物語のブログ


秋立ちて-5-

 33〜38 2018.11.26〜2018.12.2

 

-33-
 八畳間のダイニングキッチンのテーブルでワインを飲みながら食事をする多恵と良一だ。システムキッチンは深いグリーン系で部屋の雰囲気に合っている。明るい部屋を一段落として暗くする。ほろ酔い気分になっていて、薄暗くなった採光が目になじむ。
「それで、小説を書いてるって、どんな小説なの」
多恵が興味を引いたので良一に訊ねる。良一はワイングラスを手にして、男と女の物語だ、と言う。
「それで、どんなストーリーなの、興味あるわ」
「まあ、それは、男と女の物語ですから、男と女が出てくるんだけど」
「まあ、まあ、そうなの、それで、ピアノを弾いているって、趣味で弾いてるの?」
「趣味じゃないですけど、仕事でもないですよ、小説もピアノも」
少し酔いが回ってきているのか良一は、いつにもなくよくしゃべるな、と多恵は思う。いつも言葉少ない良一だが、ちょっと憂えた表情で、ワイングラスを眺めながら、話している。多恵は、その良一を見ていると、無性に胸が熱くなってくるのだった。ワインのせいかも知れない。お風呂にゆっくり浸かって、からだがほぐれたせいかも知れない。
「ねえ、良ちゃん、ねえ、ねえ、立ってみてよ」
ダイニングテーブルの前の背凭れ椅子に座ってワインを飲む良一に、立ってごらんと多恵が言う。良一は言われるままに、椅子を後ろに引き、立ち上がる。普段着とはいっても清楚なイケメン男子、ジーンズに木綿のボタンシャツを着た良一だ。
「いいこと、目をつむって、わたしがすることに、なにも言っちゃいけないのよ、わかった?」
「はぁあ、おねえさん、どうしたの、急に」
良一には何かしらわかる。男と女の気配が漂っているのがわかる。多恵の前に立った良一が、ワイングラスをテーブルに置いて素手になる。多恵がしゃがみ込む。片膝を床について、良一の腰の太いベルトを外してしまうのだ。
「ああ津、おねえさん」
「黙って、じっとしているのよ、いい子だから、いいわね」
ベルトを外し、腰のボタンを外してやり、ジッパーを下ろしてしまった多恵。そのままジーンズを下ろしてしまって足首にまとめてしまう。上半身はシャツを着ているが下半身、ブリーフだけにされてしまった良一だ。何をされるのか、男の良一は、昔、母に、着替えさせられた記憶をよみがえらせる。多恵が、無言のまま、穿いた濃紺ブリーフの真ん中に、手を当てている。良一は、すでにぷっくらふくらみを盛っているブリーフのうえの手を、退けるのでもなく、なされるがままだ。多恵は、良一が穿いたブリーフを腰後ろの臀部から降ろしてきて、太腿の根元にまで下してしまったのだ。下半身を剥き出しにされた良一だ。多恵が年上だといっても、良一は、子供ではない。性器を女性に露出されてしまって、嬉しさに恥ずかしさに困惑してしまうが、言葉を出すことを封印されたから、良一は黙って多恵の行為を見下ろす。
「可愛いいわねぇ、おっきいわねぇ、立派だこと、良ちゃん」
多恵は、良一の勃起する性器、その下半分を右手で巻くようにして軽く握り、腹へ押し上げ、右頬をその上半分に擦りつける。
「ああん、はぁああっ、良ちゃん、賢い子よね、黙って、お姉ちゃんに、させて、ね」
頬擦りしていたかと思うと、その先を唇にもってきて、挟んでしまって、口の中へと咥え込んだのだ。息をあらげてしまう多恵。息するすうすうの音が鼻にかかる。良一は、腰を前に突き出し、なされるがままに為されていくのだった。

-34-
 多恵はいつにもなくからだのなかがうずうずしていて火照りさえ感じていた。年下の良一をプライベートスペースに招き入れ、そのからだの火照りを解消させようとするのだった。良一は、年上多恵の行いに驚いたが、為されるがままにされるのが得策だと思った。キッチンルームで多恵が自分のモノを勃起させてきて、口に含まれ、手でしごかれる刺激に、独り処理ではない気持ちの高ぶりを感じている。
「はぁああ、おねえさん、ああ、ああ、いい、いい」
びんびん、勃起する自分のモノを突き出し、多恵から頬を擦りつけられ、咥内に頬張られ、茎の皮を擦られる。多恵は、良一の前で恥ずかしさを押さえて母性を発揮していく。
「ふううっ、はぁあああっ、良ちゃん、いいわ、いいわねぇ」
「うん、うん、おねえさん、いいよ、いいよ、いいですよぉ」
多恵は、数分間かけて良一を丹念に弄ったあと、寝室へのドアを開け、良一を導きいれる。多恵の寝室は六畳の洋間だ。木製のセミダブベッドは多恵の好きな淡いピンクの色だ。羽毛蒲団に大きめの枕だ。良一は、導きいれられたとたんに、女の匂いを感じた。柔らかい、生暖かい匂いだ。男の胸が熱くなる。175pの身長で、上にはシャツを着ているが、下半身を裸にした良一だ。多恵はロングスカートの白っぽいワンピース姿だ。ベッドの横に木枠で座部が布張りの肘掛椅子がある。丸くて小さなテーブルは大理石だ。そのテーブルには銀のアームにガラス細工の花ランプが置かれている。
「ううん、いいの、見せてあげたいの、良ちゃんに、見せてあげる、わたし」
良一の手を握った多恵が、躊躇している良一の腰のモノを、余った右の手で軽く握って、目を伏せ、言うのだ。
「ねぇ、抱いて、良ちゃん、わたしを、抱いて、抱いてほしいわ」
スポットライトの六畳間、床は畳一枚分だ。素足の多恵。160pだから良一からみると小さく見える。良一は、下半身を露出させたまま、ワンピースを着た多恵を柔らかく抱く。抱きあう男と女だ。多恵が顔をあげ、うっとりと良一を見上げる。良一の憂えた表情が、多恵にはたまらない情感をもよおさせるのだ。
「ああ、脱がして、良ちゃん、わたしを、裸にして、いいこと」
「ああ、おねえさん、ぼく、どうしよう、どうしよう、おねえさん」
怖いほどに静かな部屋だ。多恵の息する音と良一の息する音が交じり合うだけだ。かすかに電気ストーブの音が漂うだけだ。言葉はお互いを刺激する道具だ。多恵が、良一から離れ、背中のホックを外し、ワンピースを脱ぎだす。男の良一が見ている前で、うつむき、胸を押さえながら、脱ぎ去ると、ショーツにブラトップだけの半裸になる。多恵は、インナーを着けたまま、よろけるように肘掛椅子にお尻を下ろしてしまう。気持ちが浮ついて、立ってられないのだ。椅子に座る多恵を、正面に立つ良一が見下ろすようにして見る。言葉にならない良一の目には、半ば憧れの女でもある多恵が、目の前にいることが信じられない。ベージュ色のブラトップだが、白くて透けるショーツが露出して、白い太腿が眩しいほどだ。立ったままの良一が、多恵に手を取られ、膝まづかされる。まだ閉じた多恵の膝に、顔をつけるように仕向けられる良一だ。
「ああん、いいこと、良ちゃん、もっと、こっちへ、来て」
膝をひろげてしまう多恵。良一の顔を膝の間に挟んで、もっと上へあがっておいでといわんばかりの多恵だ。

-35-
 多恵には見たい願望があるが、見られたい願望も持ち合わせていた。好奇心といえばいいかもしれないが、とくにセックスにはいつも封印をしていて、蓋をしているから、他人の前で露わにすることはない。でも十八歳前後から、セックスに関しての興味が多恵の内面で顕著になってきた。大学生の頃の恋は、すぐに終わったが、それ以来、貞節を守ってきたが、いま、年下の松宮良一を知るようになって、封印を解きはじめた三十五歳の多恵だった。
「いいのよ、いいの、もっと、近くに来て、ほうら」
まだショーツを穿いたままの多恵は、膝の間に良一の頭を挟んで、もっと顔を股に近づけて、という仕草だ。良一は、ほんのり肌のぬくもりを顔に感じながら、顔を多恵のショーツにくっつけてしまう。ザラッとした布の感触が唇に伝わる。股間の重ね布のうえに唇を置く。肘掛椅子に座った多恵は、膝をひらき、太腿をひろげ、臀部をまえへ、ずらしてしまう。股間が斜め上に向けられてしまう。
「ああっ、良ちゃん、ああっ、良ちゃん」
良一の顔が股間にくっつけられ、多恵はその頭を抱いてしまう。ほんのり女の匂いを嗅ぐ良一は、多恵の前にひざまずいたまま、両手の平を膝から太腿の根元にまで撫ぜあげ、太腿のつけ根をひろげようとする。多恵は、肘掛椅子に置いたお尻を少しもちあげ、穿いてるショーツを脱いでしまう。お尻を抜かれたショーツが太腿の根元にまで降りて留められる。良一はすでに腰からしたは?き身だから、なにも隠すものはない。ブラトップを身につけた多恵のショーツが膝まで降ろされ、膝を閉じる多恵の足元に落とされ、外されてしまう。
「ああ、見て、いいのよ、良ちゃん、見たいんでしょ、見ていいのよ」
多恵はうわ言のように、だれに言うのでもなしに、良一に言うのだ。多恵のソコを見た良一は、薄暗い光のなかだけど、多恵の秘密を見るドキドキ感に卒倒してしまいそうだ。
「ああ、おねえさん、足、ひろげて、もっと、ひろげて」
良一が介助する格好で、多恵が太腿からの膝を肘掛に跨がせる。
「ああん、いやよ、あああん、あんまり、みちゃ、いやよ」
多恵は、お尻を前にずらし、股間を斜め上にさせ、膝を丸みを帯びた肘掛に跨らせた。
「うん、うん、みないよ、おねえさん」
良一が、顔を近づけ、唇をくっつけ、押し当てる。多恵は良一がソコへ顔をあて、唇で擽りだしたせいで呻く。
「ああっ、ああん、あぁあ、ああっ」
多恵の寝室は六畳の洋間だ。宮付きのセミダブルベッドに肘掛椅子丸いテーブルが置かれている。柔らかな光が室内を包んでいる。音は無い。音が起つといえば良一と多恵の小さな声と肌が触れていく音だけだ。

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 多恵の欲望は、封印されてきた三十五年を一気に壊してしまうかのように、七歳年下の男子、松宮良一に向けられる。良一は多恵の陶芸作品を店先に置いてくれている土産物屋の店員だ。自分が良家の娘だと、周りが思うほどには良一は無頓着だと感じられ、水平目線で立ち会える好青年だ。小説家をめざし、ピアニストをめざしているが、土産物屋の店員として収入を得ている良一に、惹かれている多恵の心情だった。多恵がプライベート空間に良一を導きいれたのは、欲求を満たすためだといえば、そういうことだ。
「ああん、良ちゃん、ああん、こそばい、ああん」
セミダブルのベッドの縁に置いている愛用の肘掛椅子。その肘掛に、膝裏を跨らせた多恵の股間には、隠すものはなかった。良一が唇をつけてくる。男の荒々しくなった感情が、女の多恵をよろこばせにくる。
「ううん、おねえさん、ううっ、ああっ、いいね」
「ああん、あん、あん、ああっ、うう、ううっ」
「いいんだろ、おねえさん、ヌルヌルだよ、いいんだね」
多恵の股から顔をあげ、ブラトップの裾から手を入れてくる良一が、言葉を紡ぎ出す。
「いいね、おねえさんのからだ、あったかいよ、うるうるだよ」
「いやん、だめ、そんなこと、ゆうたら、だめ、ああん」
良一の目の前には、多恵の股間はがめ上向き、大きくひろげられているのが見える。合わさっていた多恵の秘唇が、良一の唇と舌のせいで、めくれている。淡いピンクがかった唇の内側があらわれている。良一が、ブラトップをめくりあげ、多恵の乳房を露出させる。良一は、多恵が身につけたブラトップを臍のしたの裾からもちあげ、乳房を露出させ、頭から首の後ろへ、めくってしまって留めた。そうしてシャツを脱ぎ、全裸になった良一だ。
「ああっ、良ちゃん、きて、来て・・・・」
すでに良一の腰からのモノは勃起していて、多恵はそれがソコへ来るのを待っている。多恵のうわずった声に良一は、多恵の股の高さに腰の高さをあわせる。そうして多恵が欲求する言葉にあわせて、勃起するモノの頭を挿し込んだ。
「あっ、ああっ、ううっ、うううっ」
多恵が盛りつく猫のように、呻く声を洩らしてしまう。良一は、挿し込んだ局所に濡れた感触を得る。頭を挿し込んで、そのまま半分まで挿し込んだ良一が、多恵の肩に手を置いて、ブラトップを脱がしてしまって、全裸にさせた。そうして、残りの勃起ブツを、根元まで挿し込んでしまう。
「おねえさん、ああ、おねえさん、いいね、いいよ、いい」
「はぁあ、ああっ、ううっ、うう、ううっ」
良一が、多恵が座る肘掛椅子に向き合って座ってしまう。そうして多恵を背中から抱いてしまう。良一からみれば小柄な多恵だ。抱かれて、良一の胸に顔を当て、腕を良一の背中にまわしてしまう。ひとつの肘掛椅子の座部に、多恵の臀部と良一の臀部が乗っている。男のモノと女のソコが密着されて、接合されて、抱きあう。
「ううっ、ああっ、ううううっ、あっああん」
「いいね、いい、いいっ、おねえさん、いいねぇ」
良一が腰を横に揺する。多恵の呻く声が洩れる。多恵の上半身を左腕に抱いて、右手で乳房を弄っている良一。多恵は顔を横にゆすり、喜悦にたえる。からだが燃えだして蕩けていく。
「ああああっ、ベッドへ、ベッドで、ああっ、ベッドでして・・・・」
多恵が、呻くように、横のベッドで寝たいという。ふかふか、多恵か毎夜、独り寝しているセミダブル、ベージュのベッドだ。

-37-
 セミダブルのベッドに多恵が仰向きに寝そべる。良一が多恵の左横で脇腹を下にして寝そべる。良一が多恵を抱く格好だ。敷布はシルクで肌触りはすべすべだ。掛布は羽毛布団でふかふか柔らかい。枕は低くて幅広だ。柔らかいスポットの照明がベッドの下半分を照らしていて明るい。頭の上は宮でランプが置かれている。
「ううん、いいのよ、良ちゃん、用意してあるから、大丈夫よ」
多恵が、良一の右腕に、首後ろから肩を抱かれながら、言う。多恵が言うのは避妊のことだ。ベッドの宮の引き出しに、スキンが箱ごとしまってある。いつかは、こういうことが、あるだろうと多恵が夢想していたことが、いま起こっているのだ。
「ああ、おねえさん、ぼくは、こんなこと、いいんだね」
「そうよ、いいのよ、良ちゃん、いいのよ」
寝そべったまま、良一に抱かれた多恵が、ゆっくりと、小さな声で、囁いた。良一は、願ってもないこと、多恵と男と女の関係になるなんて、空想はしていたものの、現実となっては、たっぷりと受け入れる嬉しさだ。良一が肌を弄ってくる。硬い感じの男の手だ。もうすっかり温かい良一のからだ。それに手も温かい。乳房を揉まれる。唇を乳首につけてくる。多恵は、肌で受けとめる男の感触に、からだを開いていく。
「はぁあっ、はぁああっ、ああん、あああん」
「ふうう、うう、ううっ、おねえさん、柔らかい」
「ああん、良ちゃん、硬い、おっきい、ああん、良ちゃん」
良一が股の間に手を入れてきて、揉みほぐしてくる。それに呼応するように多恵が、良一のモノを握っている。お互いに肌をまさぐりあい、性器を手でまさぐりあい、良一が逆さになって仰向きに寝る。多恵は、仰向いた良一の顔にまたがり、下向けた顔を、良一のモノに触れさせる。
「ああ、ああ、いいわ、いいのよ、ああっ」
多恵は、良一のモノの下半分を右手に、軽く握ったまま、上半分を唇に挟んで口の中に入れる。良一の顔には、多恵の股間が押し当てられている。良一は、自分のモノを多恵に弄られながら、多恵のソコを唇と舌で弄っていく。おたがいに言葉はいらない、吐く息、吸う息、息の根が静寂の寝室に醸されるだけだ。
「ううっ、ああ、ああ、ああん」
良一が、唇と舌のかわりに指をいれてきたのだ。きつい刺激が多恵を包む。多恵は良一のモノから顔をあげ、ぎゅっと握ってしごいてしまう。
「ああっ、ああっ、良ちゃん、ああっ」
多恵は、右手に良一のモノを握ったまま、四つん這いになり、太腿を良一の脇腹に、またがらせる。天井からの光とスタンドからの光で、多恵のソコが良一に、丸見えになる。多恵は男のモノを観察し、良一は女のソコを観察する。
「ああん、だめ、だめ、あああん」
指をいれられた多恵が、お尻を揺すって、ふるえる。良一は多恵のなかを、右手の指二本で、捏ねてやる。多恵が、呻くのがわかってきて、良一は多恵のからだが高揚しているのを感じる。いよいよ、接合させるときがきたと良一は思う。四つん這いの多恵を仰向きに寝かせる。多恵にも気配がわかって、良一のなかに埋もれていった。

-38-
 朝方まで多恵の寝室にいて、少しまどろんだあと、良一は帰っていった。朝のコーヒーでも飲んでいったら、と多恵は思ったが、口には出さなかった。多恵は、陶房に入って、土を捏ねだした。頭の中は先ほどまで一緒にいた良一の姿ばかりが浮かんできた。土を捏ねるのは慣れているから、身体は機械になればいい。多恵は、菊揉みして土を慣らした。冷たい感触が、しだいに温かくなってくるのがわかる。ろくろは使わない。紐を作って巻き上げていく手捻りだ。制作するのは抹茶茶碗だ。形を作りながら、しだいに熱中してくる自分を思う多恵だ。別れた後の虚しさみたいな感情が、心のなかに残っている。束の間の癒されの時間だった。庭が明るくなってきた。夜が明けてきた。お腹が空いた。喉が渇いてきた。多恵は、器の形を作ったところで手をとめた。
 二階のプライベートな空間に戻ってきた多恵だ。もう良一の痕跡はゴミ箱の中に残滓が残っているだけだ。どういたらいいのか、多恵は思いあぐねる。一緒に生活をするなんてことはあり得ない。多恵も良一も独り者だから、別にやましいことは何もない。古い貞節感であれば結婚していない男女が関係することはタブーだったかもしれない。しかし、いまや、そういう風習を多恵は守ろうとは思わない。なんだろう、抱きあっているとき、こころが安らぐ、からだが燃え上がる、欲求が燃え盛っていく。多恵は、良一を可愛いと思う。恋愛の対象というより、母と子といった感情かも知れない。
<ふううん、ピアノ、弾いてるの、小説を書いてるって、言ってたわね>
<なんだろう、良ちゃん、憂えた顔が憎いほど可愛い、ちょっと控えめないい男>
ぶつぶつ、多恵は寝室の扉を開けたままで、キッチンで朝の目覚めコーヒーを淹れながら、独り言が頭の中でしゃべっている。
<子供できちゃ大変だわね、注意しなくちゃいけないわね、わたしが注意するしかないのよね>
<連絡、してくるまで、わたしからは、アクションしない、女だもんね>
コーヒーはブラックで、ロースターズさんで仕込んでもらった特上品だ。まろやかに美味しい。多恵はコーヒーが好きだ。紅茶より、抹茶より、珈琲が好きだ。少しは男っぽい気性も持ち合わせているからかもしれない、と多恵はその嗜好について分析する。良一を誘惑しているのは自分だ、と思っている。
<この歳になってるんだもの、若い男を侍らせておくのも、いいことよ、ね>
<わたしは、結婚しない、親や親戚のために結婚するなんて、だから、未婚のままよ>
<赤ちゃん欲しいと思うときもあるけど、それは無理、ああ、わたしの居場所は何処なの>
陶芸家として世間に認められていくこともいいけれど、それだけでいいわけがない、と多恵は思うだった。
 十時過ぎになって、陶苑編集部の野村真紀からメールが来た。原稿が出来たからファクスで送ります、との内容だ。まもなくファクスが送られてきた。月刊誌の陶苑新年号にグラビアで載る多恵の写真と記事だ。水際冴子との対談。多恵の略歴。多恵を褒める陶芸作家論。八ページの記事だ。多恵は、真紀宛ての返信メールで、記事を制作してもらったお礼と、また京都へ遊びにいらっしゃい、とのメッセージを添えて返した。多恵は不思議と、大学の先輩で月刊誌陶苑の編集次長を務めている北村信之のことは、思い出さなかった。
(おわり)
















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最新更新日 2018.12.3


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