物語のブログ


愛の物語-2-

 9〜16 2018.12.23〜2019.1.10

 

-9-
 妻を病気で亡くした男だから、女を求めるからといって責める者はいません。卯水の女将だって、啓介が独り身になっているから、女を漁ることをむしろ喜んで迎え入れています。茂子は、可愛いから、女将も可愛がってやりたい気持ちだけれど、それは啓介という立派な男がいるから、お人形のように眺めているだけにとどめているんです。四畳半の啓介と茂子は、たっぷりと夜半まで行為を続けます。若い茂子は体力が余っているから疲れを知らないけれど、四十になる啓介は、それなりに減退を覚えるから、テクニックを使って、茂子をよろこばせていくのです。茂子は、啓介と卯水旅館の女将に囲われた織物会社の織子です。茂子は茂子で、加悦の田舎から京都に出てきて、織物の仕事をしながら美味しいものを食べに連れていってくれる専務啓介に感謝の気持ちがあります。父親ほどの年の男に、身も心も可愛がられていることを、嫌とは思っていなくて、からだの欲求を解消してくれる男の人として、受け入れているのです。
「さあ、これも、脱いで、しまおうか、茂子」
乳白色の毛糸ワンピースは着たままの茂子に、ショーツを脱ぐようにいう啓介です。茂子がお尻をあげると、啓介が腰の背中から腰の横に手を入れ、お尻からショーツを脱がし、太腿の真ん中に留め置くのです。留め置いたショーツ越しに、啓介は、茂子の股の間を見ます。毛の手入れをさせていない茂子のソコは、黒いちじれ毛におおわれています。毛深いというほどでなないけれど、薄くもない恥毛が縦の唇のわきにもチョロチョロと生えているのです。
「ああ、専務さん、そんなにみちゃ、恥ずかしい」
ショーツは膝までおろして、股布がその真ん中にあります。乳白色の毛糸ワンピースは前をもちあげ、首後ろへまわさせ、そうして腕を抜かれて脱がされてしまいます。残る下着は肩紐があるシュミーズ、ブラジャーはつけていない茂子です。
「可愛いね、茂子、きれいな肌してるねぇ、スベスベだね、いいねぇ」
啓介は、膝立になって茂子を紫檀の座敷机からおろして座布団に座らせます。まだショーツを膝にとどめたまま、シュミーズを身につけた茂子を、横から抱きにかかる啓介です。
「ああ、専務さん、わたし、きれい?、そんなにきれい?」
「うん、うん、茂子、むちむち、にぬきのようにスベスベだよ、ねぇ」
啓介は左腕に抱いた茂子の、艶めかしい姿態を、確認しながら、シュミーズをすりあげ、乳房を露出させてしまいます。あぐら座りから足をひし形にした啓介です。茂子は、ひし形足のなかにお尻をいれる格好になります。左腕に抱かれ、右手で肌を撫ぜられていく十八歳の茂子です。

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 左腕に茂子の背中を抱いてやり、右手で乳房や首筋を愛撫しながら、シュミーズの前をめくりあげ、首の後ろにまわさせて、胸から足先までを露出させてやる啓介。腕の中の茂子を抱き上げ、ツンと起った乳首を唇に挟んでやり、もぐもぐさせて乳首に刺激を与えていく啓介です。十八歳の茂子は、啓介のなかで、喘ぎはじめます。ちろちろと注がれる乳首からの刺激に、体の奥が濡れてくるのです。
「ああ、専務さん、ああ、ああ、専務さん」
ぷちゅぷちゅ、乳首を吸う音がして、茂子の淡い声が洩らされて、四十男の啓介は、茂子の姿態に胸の内を締めつけられてしまいます。茂子を三畳の間の布団へと導きます。シュミーズを脱がしてしまうと全裸になる茂子。啓介も着ているものを脱ぎ、裸になります。
「ああっ、専務さん、ああん、あっああっ」
「ほうら、ほうら、茂子、おおっ、濡れてるね、ヌルヌルだね」
ふかふか新婚さんが使うセミダブルの布団に茂子を仰向きに寝かせて、股間に右手を入れる啓介です。まだ咲ききっていない蕾のなかへ、そっと右手の中指をいれ、そのしっとり具合を確かめるのです。茂子は、啓介が導くままに、仰向いたままで右手を、啓介の腰からの勃起ブツを握っています。
「ああっ、専務さん、ああん、専務さん、おっきい、ああ、ああん」
指をヴァギナに入れられながら、啓介の勃起ブツ握って揺り動かす茂子です。啓介が茂子の上半身を起こさせ、足を投げ出して座った自分の腰へ、茂子の顔を埋めさせます。茂子は、啓介の勃起ブツを顔に当て、頬に当て、そうして先を唇に挟むのです。三畳の間は敷かれた布団でめいっぱいです。枕もとの衝立の後ろに、女将が出しておいたボストンバックが置かれています。啓介が、茂子を可愛がる道具類が、詰められているボストンバックです。道具を使ってやるのは、まだ先のことで、啓介は、じわじわと、茂子の体をなぶりながら、溜まった男の欲望を解消していくのです。
「茂子、ほら、口に頬張って、そうだ、唇で擦るんだ」
「はぁああ、専務さん、咥えちゃう、わたし、ううっ、うぐうっ」
顔を啓介の腰に落として、勃起ブツを口に咥えだす茂子。茂子は四つん這いの格好で、布団の上に足をひろげた啓介の前です。両方の手で啓介の勃起ブツを挟んで、陰茎の上半分を突き立てて、口の中に頬張るのです。
「ううっ、ふうう、ううっ、ふうう」
全裸で四つん這いの茂子は、顔をあげ、口から陰茎を抜きあげます。そうして顔をおろし、口の中に勃起ブツを挿し込むのです。
「ああ、いい、いい、茂子、いいぞ、いいぞ」
「ううっ、ふううっ、うう、うう、ううっ」
勃起ブツを口の中へ頬張らせ、抜いて亀頭を舐めさせて、そうして口の中へ挿し込ませる茂子です。啓介は、四つん這いでうつむいた、茂子の脇腹から手をさしいれ、乳房を弄ってやります。下になった乳房は垂れさがるのではなく、お椀のままです。啓介は、乳房を弄りながら、乳首を指に挟みます。ぎゅっと指を絞ると、茂子は、勃起ブツをぎゅっと握り返してきます。
「ほぉおおおっ、茂子、おおおおっ、ああっ」
啓介は、太腿を思いっきりひろげて、腰の勃起ブツを完全に独立させて突き上げます。茂子は、啓介の勃起した男のモノを、唇と舌でなめあげ、唇を絞めて上下に陰茎をこすります。
「ほうら、後ろ向きだ、茂子、ほうら」
全裸の茂子を、啓介にお尻を向けさせ、後ろ向きにさせます。そうして啓介は、茂子の太腿に外側から腕を入れこみ、お尻を引き寄せるのです。茂子のヴァギナを、啓介は目の前にまで持ってこさせて、顔を当て、唇をソコへ当てこすります。茂子を、臀部から八の字に、太腿をひろげさせる啓介なのです。

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 後ろ向きの四つん這いにさせた茂子のソコを、口にてなめた啓介は、茂子を仰向かせて寝かせます。全裸の茂子は、ふかふか布団の上で仰向いて、啓介を迎え入れるのです。
「ああ、専務さん、専務さん、ああっ」
「うんうん、茂子、こえ、だしても、いいんだよ」
「はぁああ、ああん、ああっ」
仰向いて膝をたて。太腿をひらいた茂子の間に座る格好で腰のモノを、茂子のソコに挿し込みだしたのです。頭を茂子に挿しこみ、そのまま茂子の裸におおいかぶさる啓介です。
「茂子、おおっ、茂子、かわいいな、茂子」
啓介は、茂子にかぶさって、勃起のモノを挿し込んだまま、茂子の脇腹から左の腕をいれます。茂子を抱く格好で背中にまわし肩に手の平を置きます。右手では、茂子の腰から乳房を弄りながら、腰を動かしていくのです。
「はぁああ、ああん、はぁああん、あん、あん、専務さん、ああん」
十八歳の茂子は、無意識に喘ぎの声を洩らします。四十になった男の啓介に、抱かれ愛玩されているのです。男のモノが茂子に埋められ、茂子がもぞもぞと女を発揮してきます。卯水旅館の寝室三畳の間は密室です。襖を閉じて男と女が密着します、交合します。
「はぁああん、あっ、あっ、ああ〜っ!」
最初の頃は声を出さなかった茂子でしたが、慣れるにしたがって、その快感がわかるようになってきて、男の腕の中で呻き悶えて喘ぐのです。
「おおっ、茂子、いいねぇ、柔らかいねぇ、ぽたぽた、いいねぇ」
「ああん、専務さん、ああん、いい、いい、ああっ」
茂子は、啓介からの刺激で体の中からトロトロの液を汲み出してきます。茂子が発情してくるその体液が、男の啓介にはたまらなく愛くるしいのです。
「あああああ〜っ!」
茂子が、まだそんなに深くはないがオーガズムを迎えるようになったのは、最近のことです。体は女として妊娠もできる年だし、生々しいから、啓介に可愛がられれば可愛がられるほど、美しさが増してきます。茂子が織子として勤めている泉織物の専務啓介が、茂子を見染て給料以外に給金してやっているところです。茂子は、男にすがることを別に悪いことをしているとは思っていません。とはいえ専務啓介とのことは内緒にしていて、知っているのは卯水旅館の女将玉枝だけです。
「お嬢ちゃん、いいねぇ、かわいがってもらえて、いいねぇ」
茂子が啓介の用事を言い遣って玉枝を訪ねてくると、玉枝は茂子に、啓介に可愛がられることを、嫉妬心もまじえて言ってやります。茂子が顔を赤らめさせるのを、みてやる還暦を越した女将の奥田玉枝。玉枝は元花街の芸子でいまは旅館の女将を生業としているところです。

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<京子>
 水曜日は、京子には夕方六時まで機織りの仕事をしているから、誠二と会うために、八時に白梅町の喫茶店へいくには、急がなければなりません。というのも夕方六時に織機が止められますが、会社で賄ってもらっている食事をして、七時半には出ないといけないからです。いったん宿舎になっているアパートの部屋に戻り、洋服をよそ行きのに着替えて行きたいから、テキパキとしなければ間に合わないかも知れないのです。あまり要領がいい方ではない京子は、それでも定時制高校二年生の誠二に会うために気をそちらに向けます。急がなくっちゃあ、仁和寺街道の千本から白梅町まで、速足で歩いて十五分はかかるから、紅色のフレアスカート白いセーターを、その上に茶色のコートを着て、足早に白梅町の喫茶ホワイトへと急ぎます。
<誠二さん、くるんかなぁ、くると思う、まだ八時になってないもん>
白基調の壁で明るい感じの喫茶店だけど天井は緑と赤と紫の光が当たっています。二階の窓際の席に座った京子は、壁の丸い時計を見て、七時五十五分だと確認します。まだ約束の八時にはなっていません。窓からは、暗くなった交差点の風景が眺められます。ヘッドライトを点けた自動車が向こうからやってくるのがわかります。向こうへ行く自動車はテールランプが赤いのもわかります。
 京子には、年下の中野誠二と待ち合わせをして、喫茶店で会うのは初めてです。男子と待ち合わせをして会うということが初めてなのです。こうすることをデートといいます、と二年前、十六才のときに京子は習ったけれど、織子をしていてまわりは女子ばかりです。男子と巡り合うことが無かったのです。寿司屋に住み込みで働きながら夜間高校に通っている誠二を、京子は、かっこいい、と思うのです。革ジャンバーを着て、小さいながらも単車に乗っている誠二です。嵐山にまで夜の街を疾走した京子には、夢と希望が芽生えてきたというところです。窓の下に単車を止める誠二の姿を、京子は見ます。胸がドキドキしてきます。革ジャンバーを着た誠二が、店に入ってくるのを見て、そのまま待っている京子です。
「ああ、西上さん、京子さんでいいのかな、来てたんだ」
「こんにちわ、ちゃう、こんばんわ」
誠二は、階段を上がってきて、京子が座る椅子のまえのテーブルに皮の手袋を置いて、声をかけてきます。京子が、挨拶を返します。
「なんか、注文したん」
そういえばお水を入れたコップを運んできたウエイトレスの子に、注文は少し待ってもらっていたところでした。ウエイトレスは京子と同い年ぐらいに見える女子。誠二があがってきて、まもなく、あがってきて注文を取るのでした。
「おれ、コーヒー、濃いやつ」
「わたし、ミルクとケーキ」
誠二はコーヒーを頼んだけれど、京子はコーヒーは苦くて飲めないから、ミルクにしてケーキを頼んだのです。

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 京子は、目の前にいる誠二の顔を、見つめることができなくて、テーブルに目を落としていて、ちらっと顔をあげるのです。誠二は、京子を見ていて、心が揺さぶられてきます。ピンでとめた髪の毛で、耳が見えるんです。白いセーター姿の京子です。スカートは紅色の京子です。注文したコーヒーとミルクとケーキがひとつ、ウエイトレスの子が運んでます。並べてもらって、誠二が、京子にいいます。
「ミルクとケーキって、子供みたいやね」
「そうかも、わたし、こどもかも、知れへんよ」
「おれ、ここのコーヒー、濃くって、苦いけど、おとなの味なんだ」
「おとなの味って、どんなあじなんかなぁ、わたし、わかれへん」
「まあ、こどもとちがうってこと、おとなの味なんだよ」
「この前、嵐山、行ったでしょ、わたし、また、行きたい、あっちこっち」
単車に乗せてもらって、ドライブに連れて行ってほしいと京子がいいます。誠二は、いいよ、と承諾します。
「でも、寒いからなぁ、いいんかなぁ、京子は、寒いの大丈夫なの」
「大丈夫よ、寒さなんて、へっちゃらよ、誠二くん、頼もしい」
「ありがとう、京子は、かわいい、お人形みたいやね」
「そう、ありがとう、わたし、お人形かも、ね」
京子は、誠二の顔を見ることができるようになって、顔をじっくりみて、男前や、と心のなかで呟いたのです。優しそうな顔、でも男らしい気がする。
「わたし、高校へ行きたい、誠二くんの高校にいきたい」
「定時制やから、年とってても来てる人、いてるから、京子も来れるよ」
「わたし、中学で、成績、良かったんよ、でも、高校なんていかれへんと思ってたから」
「おれだって、京都に出てきて、住み込みで、学校、通わしてくれるとこ見つけたから」
京子は、誠二に恋心を抱きだしているんです。誠二は、選ぶなら、茂子より、京子を選ぶ、という思いがわいてきます。おとなしいところが誠二にはお気に入りという感じです。
「映画、見るん?、誠二くん、わたしわ、千本日活、よく行くよ」
「おれ、映画見る時間が、あんまりないんよ、あんまり、見ないけど、裕次郎、かっこいいなぁ」
「誠二くん、裕次郎みたいよ、かっこいいんだもん」
京子は、誠二と話をしていて、急速に親密になっていく感じがして、気がわくわくしています。誠二のほうも、京子に惚れてきているから、心はうれしい感じです。初恋、とはいわない、けれど子供の恋心とはちがった感覚で、相手を見始めているようです。

-14-
 京子が白梅町の喫茶店を出たのが九時過ぎでした。まだまだ一緒にいたい気持ちでしたが、後ろ髪を引かれるとはこういう時の気持ちをいうのでしょうか。でも、京子は、誠二と約束を交わしたのです。次も水曜日の八時に、喫茶ホワイトで待ち合わせることになりました。京子の方が日曜日が一日空いているけれど、誠二の方は日曜日は寿司屋の出前などがあって忙しくて休みにはならないのです。寿司屋の定休日は火曜日ですが、京子は織子の仕事だし、誠二と会うわけにはいかないのです。
「送ってってやるよ、後ろに乗りな」
革ジャンバーを羽織った誠二の後ろをまたいで座って、誠二の背中から抱きついて、単車が発車です。京子はスリルを感じながら、寒い風は誠二が除けてくれるとはいっても、頬が冷たくなります。五分とたたないうちに、京子がいる渚アパートの前に到着してしまったのです。電柱の電気の明かりで暗くはないけれど、京子は、手袋をした誠二の手を握って、さようならをしたのです。
 京子が靴を脱いで、アパートの二階へ行く階段をあがっていくと、茂子に声をかけられたのです。茂子は、京子が帰ってくるのを待っていた様子で、京子に部屋へ入るように導かれたのです。
「なに?、どうしたの、茂子、なにかあったの」
茂子の部屋は四畳半。もちろん京子の部屋も四畳半です。生活道具と言っても、電熱器があり、ラジオがあり、お布団をたたんで入れる半畳のドアがない押し入れがあるだけです。衣文掛けに洋服を吊るしていて、下着は箱に詰めている茂子です。それは京子も同じで、泉織物の寮はアパート形式の個室です。
「京子、単車に乗せてもらって、あの子でしょ、どうしたのよ」
「べつにどうってことないけど、水曜日に、会う、そういうことになったのよ」
「お寿司屋さんの丁稚でしょ、年下よ、いいなぁ」
「茂子は、どうなの、専務さんと怪しい関係だって、噂してたよ、ほんと?」
「まあ、京子には、わかんないと思うけど、ほんとなの」
茂子は、京子を部屋に導きいれたのは、淋しかったからだと、釈明するのでした。それに、茂子は、専務村田啓介との関係を職場で噂されていることを知っていて、なのに淋しい気持ちになっていて、親友の京子に心の救いを求めてきたのでした。
「みんなが、わたしの持ち物が違う、というのよ、上等なもん、持ってるってゆうのよ」
妻を亡くした専務の啓介が、茂子に身の回り品を買う金を与えているから、若い織子には不似合いな装飾品を持っているので、そういう噂が広まっているのです。なにせ土曜日の夜には、職場の近くで飲食し、旅館へ行くのですから、誰かに見られているのかも知れないのです。
「そうゆうたら、そうやわ、茂子、上等なもん、持ってるわ、気、つかへんかった」
「京子は、のんびり屋やし、おませちゃうから、わからへんのやけど」
「そうなんや、お化粧の仕方、茂子に教えてもらおかなぁ」
「お化粧の仕方やったら、スエヒロのきみこ店長さんに教えてもろたらいいよ」
茂子の身だしなみに、京子は羨望の目でみていたのは確かでした。十八歳の茂子なのに、可愛い顔立ちなのに、もう立派な大人の女を装っている感じが、京子にはするのです。その京子は、誠二と向きあうようになって、お化粧もしていない自分に気がついて、どうしたらいいのかわからなくなっていた矢先です。

-15-
 京子は、ひとつ年下の誠二に恋したようで、外気は寒いのに、気持ちはふわふわです。中学の時に恋した男子がいたけれど、それは片思いに終わりました。京都へ出てきた16才には、直人という名の年上の男に言い寄られ、神社の木陰で抱かれ、草叢に寝かされ、処女を失った経験があります。でも、これは一回限りで恋にはならず、労働者だった直人は京子の前から姿を消してしまって終わりました。その京子が、茂子に気持ちを打ち明けたところです。
「京子、誠二って夜間高校通ってるんだから、努力家なんよね、いい子じゃない」
茂子は、専務の啓介と一緒にいて、からだを求められるままに渡しているから、その分、女として大人っぽいところがあります。その茂子が、京子から誠二と喫茶店で会ったことを話したから、茂子からは羨望の目で見られたのです。京子には、茂子が専務啓介と深い関係にあるとは知らないから、優越の気持ちを抱きます。
「なかなか、会う間がないのよ、誠二くんと、逢引したいけど」
逢引というのは、男と女が惹かれあって逢うということだから、京子がこの言葉の意味するところを、どれだけわかっているのかはわかりません。男とのことは、京子には、一回だけの経験ですが、未経験ではないし、小学校や中学校で女のからだについて話を聞いているから、そのことはわかっています。でも、いま、誠二をそういうふうには求めていません。
「だめよ、京子、誠二くん、好きになってもいいけど、やっちゃだめよ」
「そうだよね、やっちゃ、だめだよね、でも、まだ、そんなとこまでいってない」
「男は、心で、なにを思ってるのか、わかるでしょ」
「わかんないよ、そんなこと、わかるわけないよ」
「じゃ教えてあげる、男はみんな狼よ、っていうじゃない、やりたいのよ、みんな」
「やりたいって、そんなふうには見えないけど、誠二くん」
茂子の部屋には鏡台があります。鏡の前には着物生地つくった紅い前隠しが下ろされていて鏡は見えないけれど、その艶めかしい前隠しの色が、女ごころを大人にします。京子の部屋には手鏡があるだけで、姿を見る鏡がありません。シュミーズやブラジャーなどの下着、ズロースやショーツも、茂子は、何種類も持っていて、柳行李に並べて詰めているのです。京子は、茂子の下着が詰まった柳行李のなかを見せてもらって、女の嫉妬する気持ちがふつふつとわいてきます。
「ねえ、京子、京子も、お化粧して、服も買って、おしゃれしないとだめよ、ねぇ」
「わたし、わかれへんわ、なにが似合うのか、わからへん」
「白いシュミーズ、白いズロース、京子のは、地味すぎるよ」
茂子は、白い色の下着も、少しだけ色に濃淡がある種類で揃えて持っています。もちろん、専務の啓介から貰うお金で買い揃えているからです。

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 茂子が教えてくれたランジェリーのお店へいくと、透けたネグリジェや透けたショーツなどがありました。お給料をもらって、それらを買い求めるにはちょっと高めなので、買うのをためらったけれど、黄色いショーツとブラジャーのセットを買い求めました。その専門店は千本西陣京極の映画館の隣のお店で、ショーウインドウは明るい洋服のマネキンが置かれています。間口一坪奥行二坪ほどの洋装店で、おそるおそるの気持ちで、京子が入っていくと、若い女の人が、迎えいれてくれます。
「いらっしやい、初めての子ね、ゆっくり、見てみたら、いいよ」
まだ若い女の人は、少し派手目のセーターにズボン姿、髪の毛はパーマネントを当てていて、流行りの格好をしています。なにかしら男の人のようにみえたけど、女の人には違いないので、京子は、目を見張ります。
「お勤めの子ね、織屋さんの子ね、どこで仕事してるの」
「はい、泉織物にいるんですけど、わたし」
「そうなの、泉の子なの、可愛いわね、いくつ?」
「18です」
明るいお店の中は、ランジェリー、下着の類が豊富に揃っていて、京子は、ナマに目の前でそれらを見るのが初めてだったから、目を輝かせて驚きを隠せません。
「わたし、ユミってゆうの、あなたの名前は?」
「キョウコ、京都の京に子供の子、西上京子」
「そう、京子ちゃん、男の子、いるんでしょ?」
「そんなぁ、まあ、わかんない、わたし」
「女の子が、ね、興味を持ちだすのは、男のせいよ」
「はぁああ、わたし、好きな人、いるんです」
京子は、もぞもぞ恥じらいながら、誠二の顔姿を思い描きながら、ユミに告げたのです。
「最初はね、これくらいがいいかなぁ、京子ちゃんには、これくらいかなぁ」
透けてはいないけれど、ゆるくてふわふわな感じ、ピンクのブラジャーとショーツのセット。それの白いシュミーズを合わせて、透明ガラスのショーケースのうえに並べ、京子に勧めてくるのでした。
「こんなの着てたら、男の子、喜ぶんよ、たいがい、ね」
「そうですか、わたし、男の人のことわかんないですけど、喜ぶんですかぁ」
「わたしのお店、男性が喜ぶ品物ばかりを、揃えているのよ」
女が男を喜ばせる、という表現をユミの言葉で聴かされた京子は、これまで封印されていた気落ちを揺さぶられてしまいます。京子は、店長のユミに勧められるまま、下着セットを買い求めたのです。支払いは、お給料が出てからでいいと言われ、ツケ買いしたのです。



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最新更新日 2019.1.16



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