耽美試行

さくら協奏曲(1)

 1〜5 2014.2.6〜2014.2.13

    

(1)

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小説というもの、作り話ですが、案外、事実に基づいていて、その事実を作者のアレンジによって、物語風に仕立てられて読み物となる。その事実は、作者が言葉にして語る、あるいは文章にして書き記すことによって他者に伝えられる。このことを表現行為といいます。作者の内面、興味の中心を、書き連ねて、おおむねその興味は、性にまつわる事柄で、登場人物は、男と女。男と女の心の交情、それにともなう身体の交感、こういったことが組み合わされて、ものがたりとなってきます。

かって奇譚クラブという雑誌が巷に現われていた時代、1950年代、征二は小学生でした。漫画の本、それに怪人二十面相という読み本が、手許にありました。月刊誌、「少年」とか「ぼくら」とか小学生男子の読む本が本屋さんに並べられていていました。そのような本に交じって、奇譚クラブ、風俗草紙、そういう名前の本がありました。読んでいたというより見ていたというほうが正確かもしれませんが、はだかの女の人が縛られている絵。どうしてその本、数冊ですが、征二のめのまえにあったのか。学校から帰ってきて、本好きの征二が、明智小五郎とか小林少年の探偵団をイメージ想起しながら、裸体、半裸の女の絵をみて、なにかしらわくわくする感情を抱いて見ていたと、それらから半世紀以上も過ぎ去った現在、思い起こされてくるのです。

明治の文豪森鴎外に「ヰタ・セクスアリス」という文章が残されています。ウイキペディアの解説によると、<文芸誌「スバル」7号に掲載された当初は政府から卑猥な小説だと考えられ発禁処分を受けてしまうが、実際には性行為が直接描写されていることは無く、主人公の哲学者・金井湛(かねい・しずか)が、自らの性的体験について哲学的視点から考える内容となっている。>、これは明治42年のことでしょうか、あらすじはこのような小説で、征二は、これは森鴎外の告白だと学び、小説「舞姫」は実体験だと学びました。

征二は、文学者でもなんでもない現代に生きる市井の一凡人にすぎない男です。この征二が妄想するイメージの原点には、小学生のころに読んで見た、怪人二十面相と奇譚クラブの画像、そのイメージが想い起こされていて、ここに耽美遍歴を小説風に書き綴っていこうとしているのです。今風に、時代は明治のころを想定した時代小説、いえいえ、現代小説、風俗小説、官能小説。云い方いろいろあるようですが、これはリアルロマンノベル、自然浪漫小説とでも名づけておこうかと思います。


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征二の女遍歴は、ただごとではありませんことで、16歳のころに目覚めた性遍歴、年上の女に可愛がられていました。16才、この年、高校生になった征二が、近所のアパートに一人住まいのお姉さんに、かわいがってもらうのでした。お姉さんは征二より5才も年上で21才で、名前を清田春子といいました。アパートの小さな張り紙のような表札には、清田春夫と書かれていて、征二が、なぜ男の名前にしているのかと尋ねると、女の一人暮らしは危ないから、といわれた征二だけれど、その意味がつかめなかった。アパートの名前は清心荘、二階建て、真ん中に廊下があって、四畳半の部屋が左右に並んでいて、春子の部屋は、階段をあがった二階、右にむいて右側二つ目の部屋、窓は西向き、クーラーのない部屋の夏の午後は、むし暑くって汗がびっしょり。

汗びっしょりになりながら、春子の棲む四畳半の部屋へ、導き入れられた征二です。
「ベートベンは、高校生でしょ、いいわねぇ」
白いシュミーズだけで下にはズロースを穿いているだけの春子が、もぞもぞしている征二に話しかけてきます。征二は高校1年生、その夏の出来事です。春子は15才で、長崎の中学を卒業すると同時に、京都へ集団就職してきて、最初の縫製工場には半年しか勤められなくて、それから、お寿司屋さんの裏方、喫茶店の店員、レコード屋の店員、と職を転々としたと言っていて、そのときは千本京極のレコード屋の店員でした。
「ベートベンはどんな仕事するんやろね」
「やっぱり、音楽かな、音楽家になりたいと思うんだ」
レコード屋の店員をしていた春子は、征二のことを、ベートベン、と呼んでいます。べぇとべん、訛りのある発音で、征二のことをそのように呼ぶ春子は、すでに二十歳を越えていたから、大人びてみえたのは、征二がまだ子供みたいな思春期を過ぎたころだったからでしょう。

春子のシュミーズ姿、透けて見えるズロース、征二は奇譚クラブの挿絵を思わせるその姿態に、胸をドキドキさせるのです。
「うううん、いいのよ、わたい」
「いいって、なにが、いいの」
「ベートベン、好きだよ、だから、いいのよ」
征二には、いいのよ、の意味がつかめていない、女が男をめのまえにして<いいのよ>というとき、それが性交におよんでも<いいのよ>という意味だとは、わからなかったのです。
「だから、ベートベン、ああっ、いいのよ」
畳に膝をずらせた女すわりの春子は、征二の手をとり、顔へあてさせ、そうしてシュミーズのうえから乳房に手を当てさせたのです。窓から太陽の光が射しこむ四畳半、汗ばんだ征二の手が、春子の乳房にふれるのでした。


-3-

征二に性知識がなかったわけではなく、自慰、マスターベーションは中学生になってしばらくして覚えました。自慰とか手淫とか、そのときには奇譚クラブの挿絵が、あたまにちらついていたから、無自覚のうちにも性への目覚めがおこっていたのでしょう。ふとしたきっかけで春子と出会い、アパートの部屋へ連れていかれたのでした。
「いいのよ、ベートベン、わたい、いいのよ」
シュミーズのしたには乳房が透けてみえ、淡い茶色の乳首が、征二はドキドキと胸を高鳴らせるのです。男子も16才、本能なのでしょうか、女を求めて、妄想していたけれど、いざ女を目の前にしてどうすればよいのか、うろたえるばかりです。
「ねぇえ、わたい、ベートベンみたいなこ、好きだよ」
征二の手をとり、シュミーズのうえから胸に当てさせ、素肌のなかへ素手をいれさせ、春子は、うっとりと気が抜けたような表情になってしまうのでした。

征二は、目の前にいる春子にたいして、どうすればいいのか、わからなかったのです。春子のほうはもう二十歳を越えていたし、大人だし、あとでわかることですが、勤め先の旦那の妾であったし、アパート清心荘六号室も旦那が借りてくれているのでした。
「はぁあ、ああっ、ベートベン、そこ、そこ、そこ」
ズロースを太もものところまで降ろしてしまった春子は、征二が手を挿しいれた股間をまさぐるなかで、手があたり処に触ると、そこ、そこ、と、うわづった声を洩らすのです。征二は触ったところは、柔らかい箇所で濡れている、ねっとりとした濡れ方で、ぬれている箇所でした、夏の西日が這入りこむ四畳半のアパート清心荘六号室。最初の経験は、春子が、立たせた征二のむすこを、口に頬張り、射精させてくれたことです。交合に至るのは、清心荘六号室を三度目に訪れたときのことでした。

言われるがまま、為されるがまま、高校一年生の征二は、シュミーズにズロース姿の春子のまえに立ったまま、ズボンのベルトをはずし、ぱんつをおろし、すでに勃起してしまったむすこを、恥じらう気持ちに満たされながら、春子の口の中へ入れられ、咥えられたままこすられ、スピードがあげられ、びんびんになったむすこが痙攣しだして、精液を放出してしまって、春子の口で拭うわれたのです。征二には、自慰の経験があるから、春子にしてもらうことへの抵抗は感じなくて、いいえ、むしろ、してもらって、なにかしら、うれしくて、はずかしくって、おわったあと、顔を見合わせて、合図をしあった。大人だった春子には、まだ少年だった征二を扱うのに、性急ではなかった征二へ、それでも口に含むところまで、すすめたのでした。


-4-

年上の清田春子を知ったきっかけは、征二が千本のレコード店へ、LPレコードを買いにいったときにいた店員が春子で、ベートーベンの「運命」を買いにって、春子から尋ねられ、話をすすめていくと棲んでいるところが近くで、春子は、清心荘にいるのよ、と教えてくれたのです。女が棲んでいるところを教えてくれるということは、訪ねてきてもいいよ、という意味があるということを、誰かしらから教えてもらったいたから、数日後の午後、征二は清心荘六号室のドアをノックしたのです。暑い日の午後、西日が這入りこむ春子の部屋は、壁際に女の道具がならんでいました。鏡台、お化粧道具、ちり紙の箱、ちいさな卓袱台、トランジスタラジオ、洗濯した白い下着、ズロースとブラジャーとシュミーズが、窓辺に渡したロープに、干してありました。

中学を出て、集団就職で大阪にやってきてから五年、何度か仕事を変えて京都に移り住んだのは、旦那とめぐりあって、妾になって、19才のおわりのころ、京都の北野の清心荘へと引っ越してきたと、春子がいうのでした。
「旦那さんわね、週に二編、ここにやってきて、わたい、お相手してあげて、お帰りになるのよ」
征二には、そのお相手するという内容が、そのときには、具体的なことがわからなかった。女が男を相手にしてあげる。それは男の性の欲望を満たしてあげるそのことで、具体的には、のちに征二が初体験する交合、男女の交わり、性欲を満たすこと、男と女がいる場所で、なりゆきでそうなっていくのは、自然の姿なのかも知れません。
「わたい、旦那さんのこと、あんまし好きじゃなくなったのよ」
「じゃあ、ぼくのことは、好きなの」
「そうね、ベートベンのことが、好きになったのかも」
二回目の訪問は、一週間のちの午後でした。最初の日の帰り際、次の約束をして、その日がやってくるまで、征二は、楽しみなような、怖いような、かたときも春子の姿が脳裏から消えないのでした。

性の時間へはいるのにタイミングがあるとすれば、二回目に征二が訪問したときには、そのタイミングというもの、もちろん征二にはつかめなかったし、春子のリードですすんでいくのでしたけど、春子にしても年下の高校生だから、それにいつも求められる側だから、求めるタイミングがわからないといえば初心すぎるでしょうか。抱きあうには夏の午後の部屋では暑すぎて、それでも、春子は、このまえにした征二のむすこ吸いを施して、それからじぶんのからだ、股間を弄らせ、喘いでいくのでした。征二は、射精させてもらった後だったから、勃起はしたけれど、気が動転してしまうほどのことはなくて、言われるがままに、春子の陰部に指をいれ、拭うようにして内部をこすっていくと、こする摩擦に呼応して、春子が悶え呻いて、喘ぐのでした。征二には、春子の秘密、女の秘密を垣間見て、ふしぎな気持ちになっていくのでした。


-5-

その日は曇り空で、お盆を過ぎたとはいえ、まだまだ夏で四畳半の畳部屋、むし暑さに満ちています。征二が部屋を訪ねたとき、春子は手拭いで首筋の汗をぬぐっていたようで、お化粧をしない素の顔、頬が紅潮してました。いつも春子は、部屋にいるときはシュミーズ姿で、木綿のズロースを穿いてるのでしたが、この日もまた白いシュミーズとズロースだけの姿です。
「ああん、来たん、ちょっと待ってね」
薄い木板のドアをあけると、目隠しの暖簾で、立ったままでは部屋の中が見えないようになっています。征二は暖簾の前に立ったままで目を落とすと、春子の素の足、ふくらはぎから足先が見えたのです。小さな卓袱台をまえに、足を崩して座っていて、中途半端な食事をしている最中でした。
「はいってもええんやろ」
「うん、ええんよ、ちょっと待ってね」
午後の四時過ぎ、春子の食事は、お茶漬け、おかずは漬物、征二が入ると、あわてたように茶碗に残したご飯を食べるのでした。征二は、春子の乳房が気になります。16才の征二には透けて見える21才の春子の肌が、情欲をそそるとまではいわないけれど、女を見る好奇心に満ちるのでした。

うちわで扇いでも、汗が流れでる暑さでべとつく肌、春子のシュミーズ姿を見る征二には、からだの奥底からこみあげてくる性欲がおこっています。それは春子にとっても、若い男子のからだを弄って、しかしまだアクメへ昇りきれないいらだたしさもあるのです。
「いいのよ、ベートベン、きょうは、いいのよ」
征二には畳のうえへ座るようにいい、春子はそのよこに仰向いて寝そべります。征二のズボンを脱がせ、ぱんつだけにさせ、春子はズロースを脱いでしまって、シュミーズのすそをめくって下半身裸になってしまいます。
「ねぇ、ベートベン、わたい、抱いていいのよ、抱いて・・・・」
征二はぱんつを脱ぎ、ランニングシャツだけの姿で、春子を見ます。征二には、ズロースを脱いで、足をひろげた春子を見たのは、このときが初めてです。太もものつけ根のあたりには黒い毛が茂り、その下部、双方の太もものつけ根の合間にみえる縦割れの唇。征二の胸が高鳴ります。女、女体、初めて見る春子の性器です。征二は、目の前真っ白、あたりの風景なんて目に入らない、ただ春子の下半身だけが、目の前にあるのです。
「なかでだしちゃだめなのよ、いいわね、でるまえに、コンドーム、つけてあげるから」
春子はもう上気している感じで、征二の腕をひき、開いた足のあいだに導き入れ、征二のむすこを握って、うわごとのようにいうのでした。

征二は、青年男子の本能なのでしょうか、春子に導かれるままに、勃起したむすこを春子のヴァギナに挿入します。ぶすっと入れたとたんに、征二は、胸が熱くなり、女のなかへ入った感覚に酔う感じです。
「ああっ、あああっ、ベートベン、ああっ、ああっ」
征二はぶっすり挿入したあとは、抜いて二度めの挿入、抜いて三度めの挿入、春子のうえにかぶさって、春子は太ももひろげきり、膝を立て、征二が侵入しやすくするため、尻を微妙にずらせます。
「ううっ、ううううっ」
征二は、ぐっとこらえて、いまにも射精してしまいそうになって、出ることを春子に告げます。春子は、征二を退かせ、用意してあるコンドームをかぶせてやり、征二の根元まできっちり包み込ませて、ふたたび、挿入させるのでした。征二は、それから数回、挿して、抜いて、ぐっとこみあがってきて、挿しこんで一気に射精させてしまったのです。春子は、呻き悶えたけれど、オーガズムを迎えるところまでには到りませんでした。








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最新更新日 2014.3.15


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