物語と小説のブログから


愛の夢-3-

 17〜24 2018.9.27〜2018.10.12

-17-
 志保がピアノをやめたのは、自分の能力に疑問を持ったからだ。ピアニストになろうと思ったら、練習を積み、音楽大学のピアノ科に入学しなければならない。それほど熱心ではないから、大学に入るとき、実家にいてピアノと親しむより、ひとり暮らしがしたくて、実家を離れたのだ。かれこれ三年前の話だ。大学は社会学部でこれといった専門研究をすることもなく、卒業して会社勤めをして、彼氏を見つけて、結婚して、家庭を持って、子供を産んで、育てて、という目に見える自分を考えたくなかったけれど、そうなっていくんだろうなという漠然とした思いがあった。大学に入った五月の連休に、文化研究のサークルに入ってのコンパがあって、先輩と懇意になって、二人だけで会うようになって、少し酔っぱらって帰るとき、先輩がついてきてくれて、繁華街から少し離れたところで、ホテルへ行こうと言われ、それは困ると思って断って、別れてしまって、それから話しかけられたけれど、志保の方がのらなかった。少し恋心を描いたけれど、それで恋は終わり、それ以降、交際する相手はいないままに至っていた。
「それで、どうしたのよ、そのまま、なにもなかったの」
「そうよ、なにもなかったよ、けいちゃんっていうんだけど、でも、好感、持てる人よ」
「まあ、でも、男はみんなくせものよ、でも、でも、男がいなくちゃ、いけないでしょ」
「男がいないといけないって、それは可奈が思うことでしょ、わたしはぁ」
「いなくったっていいってゆうわけ、まあ、志保は、そうかもしてないな、淡白質だもの」
可奈は男なしではだめだというが、可奈にはそれはそれほどに思わない。性格の違いだといえばそうかも知れないと志保は思う。心の問題だ、と心理学の講義でわかったけれど、個人個人、個性があることを志保は知った。啓介のオフィス兼スタジオで写真を撮ってもらってから、一週間が過ぎた。親友の可奈と会ってお喋りしているときに、話題にしたのは、可奈が訊いてきたからだ。スタジオでの心の動きも、別れて電車に乗っていたときの心の動きも、人に伝えるほどのことではない、自分の中で秘めていたらいい、くらいに思っていた志保だ。
「恋人がいない生活なんて、つまらないでしょ」
「そうかなぁ、別に、そんなのいなくったって、つまらなくないよ」
「志保は、お嬢様だし、奥手だし、安全をしか踏まない女の子なんだ」
「そんなことないよ、いい人に、巡り合わないだけよ、わたし」
内心、志保は、啓介のことが気になっている。LINEでメッセージが来ないか、昨日あたりから気が気ではないのだ。でも、素保は、そのことを可奈に言ったところで、どうにかなるものでもないから、と思って言わない。可奈にはお嬢さまぶってると言われるけれど、その、お嬢さま、っていうイメージが明確にはわからない。第一、男、っていう言葉が好きでない。男の人、男性、そういう言い方ならいい。男っていう言い方は、志保にはセクシュアルなイメージで動物的な匂いがするのだ。
<好きかどうか、わからない、こんな気持ち、好きだということかも知れない>
志保は、心がざわついていることを認める。ざわつく原因が啓介にあることも分かる。LINEがきたら従おうと思う。

-18-
 志保は、三つ年下の妹、真紀の誕生会をするから、というので実家に帰った。実家は伏見桃山に200坪の土地に建つ和洋折衷の家屋だ。中堅の酒造会社を経営する家系で、兄の聖也は大学でバイオを学んで、家業を継ぐ手筈になっている。聖也は先妻の子だから、志保よりも十歳年上で、すでに酒造会社の専務として実質の経営に携わっている。妹の真紀は高校三年生だ。公立高校に通うから男女共学で、演劇部に入っていて、どうやら役者になるらしい、と志保は思っている。
「志保は、家にいたければ、家にいていいのよ」
母の美子が、志保が可愛くて仕方がなくて、会社勤めなどしなくても家で好きなことをすればいい、と思っていると理解している。酒造会社の社長を務める父の陽介にしても、跡取りは長男聖也がいるし、長女の志保には淑女でいてほしい、男、父親の望でもある。
「就職するなら、銀行がいい、信用金庫でもいい、金融系がいいな」
陽介はすでに還暦前で、先妻は聖也を産んでから病死して、五年経って美子と結婚した。志保はその後に生まれ、女の子だったから、お嬢さま教育を受けさせてきた。
「お姉ちゃんは、おっとりしていて、あほなんよ」
「どうしてよ」
「だって、バイトもしないで、ピアノもしないで、モラトリアムでしょ」
妹の真紀は、なかなか辛辣に姉の志保を評価してくる。たしかに言われるとおりかもしれない、と志保は納得する。真紀は高校を卒業したら東京の演劇ができる大学へ入って、役者になりたいとの希望だ。勉強の方は出来たから、たぶん志望する大学へ入学するだろうな、と志保は思う。
「お勤めは経験のひとつだから、銀行、いいわね、受けなさいよ」
美子が志保に、陽介からの受け売りで、銀行に勤めることを勧める。地元の信用金庫なら、陽介から口利きもできるという。
 真紀の誕生会は家族だけの五人だ。母美子が手作りのチラシ寿司、バースデーケーキは丹波橋の洋菓子店で作ってもらった。家族五人が集まるというのは、半年ぶりだ。この日は、お泊りするのではなく、ワンルームの学生マンションに戻る予定だ。誕生会が始まるのは夕方で、大きなガラスの引き違い窓がはめられたリビング。テーブルが置かれ、テーブルクロスが掛けられ、丸いバースデーケーキがおかれた。洋食と云いたいところだが、と美子がいいながら、丸い桶に入れられた手作りのちらし寿司が置かれる。シャンパン、ワイン、それに会社で作っている吟醸の酒だ。
「こうして、みんな集まると、たのしいね」
「そうね、ママ、うれしいんでしょ」
「真紀も十八、受験だし、受かって東京住まいになると、淋しいな」
「お姉ちゃんだって、この家にいたらいいのに、ひとり暮らし」
「そうね、みんな、独立してほしいのよ、乾杯、志保ちゃんおねがい、ね」
ホームパーティは一時間ほど、志保は、高校三年まで過ごした自分の部屋へ入った。電気を点け、グランドピアノが置いてある十二畳の部屋だ。懐かしい匂いがこもっている。愛用していた机や椅子。ベッドもそのままだ。寝泊まるするときには、この部屋を寝室にする。部屋に入ってしばらくすると、懐かしさもあり、泊まって帰ろうか、とも思ったが、もう、ここにいても落ち着かない気持ちだから、帰ろうと思った。懐かしいピアノの蓋をあける。椅子に座る、フェルトのカバーをはずすと88音の鍵盤が並んでいる。志保は、右の中指で、真ん中の鍵盤をコンコンと叩く。ピアノの音がする。指三本で三つの鍵盤を叩く。中音域の音が響く。懐かしさが込みあがってくると同時に、いくつもの思い出の光景が浮かんでは消えていく。志保は、ひとまずフェルトを敷いて蓋を降ろした。

-19-
 ピアノに蓋をした志保は、まだ自分が持ち主のこの部屋のソニーのオーディオセットにスイッチを入れる。
<ああ、センチメンタルだわ、いけないわ、だめよ、ねぇ>
感傷的になっている気持ちを、消そうと思って、高校の時に買い集めたCDをセットする。ピアノの曲集で、ショパンやシューベルトやリストの名曲ばかりの選集だ。ショパンのノクターン、感情が揺すられてきて、志保は心のなかで涙ぐむ。ノクターンが終わって、愛の夢が流れ出す。リストが作曲の、志保が好きな曲だ。
<どうして、わたし、裕ちゃんと、別れて、しまったの、かしら>
<卒業、裕ちゃん、大学は、東京よ、わたし、ついていけなかった>
静かな部屋、グランドピアノが部屋の半分を占めている志保の部屋。可愛い木でできたベッドがあり、ベアのぬいぐるみがある。小学生のときから使っていた勉強机があり、椅子がある。
「おねえちゃん、入っていい」
ドアをノックする音とともに真紀の声がしたので、志保は、入っていいよ、と返した。ドアが開き、真紀が入ってくる。高校三年生だ。東京の私大だけど演劇ができる大学をめざしている。
「受験勉強してるんでしょ、偏差値は大丈夫なの」
「大丈夫だよ、入れると思う、東京住まいする、おねんちゃん、遊びにおいでよ」
「なによ、まだ決まったわけじゃないのに、わかんないじゃない、そんなの」
志保は、遊びに行きたい、と思った。リストの愛の夢が収録されたCDを手に入れたのは、好きだった大野裕一が一緒にいた時だった。志保の誕生日に、裕一がバイトで貯めたお金で買ってプレゼントしてくれたのだ。裕一は東京の有名私大に合格していった。裕一からみれば凡人が勉強する関西私大の社会学部に入学した志保だ。別れるしかなかった。その裕一のことを、志保は、ことあるごとに思い出すのだった。思い出してもそんなに激しく感情が揺すられることは、もう過ぎ去ったけれど、思い出は、まだ完全な思い出にはなっていない。
「おねえちゃん、バイトしてるんやろ、ウエイトレス」
「ちょっとだけね、おこずかいだけ、あとはママからもらう」
「仕送りしてくれるよね、ママ、学費ローン、使う子もいるけど」
「わたしは、ママとパパが出してくれるから、ローンしてない」
「わたし、東京、行ったら、バイト一杯しないとだめよね」
「それ、真紀、ママと交渉しだいよ、出してくれるとおもうけど」
志保のシックな気持ちとは裏腹な、現実的な話を仕掛けてくる妹の真紀。母が一緒の妹だ。兄の聖也は年が十歳も離れており、母が違うから、それほど親しくない感じがする志保だ。その日、夜遅くになって、誠也が向日町まで送ってくれることになって、志保は、自家用車ベンツの助手席で、夜のドライブをさせてもらった。

-20-
 伏見から向日町へ行くには、久御山まわりか京都市内まわりの方法がある。聖也が運転するベンツは、京都市内を経由して国道171号へ入るルートを取った。志保は、教習所に通って運転免許証を大学に入った年に取った。だけど、ひとり暮らしをしているから、ペーパードライバーだ。兄の聖也は運転しながら、酒造会社の経営のはなしを持ち出した。というのも、志保が大学を卒業したあとの進路について、聖也がどうするのか、と訊いてきたなかで、会社の事務をやってもいいけど、との話題で、志保から仕掛けた話だ。ベンツで夜の市内を走りながら、運転している聖也が、助手席の志保に云う。
「まあ、な、同族会社だから、経理担当ってところだろうな」
聖也は、志保が家業の酒造会社で事務することを否定はしなかった。
「でも、よそで体験してきて、三年ほどな、それからだろうな」
「そうね、そうかもしれない、甘えちゃいけない、そうよね」
「そうそう、だけど、やばいんだよ、会社、なかなか」
酒造会社の専務職にあり、実質、この先、社長になる聖也だ。どちらかといえば研究者肌で経営は余り得意ではない。経営指南を受けるためには経理事務所に世話になっているが、これは後処理の事務のこと。経営戦略をどうするか、という企業存続の根底のところを、どうするのかということ。
「志保は芸術家だから、経営なんて、わかんないから、しやないけど」
「わかんないよ、そんなの、わたしには」
「やばいんだ、資金繰りだって、銀行は融資を渋るしなぁ」
ベンツは志保がいるマンションの前で止まり、降ろされ、バイバイして、ワンルームの部屋に戻った。ベンツの柔らかいシートに揺られて、気落ち良かったからか、志保はドアをあけ、部屋にはいり、リラックス気分だ。
<パパに会い、ママに会い、真紀に会い、兄ちゃんに会った>
<みんなで食べたバースディケーキ、美味しかった>
志保は、からだの何処かから、無性にムラムラが湧いてくるのがわかる。
<どうしたのかしら、ケーキ食べ過ぎたから、やろか>
空調を入れ、部屋の空気を乾燥させる。洋服を脱ぎ、スリップ姿になり、鏡に自分の姿を映してみる。自分の姿に見入りながら、手が乳房にまわり、お腹の下に降りてしまう。
<お風呂にしようか、だめよ、どうしたのよ、いけないわ>
ひとりごとは頭の中だけで、声になって外には出ていない志保の声。自分のからだが、なにを要求しているのか。淡白なはずの性欲が、あたまをもたげてきているのだ。
<ああん、いやねぇ、あなたって、だめね、ゆうことききなさい、ああっ>
右の手がショーツの中に入ってしまって、指が股間をまさぐりはじめる。胸のもやもやつっかえを、解消してあげないと、からだが浮いてしまう。志保は、まま、こういうことになって、ひとり、ため息をつきながら、果てていくのだ。果てたあとには、お風呂を入れ、ショートカットの髪の毛を洗い、ボディソープでからだを洗い、ゆっくり長湯をしてからだを休めるのだ。

-21-
 志保がカメラマン啓介のスタジオを訪れたのは十月半ばのことだ。スタジオへ訪問は二回目だ。一度来ているから直接に待ち合わせの時間少し前、マンションビルの前に着いた。エレベーターで八階まであがる。ゆっくりしたスピードだ。ドンという鈍い音がしてドアが開くと、左側は肩の高さ程のコンクリートのフェンスがあり、空が見える廊下を右へ、そこの三室目、八〇三号室だ。金属の玄関ドア。ぴんぽんと鳴らすと、ドアが半分開かれ、啓介の顔が見えた。
「入って、さあ、いtらっしゃい」
啓介の声が弾んでいる。志保は、啓介の顔を見て、安堵感がひろがる。梅田から地下道を歩き地下鉄に乗り、南森町でおり、地上に出て、ようやくたどり着いた感じだ。ほっとしたのは、啓介を訪ね、久々に会えたことによる。
「はい、きちゃった、わたし、来てしまいました」
「来てくれた、うれしい、ありがたい、ようこそ」
ドアが閉じられると、外の喧騒が一切なく、静寂そのものだ。空調の音がする。六畳のスタジオ、四畳半の事務所、二畳のダイニングキッチンだ。狭い、志保は立ったままだ。じっとしてると、顔が紅潮してくる、胸がドキドキしてくるのがわかる。裕二は、ちょっと待っていてね、と言って、キッチンへお湯を沸かせに入っている。立ったまま、どうしようかと思う志保だ。座る。座るといっても、机に仕舞い込まれた椅子があるだけだ。志保は、そのつもりで来ている。いざというときには、恥ずかしくないように、インナーは白でまとめている。紺色のワンピース、そのしたにはシュミーズにブラとショーツだ。
「撮影は、お茶してからだ、もうちょっと待っててね」
モデルになってもいい服装で立っている大学三年生の志保。啓介が気持ちを察してくれない、どうしたらいいのか、ここへ来たことじたいが、いけないことだったのか、顔が火照る、胸の高鳴りはおさまった。
「入ってもいいですか」
狭いキッチン、畳二枚の広さだ。ダイニングテーブルがあり、背凭れのない丸椅子が二脚置かれている一つに志保が座る。
「うん、ゆっくりしていけるんだろ、志保ちん」
「八時には、帰りたいんですけど」
「ああ、四時間あるよ、十分だよ」
裕二はジーンズに生成りのシャツ姿だ。椅子に座った志保を、見つめている。志保は見つめられていることがわかる。紅茶を入れてもらったので、カップを口に近づけ、すすっと啜る。裕二が、いつの間にかカメラを手にしていて、カシャ、カシャと音が起って、志保は撮られていることに気づく。ドキドキ、志保の素直な心情だ。写真を撮ってもらうことが目的だから、それをいやだとは言わない。

-22-
 シャッターの音にドキドキする志保を、スタジオに誘導する裕二。紺色のワンピースを着た志保が、背凭れ椅子に座らされる。スタジオといっても六畳のフローリングの部屋だ。三脚にアンブレラのストロボセットが置かれ、スタジオ用の三脚が置かれ、そのうえにセットされたカメラがある。
「緊張します、とっても、わたし、こんなの、初めてだから」
「そうなの、きれいに撮りたいな、志保ちん、かわいいから、ね」
「はい、わたし、顔、あかいですか、なんだか、火照るんです」
「慣れないからだよ、すぐに慣れるから、心配しないで」
背凭れ椅子に座った志保の言葉に、裕二が応じて話をする。
「すこしずつ、ポーズを変えて、撮りたい」
「ええ、いいです、いいですよ」
志保は、ほの明るいスタジオの柔らかい色に、からだがとけていきそうな感覚になる。
「それに紺色は、きついから、白いのに、着替えて欲しいんだ」
「ええっ、着替えるんですか、わたし、用意していませんけど」
「用意してあるんだけど、これなんだけど」
志保は、狭いスタジオに裕二と二人だ、と思うだけでソワソワ、ぽ〜っとなってきている。裕二が手にしている服は、乳白色で、柔らかい、木綿素材のふわふわワンピースだ。裕二が事務所の方に隠れ、志保は紺のワンピースを脱ぎ、前ボタンの白いワンピースに着替える。
「いいじゃない、とっても、すてきなお姫さま、って感じだね、いいねぇ」
「はぁあ、そうですか、似合いますか、そうですか」
最初は背凭れ椅子にきちんと、正面向いて、座って、手は膝のうえに置いた姿勢だ。裕二は志保が暇を持て余さないように、テキパキと撮影作業をすすめる。
「そうそう、ちょっと、肌を見せる、ボタン、ふたつかみっつ、外せるかなぁ」
前のボタンを三つ外すと、胸の半分が見えるところまでになる。志保は、言われるままに、首下から三つ、ボタンを外す。外してもパラっとひらくわけもなく、微妙にインナーのシュミーズが見えるだけだ。
「そうそう、いいねぇ、スカートを引き上げて、そうそう、そこらへん」
膝を露出して、太腿の半分ほどがはだけるところでシャッターが切られる、カシャ、カシャ。志保は夢中だ。下着姿が撮りたいという裕二に、抵抗することなく、白いワンピースを脱いでしまう。裕二は男だ。27才になるまでには、女の子と関係したことは何度となくある。スタジオにまで来た女子は、裕二の手によって関係されてしまう。志保にしても、スタジオ訪問に、何が起こるかの具体的なイメージは描けていなかったが、何かを期待している。男と女の関係。志保は未経験だった。

-23-
 下着姿は、シュミーズにブラ、ショーツ、いずれも白っぽくて半分透ける薄い生地だ。大学三年生の志保だ。啓介が退いて、志保が着替えて、啓介が現れて、志保がカメラの前に立つ。
「いいじゃない、志保ちん、素敵だよ、とっても」
「ええっ、そうですか、なんだか、恥ずかしいです、恥ずかしいけど」
「どうした、恥ずかしいけど、どうしたの」
「なにかしら、わたし、別のひとになったみたい、信じられない」
「かわいくて、きれいだから、別の人になった、可愛いよ」
志保は、恥ずかしそうに、目線を伏せて、三脚にのせられたカメラの前だ。やわらかいライトが当てられ、シャッターを切られるときは、ストロボ光が発せられる。狭い、六畳しかない部屋だ。カメラは事務室の四畳半のところからでも撮れるから、部屋を仕切る敷居のうしろにセットされる。
「手を、まえに組んで、いいね」
「はい、椅子に座って、そうだ、膝を開いてよ」
「うんうん、素敵だ、いいねぇ、かわいい、とってもかわいい」
志保は、しだいに、モデルになっていきます。啓介が近寄ってきて、肩を触ってくる。後ろに戻りカメラを覗いて、膝を触りにくる。志保は、しだいに、わけがわからなくなって、言われるかがまま、されるがままになってくる。
「ほんとわね、ヌードを撮りたいんだ、でも、だめだろうな」
「ええっ、ヌードって、はだか、ですか、それは、ちょっとぉ」
顔を紅潮させて、驚いた表情を見せるが、啓介には、もう少し押せばヌードが撮れると思った。リモコンでシャッターを切りながら、啓介は志保を触りにいく。触れば触るほど、志保はうっとり、なされるがままになっていく。
「ああっ、いやぁああん、けいすけさま、あっ、あっ」
後ろにまわった啓介が、背凭れ椅子に座った志保の首筋から、手を入れてきて、ブラの中へ手を入れ、乳房を手の平に包み込んでしまった。
「ああっ、どうして、いやん、どうしてぇ」
びっくりしたけれど、抵抗はしない志保。胸へ降ろしてきた啓介の手首を、志保は退けるというより、掴んでしまう。
「いいね、いいんだ、志保ちん、いいんだよねぇ」
乳房を掴んだ手の平が、うごめかされる。志保は、こんなことされるのはもちろん初体験だ。男の人と交わったことが初めてなのだ。なされるがままにしようと、思っていたが、やっぱりされだすと、気になってしまう。
「はぁああ、ああん、あああん」
立たされ、抱かれてしまう志保。シュミーズを脱がされ、首の後ろに留められる。ブラジャーがはずされ、首の後ろだ。透けたショーツの前は、黒い影がうっすら見える。
「ああ、こんなの、ああん」
「じっとしていてよ、シャッター切るからね、じっとだよ」
立ったまま、手は横にだらりとおろしたまま、ショーツで腰から股間は隠しているが、乳房は完全に露出している。半裸姿で、志保は、正面撮りされる。ここまで来たら、もう、最後まで、やってやる、と啓介は思うのだ。スキンは十分に準備してあるから大丈夫だ、と啓介の頭のなかを志保が裸のイメージが巡る。

-24-
 カメラの前で、乳房をさらけだしてしまった志保は、恥ずかしい気持ちにおそわれる。だらりと手を降ろしたままだ。ショーツは穿いているとはいっても、カメラの前、ちょっと意識しだした啓介の目の前だ。顔が火照ってくる。カシャ、カシャ、シャッターの音とともに、ストロボが光るのだ。
<ああ、だめ、だめですよぉ、啓介さん、もう、わたし、ああっ>
「手を頭の後ろにまわして、頭を抱いて、腕をひろげてよ」
志保は左右の手をショートカットの頭の後ろでかさね、肘を横にひろげる。胸が張る。盛りあがった乳房が前に突き出す。恥ずかしい、とっても恥ずかしい。志保が乳房を男の人に見られるのは初めてだ。病院で診察するときだって女医さん。温泉場の脱衣場では女性ばかりだ。カメラスタジオで、モデルになっているとはいえ、男の目を気にする志保だ。
「いいねぇ、志保ちん、椅子に座るかい、その椅子に」
背凭れ椅子だ。座部は丸い。木で出来た背凭れはテニスのラケット状だ。座る処は細い竹で編まれている椅子だ。
「はい、わかりました、すわります」
かなり動作が遅いのは、裸を気にしているからで、志保は足を揃えて、手は頭の後ろにしたままで、座る。
「いいねぇ、志保ちん、とってもアイドルだ、素敵だね」
啓介は、思いのほか従順な志保のうごきに、目線で追う。白い肌だ。ぽっちゃりしてる。おっぱいだって、ぷっくらだ。ツンツン、乳首の淡い色。心のなかで独り言だ。白いショーツがなんとも可愛らしいと啓介は思う。脱がして股をひろげさせた格好は、最高だろうな。男の心だ。
「だめですよぉ、ああっ、だめですったらぁ」
背凭れ椅子の後ろにまわった啓介が、肩から手を降ろしてきて、志保の乳房に手の平を置いたのだ。頭の後ろにかさねていた手を解いて、啓介の手首をつかんだ志保。払いのけようとはしないで、むしろ胸を張る格好で、背伸びする格好だ。裕二は着衣のままだ。シャツを着ているしズボンも穿いたままだ。志保は後ろから抱かれて立たされる。啓介と向きあわされ、抱かれてしまう。
「ああ、啓介さまぁ、ああっ、あっ、ううっ、うううっ」
キッスされ、口を塞がれたままだ。抱かれて、啓介が上半身の服を脱ぐあいだは抱かれたままだ。上半身を裸にした啓介が、志保を正面からぎゅっと抱きしめる。志保のぷっくら胸が、啓介の平たい胸に押し当てられる。狭いスタジオの真ん中だ。二人だけだ。志保は、なるようになる、その気で来たから、逃げはしない。
「わたし、はじめて、なんです、初めて・・・・」
立ったまま、裸の上半身をあわせて抱かれたなかで、志保が、小さな声で、啓介に告げる。啓介が驚きもしない感じに思えた志保だ。といっても全てを男の啓介に任せるしかない。



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最新更新日 2018.11.26


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