物語と小説のブログから


愛の夢-4-

 25〜32 2018.10.15〜2018.10.26

-25-
 志保は、なにがなんだかわからない。啓介を前にして動転している、目の前にいるカメラマンの啓介の顔はわかる。自分がショーツだけの裸だということもわかる。六畳の広さしかないスタジオスペースにはストロボセットが置かれている。背凭れの椅子もある。狭いから余計にわけがわからなくなる。魔法使いの部屋に入ったみたいだ。
「うううん、そうなんだ、初めてなんだ、そうなんだ」
啓介は、志保の裸のからだをみながら、つぶやくように言う。
「うん、恥ずかしい、わたし、恥ずかしい、暗くしてほしい、です」
啓介がライトを落とし、スタジオを薄暗くする。床に半畳分の分厚いマットを敷き、志保を座らせる。志保は、腕を掴まれて座るようにと促され、それに従う。いっしょに啓介が座り込んでくる。マットの上で志保が抱かれる。身につけているのはショーツだけの志保。啓介がブリーフだけの裸になる。啓介が左、志保が右だ。志保は抱きよせら、キッスされる。右腕を志保の背中にまわした啓介が、肩から抱きしめる。
「うっうう、ううっ」
かさねられた志保の唇から呻く声が洩れる。啓介は、志保を少し持ち上げ、腰から尻を包んだショーツを後ろから脱がしてしまう。ショーツは志保の太腿にまで脱がされ、啓介がブリーフを脱いでしまう。そうして志保の足首からショーツが抜かれてしまう。
「ああ、啓介さま、わたし、わたし」
「心配ないさ、心配しないで、無理しないから」
啓介が志保の耳傍で囁くように言う。からだを密着させる。志保の柔肌が啓介には心地よい。志保は、男の肌を密着させて、夢の中を泳ぐようだ。マットに寝かされる志保。太腿の半分ほどからマットにはみ出してしまう。啓介は、全裸の志保を見る。乳房がぷっくら、黒い毛がYの真ん中に生えるのを見る。白い肌だ、良家のお嬢さまを連想させる。志保は、仰向き、手で顔を覆っている。細くなった腰から膨らむ臀部。太腿、膝。啓介が仰向いた志保のうえにかさなっていく。志保に膝を立たせてひろげさせる。抵抗なしに志保は、啓介のうごきに従ってくる。啓介が手で顔を覆った志保に、手を退けさせ、自分の横腹に手を置かせる。もう、啓介は腰からのモノで、志保のヴァギナをまさぐりだす。勃起する啓介のペニスだ。その頭を志保に挿し込むと、志保は、表情をこわばらせた。
「ううっ、ああっ、あっ、あっ、いたっ、ああっ」
啓介は、志保の上半身、自分の腕を志保の背中にまわして抱いてしまう。ペニスを挿し込んでいるのだ。きつい締めつけだ。志保が呻く。痛いのだ。
「いいのか、志保ちん、いいのか」
「ああ、ううん、いいの、がまんする、いいの」
「おおっ、ああっ、志保ちん」
「ううっ、ううううっ、啓介さまぁ、ああっ」
志保の目から涙がこぼれるのを啓介の心が受けとめる。志保は、仰向いたまま、膝をひろげて立たせたまま、啓介の背中に腕をまいている。
「ああ、ああん、ああ、あああん」
啓介がもぞもぞ裸体をうごかし、勃起したペニスを志保に挿し込んでいる。ゆっくり、ゆっくり、抜いては挿し、抜いては挿し、少しずつ志保の奥へと挿し込む。引き抜き、スキンをかぶせ、そうしてふたたび挿入していく啓介だ。志保は、苦痛に耐えながら、終えられてしまう。終わるときがわからないまま、志保は、涙ぐんだ。

-26-
 久保可奈が大村慎吾と会うとき、二人だけになるように仕組むのは、可奈のほうだ。大学の文学サークルで慎吾が先輩、可奈が後輩という立場だ。最初は三回ほどラブホテルを使ったが、その後は使わない。もうお金がかかるからだ。もうセックスする関係になって半年近くになる。二年生の秋、慎吾が三年生のときだ。小柄で愛嬌ふりまく妖精のような、男子学生にはモテモテの可奈が、慎吾にアタックしてきたのだ。
「先輩のこと、好きです、ほんとうです、ほんとうに好きです」
慎吾はイケメン、頭もいいし、優しい文学青年だから、女子の人気は高い。慎吾を好きになる女子が沢山いる。可奈もその一人だった。その慎吾が、可奈の誘いでデートして、夜の円山公園で抱きあうようになって、ラブホテルへいったのが、半年ほどつきあってからだ。夏前から、可奈は、慎吾のワンルームへ行くばかりだ。
一年先輩の慎吾は四年生。すでに就職先が決まって、会社は東京の品川だけど、住むのは神奈川にすると言っている。神奈川といっても横浜近郊で、住宅街の一角、単身者用のワンルームマンションだという。
「わたしが行くから、続けて、わたしも、東京で、就職するから」
可奈はいま慎吾のワンルームへ来ている。
「そうだよな、可奈、そうしろよ、東京がいいよ、そうしろよ」
「そうよね、大阪ってダサイ、やっぱり東京よね」
慎吾の部屋は六畳一間。男のワンルームだ。部屋へ入った左にバストイレ、キッチンがありその奥が六畳の間だ。可奈が来るようになって、部屋のイメージが変わった。柔らかいものが増えた。ぬいぐるみとか毛布とかマットとか。慎吾の勉強机があり勉強椅子がある。シングルのベッドがある。収納ボックスがあり本棚がある。畳一枚分のカーペットが敷ける床では、寝ころべる。ふかふかのマットにピンクの毛布は可奈が寝るスペースだ。そこに枕となるベアの大きなぬいぐるみだ。小さな折りたたみ式のちゃぶ台があり、飲食はここでする。
「ううん、ああっ、しんごぉ、だめよ、だめったらぁ」
可奈が仕掛けていって、慎吾が抱いてきたのだ。その慎吾に、可奈が柔らかい否定をするが、本気ではない。女の子が男の子の言いなりになるといっても、期待をこめた否定ということもある。スキンは一箱分、可奈がネットで買って、バッグに忍ばせている。
「待ってたんだ、かなぁ、一週間ぶりなんだよ、だから、さぁ」
まだ洋服を着けたままの可奈と慎吾だ。可奈のアウターは、白にレースが施されたブラウスにブラウン系のひらひらスカートだ。インナーはブラトップとショーツにブルマだ。ぷりぷりのからだだが、まろやかに見えて、小柄だから妖精のようなのだ。
「ああん、しんごったらぁ、だめよ、だめ、だめ」
ちゃぶ台のまえ、5pの厚みがあるウレタンマットにあぐら座りの慎吾が、おんな座りした可奈の背中へ右腕をまわして抱いている。左手でブラウスのボタンを二つ外してやり、そのなかへ左の手を入れてきたのだ。可奈が甘える。妖精のような女子学生が、男に甘える声で、囁き、頷き、呻いて悶えだす。

-27-
 畳一枚分の分厚いウレタンマットのうえに座る可奈と慎吾。慎吾が可奈の後ろにまわり、後ろから可奈を抱いている。可奈のすぐ前には、縦長の姿見鏡があって、可奈の姿が映っている。慎吾は、可奈の後ろから、可奈を鏡の中に見ながら、可奈を弄ってやるのです。妖精のような小柄な可奈は、ブラウスのボタンを外されていて、ブラトップが露出だ。可奈の足は、膝を立て、膝をひろげた格好で、ひらひらスカートがめくれて、太腿のところだ。開いた太腿が鏡に映る。太腿の根元から腰を包んだ黒いブルマが映る。
「ああん、しんごぉ、ああん、しんごぉ」
ブラトップの中へ、首のしたから慎吾が右手を挿しこんできて、手の平が可奈の乳房に直接、あてられる。
「可奈、好きだよ、可奈」
「あん、なによ、慎吾、わたしも、好きよ、だからぁ」
顔を横にしてくる可奈の唇に、後ろから顔をだす慎吾が、唇をかさねる。慎吾の手で弄られる乳房が、可奈にはいい気持。乳首を指の間に挟まれて、唇を塞がれたまま、可奈が呻く。慎吾は、可奈が穿いているブルマを脱がします。白生地のショーツは穿かせたままにしておいて、慎吾はズボンを脱ぎ、シャツを脱ぎ、ブリーフだけの裸になって、可奈を後ろから抱いている。
「ああん、はぁああ、慎吾ぉ、ああっ」
慎吾が可奈の手を後ろにまわさせ、足の投げ出し、可奈の横へ伸ばした足の太腿へ、可奈の手を持ってこさせる。可奈が慎吾の太腿、根元を弄り、男のモノを見つけて握ってくる。
「可奈、脱いでしまうだろ、脱ごうね」
慎吾はブラウスを脱がし、ブラトップを脱がしてしまう。上半身が裸になった可奈だ。スカートとショーツはつけたまま。慎吾はブリーフだけだ。可奈の乳房はぷっくらだ。伏せたお茶碗のようにぷっくら膨らんでいる。垂れていない。輪乳から乳首は飴色だ。
「ああん、慎吾ぉ、別れたくないよ、わたし、好きよ」
「ううん、ぼくだって、可奈のこと、好きだよ、好き」
可奈が、ブリーフの中から勃起する慎吾のモノを取り出し、ぎゅっと握ってしまう。慎吾は、可奈の手を退けさせ、ブリーフを脱いでしまって、全裸になる。後ろから可奈を抱きながら、お尻をあげさせ、ショーツを脱がしてしまう。スカートだけの可奈。そのスカートも、脱がせてしまって、可奈は全裸になった。全裸になって、向き合う可奈と慎吾だ。
「おいで、さあ、またげよ」
足を投げ出した慎吾の腰へ、可奈に跨がせるのだ。跨がせるときには、男のモノを女の処に挿し込ませる。なんの前触れもなく、可奈は、慎吾に跨いで、まだ濡れていない処へ、慎吾のモノを挿しこみだす。
「ああん、慎吾ぉ、ああっ、ああん」
「ほぉおおっ、可奈、いい、いい、いいねぇ」
「わたしも、ああん、どないしょ、どないしたらいい、ああん」
密着させてしまった可奈と慎吾だ。女と男の性器を密着させたまま、上半身を抱きあう可奈と慎吾だ。

-28-
 可奈は慎吾の腰に跨って、女の処の奥深くに男のモノを挿しこんでいる。慎吾は足を投げ出した格好だ。可奈が跨いで挿し込んできたままだ。股を開いて、腰を跨いで、太腿を慎吾の腰に密着させて膝を立てる格好だ。抱きあう。慎吾が可奈の脇腹から腕を背中へまわす。可奈は慎吾の肩に腕を置き、首に抱きつく格好だ。
「ああん、いいわ、慎吾ぉ、いいわ、いいわ」
慎吾の頬に頬を寄せ、首にしがみつく格好で、尻を微妙に揺する可奈だ。慎吾の勃起したモノが、可奈の奥深くにとらえられ、可奈はそれでこすっている。
「ああん、はっはっ、はぁあん、あん、あん、はぁああん」
腰を横に揺する可奈。全裸だから、動きに邪魔するものはない。慎吾が背中の手を可奈の尻を撫ぜる。撫ぜた手を可奈の乳房へもってきて弄る。
「ほら、ほら、可奈、いいじゃん、おおっ、ああっ」
乳房を弄るときには、裸体と裸体の間をあける。慎吾が腰を見下ろす。可奈は見下ろす余裕がない。
「ああん、慎吾、慎吾ぉ、ああん、おっぱい、ああん」
「うん、うん、可奈、ヌレヌレだよ、濡れて、びちょびちょ、だよ」
「ああん、だめ、そんなこと、いったら、だめよ、ああん」
畳半分ウレタンマットの上はふかふかだ。ちゃぶ台がありベアの大きなぬいぐるみがある。その間に慎吾と可奈が裸になってしまって、抱きあっている。可奈が慎吾の腰を跨ぎ、慎吾は足を伸ばして、男のモノと女の処を密着させている。可奈は、こうするのが好きだ。腰を跨いで、慎吾のモノを自分に中にくわえ込む。性器に性器に密着させる。なんともいえないヌルヌル感だ。なにもかも忘れてそのことに没頭する。
「だめ、だめ、ああん、いい気持ちよ、いい気持、ああん」
「可奈、いい気持だよ、ぼくも、いい気持だよ」
慎吾は可奈の乳輪に薄く開けた唇をあて、舌先で乳首を撫ぜてやる。可奈の女処に挿し込んだままだ。挿し込んだままで乳首を刺激していく。可奈が、気持ちよさそうに、ふうふう、すうすう、息を深く、浅く、息音を洩らしながら、呼吸する。
「ああ、いいね、可奈、ぼくが、してあげりる」
跨いでいる腰から尻をマットに降ろさせ、可奈の股をひろげさせる。慎吾が太腿をひろげ、可奈が太腿をひろげる。慎吾の太腿の上に可奈が太腿を置いて、男のモノが前後に動くようにするのだ。
「ほうら、可奈、ほうら、見てみろ、ほうら」
「ああん、見えるよ、慎吾のおちん、見えるよ」
「入れてやるよぉ、おおっ、いいだろ、ほらっ」
「ああん、いい、いい、いいわよ、慎吾ぉ、ああん」
慎吾が腰を、少しだけ左右に揺すりながら、前に突き出し、可奈に挿し込んでしまう。可奈は、ひいひいの声を洩らしだす。濡れた股。ヌルヌルの股のなか。そこへ慎吾の勃起したモノを挿しこみ擦ってやる。気持ちが高揚してくる慎吾が、射精の兆しを覚える。可奈が、快感に溺れていくのが、慎吾には、可奈の声質でわかる。
「つけて、もう、ああ、つけて」
「うん、うん、つける、つけてする」
四角のパックにはいったコンドーム。可奈が封を切り、なかから取り出し、つまんで、かぶせて、おろしてかぶせてやるのは可奈だ。そのあいだしらふに戻されてしまうが、可奈は、でも夢の中、雲の上だ。

-29-
 慎吾につけてあげて、可奈はもういちど腰に跨ってあげて、慎吾が仰向きになる。可奈は慎吾の腰に跨ったまま、正座の姿勢だ。
「ああん、いい、いい、ああん、いいわぁ、ああん」
「うん、うん、ああ、いい、可奈、いい、いい、いいよぉ」
可奈が手をさしだすと慎吾も手をさしだし、手と手を絡めて、倒れ込まないようにする。
「あん、あん、ああん」
膝から太腿をあげ、股をあげた可奈を、下から慎吾が突き上げる。
「ううっ、おおっ、可奈、ううっ」
「うぐっ、うぐっ、うぐううっ」
腰をあげたところへ、真下から慎吾のモノを挿しこまれる可奈。突きあがってくる気持ちのよさに、めろめろになってしまう大学三年生の可奈。感じる。感じすぎる。乳房がぷりんぷりんになる。乳首が起ってくる。ヌルヌルになる。慎吾のモノがブスブスと挿されてくる。可奈は、もう、気持ちよくって、われを忘れて、没頭する。
「ああ、ああ、いく、いく、ああ、ああ、いっちゃう、いっちゃう、ぅううっ」
慎吾を跨いだまま、可奈がオーガズムを迎えてしまう。下から突き上げてた慎吾がストップ。そのかわり可奈がぺたんと股を慎吾に密着。股から尻を、前へ、後へ、前へ、後へ、前後に動かし擦って、慎吾のモノで可奈の奥を擦る、擦る、擦る。
「おお、ああ、いい、いい、可奈、おおおおっ」
慎吾のモノがピクンピクンと痙攣し、あわせて可奈がオーガズム、頂上へ、駆け上る。慎吾の痙攣が終わるころ、可奈は慎吾に倒れかけ、ぐったり、気を失ってしまう感じだ。静止して、可奈は慎吾の腰から股を外しておんな座りだ。慎吾の処理をしてやる可奈だ。じっくり、男のモノを観察しながら、可奈は慎吾の世話をする。
「うん、よかったわ、好き?、わたしのこと?」
終って、気が戻ってきて、スキン処理しながら、可奈は、慎吾に言葉をかける。
「うん、よかったよ、可奈のこと、好きだよ、好きだよ」
「わたしもよ、好きよ、慎吾のこと、好きだから、東京行っても忘れちゃいやよ」
「うん、忘れないよ、忘れたりするもんか、こんなに好きなんだから」
可奈は、ショーツを穿いて、ブラトップを着て、ぺたんとちゃぶ台の前に座り込む。慎吾はトランクスにしてシャツを着た。お茶が残っている。買ってきた弁当を食べる。慎吾は、可奈が買ってきてくれたカツ弁当を食べる。可奈は野菜のサラダが多いから揚げ弁当だ。食べながらの会話は極力控えて。ほぼ食べ終わって、時計はまだ夕方の時刻だった。
 可奈のLINEに志保からトークが入った。
「なにしてる、わたし、梅田よ、どこにいるの」
可奈は、五分間の間をおいて、志保に返信する。
「したとこよ、わかる、志保に」
「どうゆうことかしら、会えないかしら」
「会えないよ、また、するから」
「わかった、了解」
志保が梅田にいるというのだ。LINEしてくるんだから一人でいるんだ、と可奈は思う。まだ経験したことが無いという志保。子供だな、志保は、お嬢さまだけど、子供よ、志保ちゃん。可奈は、一年先輩の大村慎吾と愛欲三昧している日々なのだ。

-30-
 志保は啓介のスタジオを出て、地下鉄で梅田まで戻ってきて、雑踏の中に一人いることがこわくて、可奈にLINEしたけれど、会えないというので、そのまま河原町行きの特急に乗った。啓介のオフィス兼スタジオで、関係してしまった志保だ。下腹部がムズムズして、お腹を壊したのではないかと思うほどだ。セックスするのは初体験だった。処女を失った。志保には、気持ち的には落ち込みはない。ただ、雑踏の中に一人いることが、居場所がない感覚で、落ち着けないのだ。
<いいのよ、これで、いいのよ、わたし、いいのよ、いいの>
 特急は二人掛けのシートで、四人席の進行方向の窓際に座って、目を瞑った。午後からの出来事が浮かんでくる。モデルになって撮影してもらう。着替えてしだいに裸になっていって、抱かれて、抱きあって、男のモノを受け入れた。
<いいのよ、わたし、もう大人なんだし、啓介さん、また、会いたい>
後悔は全くなくて、むしろ関係した向井啓介と、また会えるかどうか、それが心細く心配になってきた。次に会うのは啓介が会いたいと言ってくるまで待たないといけない。次に会う約束はしていないから、終わるかも知れない。啓介の詳しいことがわからない。27歳で独立して事務所を構えているのだから、カメラマンとして立派だと志保は思う。可愛い男の子って感じがする。男っぽくない。男っぽくないというのは荒々しさがないということで、志保にはそういうタイプが好きだった。心斎橋で、初めてあって、それから何度かあって、南森町のスタジオへ行ったのは二回目だった。二回目でセックスの関係を結んでしまった。可奈と会えなくて、電車の中で、そのことは内緒にしておこうと志保は思った。女だから、だれでも一回やってくる事態だ。早いか遅いかの違いがあるが、志保は、自分で遅い方だと思っていた。高校生で経験する子もいるし、大学生で経験する子もいる。志保は大学三年生になっての初体験だった。長岡天神のワンルームに戻ってきた志保は、お風呂に入る。ショーツを脱ぐと少し出血した痕がへばりついていた。
 風呂からあがって体をバスタオルに巻いて、鏡の前に座る。ニコッと笑ってあげて、自分で可笑しいと思った。喉が渇いた。お腹が空いた。昼間に起こった向井啓介とのことは、遠い出来事のように思えた。
<わたしって、なにしてるんやろ、わたしって、だれなんうやろ>
志保は、静かなワンルームで、バスタオルを外し、裸体を鏡に映してみる。見知らない裸の女子が映っている。
<ああ、自分だわ、わたしの体だわ、不思議な体、変な体、だめ、だめよ、もう>
言葉にはしないが、胸の内でぶつぶつ、つぶやいているのだった。

-31-
 学校へ行って社会学特講が終わって広場にいくと、可奈がいた。午後四時半になっていた。可奈は三人の男子学生と一緒だ。可奈は楽しそうに語らっている。男子学生は志保の顔見知りで男友達というほどには親しくなかった。
「なんや、可奈やん、一緒に喋ろ」
可奈に手招きされて、志保は男三人という数に戸惑ったが、歩み寄り、円座になった。
「愛車クラブってのを作る話をしていたところだよ、大川さんも入らないか」
「ええっ、あいしゃくらぶって?」
「こいつが、いい車、乗ってるから、それでドライブするクラブだよ」
「ちょうど五人だ、定員は、そんなもんだ、だろ」
「愛してるの愛と車の車で、愛車、くらぶだ」
男子学生たちは可奈や美穂より一年上、社会学部の四年生。その名前は、大村隆、小椋啓介、奈倉明夫といった。車を持っているのは大村隆で、白いベンツに乗っているというのだ。ベンツと聞いて、志保は兄の聖也が乗っている車と同じだと思う。だけど男子学生や可奈には、そのことは言わなかった。
「おやじの名義だけど、使わせてもらってるんだ、それに六甲山に別荘もあるんだ」
「連れてってほしい、ねえ大村先輩、ベンツに乗って、六甲山の別荘へ連れてってよ」
可奈は、はしゃぎながら、大村にいう。志保は、ドライブも別荘滞在も、それほど感動はしていない。でも、することないから、連れてってもらおうかな、と思う。
「ねえ、志保、別荘にはピアノがあるらしいよ、コンサートに使うんだって」
「そうなんだ、バンドを組んでいて、ピアノやる奴がいるんだ、それで、そういうこと」
志保は、ピアノと聞いて、なにかにスイッチが入った。ピアノを弾きたい、志保は、思った。
「じゃあ、明日、土曜日だし、ドライブして、別荘でパーティーするかぁ」
男子三人のリーダー格が大村隆だ。そのことでいえば女子二人のリーダー格は久保可奈だ。
 翌日、五人は阪急高槻市駅のターミナルで、10時の待ち合わせる。四人が揃ったところで大村がベンツをまわしてきて、乗り込んだ。運転席に大村、助手席に小椋、この二人は運転免許を持っていて、車に乗り慣れているからだ。奈倉は免許を所持していない。可奈はペーパードライバーだ。志保は持っていない。市内から名神に入り神戸で出る。そこからは地道で六甲の方へ向かった。
「いいなぁ、きょうは、女子同伴だからさぁ、うれしいねぇ」
「なによ、小椋さん、なら、わたしたち、男子同伴でいいなぁ、でしょ」
「そうなんちゃうん、ひとり余る、奈倉が余る」
「それはないぜ、みんなで共有だよ、共有財産、共産主義だ」
奈倉明夫が、ムッとしてやりかえす。ペアになることを暗示する小椋の言葉に、クレームをつけたのだ。
「そうよ、そうだわ、男も女も区別なし、みんなで輪になって、で、いいじゃん」
「可奈ちゃんがゆうとおりだよ、みんなで破廉恥やっちゃおう」
大村が、運転しながら、前を見たまま、言葉に交わってくる。昼は、国道筋にファミレスがあったので、そこで食べることになった。

-32-
 別荘にバーベキューするコンロが作ってあるので、あとはバーベキューのための食料を買い込めばいいと奈倉がいう。買い物はイオンモールで、焼き肉用牛肉やウインナーや野菜を買い求めた。代金は大村がカードで支払った。可奈は、初めてではないらしい、と志保が思う。志保は、こういうパーティーというのは初めてだ。大学三年にもなって、初めてのことが多すぎる。
「楽しいわよ、志保も楽しまなくちゃ、ね」
可奈が、志保に、心構えを言ってくる。
「そうなのよ、男っていいわよ、そうね、成り行きよ、成り行きしだいで、いっちゃうかも知れないよ、楽しまなくちゃ、面白くないでしょ、大丈夫よ、スキン用意してあるから、たっぷり用意してあるから、それを使ってもらって、朝まで、楽しいわよ、気持ちいいのよ、志保、おくてではだめよ、お嬢さんぶてってはだめよ、わかった?」
大村という男子は、どういう素性の男子なんだろう、と志保が思うまでもなく、可奈が解説してくれる。資産家の息子で、ぐれているわけではないが、親のゆうことを聞かない同族会社役員の御曹司だという。カードで支払い、あとは会社の経理で落とすらしい、と可奈は聞いた話を志保にする。志保は酒造会社の御令嬢とまではいわないが、由緒ある家柄の娘だ。モラトリアム志保には、あてがわれた身の周りに不満はない。
「ちょっと、冒険ね、わたし、逃げたりしないわ、ほんとよ、可奈」
「そうなのよ、楽しまなくちゃ、そうでしょ、もう、大人よ、わたしたち」
買い物を終えて、クーラーボックスが用意してあり、食べ物をそのボックスに入れ、まだ時間があるのでドライブして、別荘に到着したのが午後五時前だ。庭にはバーベキューをする場所が作ってあり、屋根も設えてある。芝生の向こうは雑木林で、敷地は300坪だという。館は白いお城のような洋館で、個室が六部屋、吹き抜けの二階部にコの字になっていて二間続きになるという。大きなリビングには、薪ストーブがあり、ソファーやテーブルがある。壁面には60号の絵が何枚もかけられているし、大きなモニターが置かれている。
「そうだよ、貸しスタジオでもあるんだ、だから、こんなのさ」
大村が、志保に説明してくる。どうも大村は、志保が気に入ったらしい。大村の視線が自分に注がれているのを感じる志保だ。
「うん、このお皿らに、盛り付けて、庭に運んだらいいのね」
「そうそう、用意出来たら、始めるから、ね」
庭のバーベキューコーナーでは、ライトがつけられ、夜でも明るい。いよいよパーティーが始まる。ビールとワインが用意されていて、ビールで乾杯の音頭は小椋啓介だ。志保は、カメラマンの向井も啓介だったから、その名前に親しみを覚えた。



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最新更新日 2018.11.26


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