征二と関係をもって、処女を捨てるのです。女性週刊誌に特集されていた記事のように、鈴子がふるまい、最初は痛みがともなうけれど、何度も交合しているうちに、快感に変わっていくという、その知識に従って、痛みに耐えているのです。
「いいの、いいのよ、せいじくん、いいのよ・・・・」
征二のブツを挿入されたまま、鈴子はうわごとのように、ことばを紡ぎだすのです。征二は、なにもいわなくて、鈴子におおいかぶさったまま、首筋を抱きしめ、肌を密着させるのすです。

征二が射精をさせたのは、鈴子の腹のうえ。鈴子の秘芯からブツを抜いてから、何度かこすって、白濁のねばっこい液を、放出してしまうのでした。なかで出してしまうことは、子どもを孕ませることになることを、征二にもわかるから、そのままでは、出してはダメよ、と春子に言われていたのでした。
「金谷さんは、はじめてやったの?」
年下なのに先輩の征二が、征二に背中を向けて下着を着けている鈴子に、聞こえる大きさの声で言います。
「うん、征二くんが、うちの、はじめての、ひとよ」
白いブラジャーの紐が肩に、背中に帯、真っ白なショーツを穿く鈴子に、出血がみとめられて、征二はかなり驚いてしまう。
「ああ、せいせい、したよ、うち、重荷、やったんよ」
18才の鈴子に16才の征二、若すぎるカップルですが、若いエネルギーの関心ごとは、男女の咬合のことです。

数日後の夕方、松倉織物から寿司の注文があって、征二が配達にいき、受付で鈴子と顔を合わせます。征二は、鈴子と顔を合わせることを予想して、どのようにふるまおうかと、ドキドキしていました。これは鈴子にも云えて、年増の主任さんが寿司を注文している電話の声を聞いて、征二が配達に来たら、どうしようかと思って、胸が詰まるほど、目の前がくらむほど、緊張していたところです。
「まいど、ありがとう、ございます!」
受付で征二が大きな声で、配達に来たことを告げるまでもなく、鈴子と年増の主任さんとは面識があります。詰襟の学生服を着た征二が、三段重ねの丸い寿司桶を、カウンターのうえにおいて、鈴子の顔をちらりと見たけれど、鈴子は、うつむいていて、征二の顔を見ようとしないのでした。そうして征二がカウンターから離れて帰ろうとしたとき、鈴子が近寄り、無言で二つ折りのわら半紙メモを、征二の手に握らせたのです。メモは鉛筆で、ありがとう、また、あいたいです、と書かれてありました。






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最新更新日 2014.3.15


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