桜花の頃-3-

 17〜21 2020.3.26〜2020.4.2

 

-17-
アダム&イブのボックス席にはいった友子と良一です。良一の左腕が友子の背中から左肩へまわっています。友子は抱き寄せられ、からだを右によじって抱かれます。
「お姉さん、ああ、いい匂い、甘い、匂い、やねぇ」
「ううん、大村くん、やさしくしてね、このままで、居たいわ」
ジャスの音色はサキソフォーンだと、良一が思います。友子の髪の毛がアゴの下です。手ブラの右手を、友子の太腿に置いてやります。友子は右腕を良一の背中にまわしています。そうして左の手を良一の胸にあてています。
「うううん、いいのよ、大村くん、ああん」
良一に抱かれる友子が、膝をひろげ、膝をとじ、膝をずらせて身悶えします。その動作がゆっくりと、なんどか繰り返されるのが、良一にはわかります。太腿に置いていた手が、友子の腰から下の動作を感じるのです。良一は、右手を友子の生足、膝に当てます。友子の膝はテーブルの下です。良一が、友子の膝においた右手を、太腿へさすりあげてやります。友子の表情は、良一には見えませんが、鼻にぬけるくぐもった声が、息づかいでわかります。
「ううっ、ああっ、ふぅうう、うう、うう・・・・」
友子は、良一の胸においている左手を、おろしてきて、ズボンのベルトのしたへもってきます。良一は、友子の太腿に置いている手をはずし、ジッパーをおろして、友子の手がなかへ入るように仕向けます。そうして、良一の右手が、友子の太腿へさし入れられていきます。暖かし、柔らかい、友子の太腿の感触に、良一はうずうずと心が、身体が揺すられます。
「いいよ、お姉さん、手、入れて、にぎって、ほしい」
小声で、良一が、友子の耳元で囁きます。良一の右手は、友子のスカートのなかです。太腿のつけ根、内側にまで指を這わせています。友子は、良一が穿いたブリーフの割れ目から、ナマの男根を剥き出し、握ってしまいます。薄暗い半ば密室のボックスです。呻く声、囁く声はジャズの音色にかき消され、身体を寄せあう二人だけが、感知しあうのです。
「大村くん、ああっ、ああん、大村くん・・・・」
友子には、好きな大村良一です。年下とはいえ、大人の男性です。一緒にいると気持ちが安心します。それは良一にとっても同じことです。
「お姉さん、あったかい、やわらかい、ああ、お姉さん・・・・」
まさぐりあう友子と良一です。友子は良一の男根を、良一は友子の女陰を、まさぐりあい、感じあっていきます。ここは二人だけとはいっても開かれた空間です。隣り合って座っている友子が、狭いなか、良一の腰をまたいで向き合います。フレアスカートを穿いた友子ですから、跨いで、ショーツを退け、女陰に男根を挿入しても、外見は、向きあって抱きあっていると見えるだけです。ヌルッとした友子と良一の接合処です。友子は燃え、良一は快感、友子が呻き、良一は無言、愛しあう男と女、良一と友子です。

-18-
小高画廊の権利を委譲してもらうためには、友子のちからだけではできなくて、佐倉家の資産として画廊の家屋ごと買い取ることになっています。日本画を扱ってきた画廊のコンセプトを、油絵とか版画とか、扱う枠をひろげ、若い美術家の作品を扱いたいと友子は思うのです。画廊は二階へあげてサロンとし、一階は美術品といっても小作品、書籍なども扱いたい。友子は、桜の季節が終わったら、改装のため画廊を閉じることにしました。
「はい、ありがとうございます、ぜひ、先生のお力をお借りしたいと存じます」
高浜老人が、画廊という名称より、ギャラリーという名称にして、佐倉ギャラリーという名称にして、会社組織にして、株主として出資してもよい、とおっしゃるのです。会社経営について、友子は全くの素人です。銀行員を辞めた大村良一なら、その方面の知識もありそうだから、運営に参加してもらってもいい、と友子は考えます。事務作業は島田裕子に頼もうと思う友子です。
「そうよね、学習塾とかけもちで、経理とか手伝ってあげるよ、ギャラリー、興味あるから」
「お姉さんが社長なら、ぼくは、アドバイザーで、支えます」
会社だから、社長には友子が就任します。高浜老人は株主です。もちろん株式の過半数は佐倉家です。裕子も良一も、株主にも役員にはならなくて、非常勤、アルバイトで社員です。
「尾上さん、作品、展示してくださいね」
「はい、佐倉さん、わたし、契約作家としてもらえれば、うれしいです」
「こちらこそ、よろしく、おねがいしますね、尾上さん」
友子は、一階をショップにして、二階をギャラリーにするという構想で、知りあいの建築家さんに店舗の設計を依頼します。工期は一カ月、五月のゴールデンウイークにはオープンしたいと、友子は思っています。オープニングの作家は、日本画の尾上祥子です。一階にはショップと小品の展示場とカフェを作ります。
「お姉さん、事業計画書を作らなくっちゃ、ぼくがつくってあげるよ」
良一が、友子のギャラリー運営にかける思いを聞き取り、資金計画とか事業展開の計画書を作るというのです。すぐに銀行からの融資をうけるのではなく、自己資金で運営する、無借金運営を目論みます。

-19-
良一は、営業ノルマに追われて、行き場所を失いかけていたとき、上司から退職を示唆してもらえて辞表をだし、大手の銀行を退職したのでした。そのころの追い詰められた気持ちを思い出すと、良一はまた奈落のふたが開くのではないかとの思いがよみがえります。先輩の女子、佐倉友子からアポがあって、久しぶりに会ったころから、良一の気持ちは、落ち着き、上向いてきて、前向きになったところです。
<こころの支え、お姉さんは、美しい、ぼくは支えられてる、好きなんかもなぁ>
この先どうしようかと思っていた良一に、友子から、桜ギャラリーとショップの店をやるので手伝ってほしい、との話があって、なにはともあれその話にのることを即決しました。
「大村くんが、参加してくれると、きっとうまくいくとおもうのよ」
「お姉さんが、そう思ったら、うまくいくと思う」
「いろいろ、忙しくなるけど、がんばって、やろうね、大村くん」
良一には、気品ある麗しい友子が、ギャラリーを運営するのを、援護したい気持ちです。恋心もあって、友子と一緒にいることで、心が救われると思えるのです。友子にとっても、信頼する後輩の良一がそばにいてくれることで、なにごともうまくいくように思えます。
「友子、ショップの仕入れ、東京の人気ある店から、商品を納品してくれる約束だよ」
「そうなのね、裕子、人気のグッズを、置かせてもらって、ね」
裕子は、商売がうまい、と友子は思います。おっとりな性格の友子にはない才能が、苦労してきた裕子には備わっている、と思うのです。広告を出す、という口約束で無料配布の新聞に記事を書いてくれるというので、若い女性記者のインタビューに応じます。
「尾上祥子画家の展覧会とショップのオープン、人気のスポットになりますよ」
「そうなれば、うれしいです、よろしくお願いします」
東野という女性記者が、わたしが理想とするお店がオープンするので心が躍っています、というので企画は大当たりになるだろうと思えます。友子の生きがい、良一の心の支え、裕子の商才、内装工事がはじまっています。会社登記の手続きは、良一が司法書士事務所に依頼していて、定款を作成してもらっています。開店準備資金は、株主になる佐倉財閥が出資金とは別に、貸付金名目で支出してくれています。

-20-
高瀬川沿いの桜が満開なので、友子は良一を誘って桜見物に時間をとります。三条小橋で待ち合わせして四条まで、桜並木をそぞろに歩きます。佐倉ギャラリーのオープンを控えて、あわただしい気持ちになっている友子。それに良一の方が進めている法人登記のこと、オープンに合わせた打ち合わせの合間です。
「すごい、きれい、さくら、まんかい」
「いいですね、お姉さん、きれいですねぇ」
「大村くん、頼りにしてる、わたし、とっても」
「うん、ぼくも、お姉さん、頼りにしてる」
四条小橋までそぞろに歩いて来て、喫茶店へはいり、サンドイッチと良一は珈琲を、友子は紅茶を頼んで、夜の食事のかわりです。目的は、ラブホテルへいくことです。四条小橋を下がっていくとこじんまりした入口のドアがあって、友子が一歩先、良一が一歩あと、なかへはいります。ルームへはいると、もう二人だけの世界です。友子が良一を誘導してきます。良一が友子を抱きます。死にそうになっていたころの記憶が、良一の脳裏にあらわれ、暗闇の記憶が薄れてきて、抱きしめた友子の甘い香りを、意識します。唇を重ねる、柔らかい感触、友子の息する音が、やわらかに聞こえます。
「ああ、大村くぅん、大村くぅん・・・・」
「お姉さん、お姉さぁん・・・・」
抱きあって、からだをまさぐりあいながら、キッスして、肌に触れるのです。満開の桜咲く赤瀬川沿いからサンドイッチをたべた喫茶店、そうして静寂のホテルのルームです。
「ああ、いいのよ、ああ、だめよ、だめ、もっとやさしくして・・・・」
友子は、好きな大村良一に頼り切っているところもあり、男としても受け入れています。良一が、友子の身体をまさぐり、唇で愛撫してくるのを、友子は拒みません。心地よい余韻が身体のなかへ滲みこんできます。
「お姉さん、好きだ、好きですよ、ああ」
「大村くん、好きよ、好きよ、好き好き」
抱きあって、裸になって、男の部分、女の部分、それぞれに愛しみあいます。
「ああ、いい、いい、いいわよ、ああ、ああっ」
「おお、ああ、いい、いい、いくいく、お姉さん、いっしょに、いくよ」
抱きあって、結ばれあって、クライマックスにのぼっていくとき、友子はうれしく、良一は心満たされ、果てていきます。

-21-
佐倉ギャラリーのオープニングです。一階がショップ、二階がギャラリーです。白い壁面には、日本画家尾上祥子の10号作品が展示され、作家は午後からの在廊です。金曜日です。ショップには島田裕子がレジにいて、接客します。若い人向けの美術品グッズを並べて、美術系大学生の来店を見込んでいます。喫茶コーナーがあり、カウンターとテーブル席、明るい光がガラスを通して入ってきています。
「おめでとうございます」
記事を書いてくれた記者の東野利恵が、さっそく来店してきて、ショップを写真撮影してくれます。友子のポートレートを撮ってくれます。
「ありがとうございます」
友子は、清楚なワンピース姿で東野を迎え、写真に撮られます。午後二時からはオープニングのセレモニーを予定していて、高浜老人も出席していただく手配済みです。
「ようやくオープンさせました、企画展は、これまでの作家さん三人にお願いしています」
「その最初が、尾上祥子展になるわけですね、あとのお二人も若手作家さん」
「理想は、新人発掘、東野さん、お世話になります、記事にしてくださいね」
「ええ、佐倉さん、広報のお手伝いしますよ、こちらこそ、よろしくお願いします」
小高画廊からの継続とはいえショップを開店させたし、書籍販売にも力を入れていきたいし、友子には佐倉ギャラリーの代表として振る舞う気持ちで、緊張しています。大村良一は、役員として迎えいれ、裕子にも役員をとの話をしたけれど、辞退したので従業員です。
「お姉さん、いよいよ、いよいよ、ぼくもがんばるから」
「大村くん、ありがとう、わたし、がんばるから、ね」
明るいショップに喫茶コーナー、女子学生二人が入店してきて、最初のお客さんです。
「うん、美大で日本画専攻してるの、よろしくお願いします」
二人の女性は、友子と裕子のあいだで、会話を交わしてくれます。それからギャラリー会員に登録してくれて、フアンになると言ってくれるのでした。友子の夢が実現して、いよいよこれからが、豊かな日々が始まっていくのです。
(この章おわり)









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最新更新日 2022.4.3


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