物語と日記のブログから


愛の音色-2-

 9〜16 2018.10.19〜2018.10.31

-9-
 気持ちが少し疲れているから、しばらく、ゆっくり、休養した方がいいよ、と医師に言われて、奈美は、その旨の診断書を作ってもらった。会社には休職だと言ったらいい、とカウンセラーからアドバイスをもらって、奈美は電話で営業チームリーダーに電話した。
「そうなの、それなら、しばらく休みにしたらいいわ」
「はい、よろしく、おねがいします」
「診断書は、私宛に送ってもらえる?、郵便でね」
「はい、わかりました、送ります」
チームリーダーは三十半ばの女子で、営業十年以上のベテランだ。誰に相談するとも、相談する相手がいない。病院でカウンセリングを受ける、というのも奈美には踏みだせない。ひとまず、明日からは休みだ。そう思うと気が晴れた。辞めるのではなく休職だというのだ。病気休職の扱いだと会社からは給与は出ないが、保健組合の方から半分ほど支給されるから、失業よりいい。診断書は三十日だ。
 夜になって、奈美は駅前のコンビニへ、飲み物と弁当、明朝のパンを買いに出かけた。暗くなった駅前は、仕事を終えて帰ってくる男の人、女の人、みな足取りが重いようにも見える。
<わたし、なにしてるんやろ、わたし、こんなことで、いいのかしら>
お酒は飲まないし、外食もあまりやらない奈美は、見渡してみると、ひとりぼっちだ。会社で、営業チームで競争しているけれど、心をひらいて話をすることもなかった。裕二の顔が浮かんでくる。小さなテーブルにペットボトルのお茶と洋食の弁当をひろげ、テレビをつける。お笑いのバラエティー番組で、気持ちがのらないからスイッチを切った。静寂になる。心細い。ワンルームは檻のように思える奈美。食事は半分だけで終えた。
<あした、美容院で、きれいに変身させてもらおかな、まえに言われから>
あまり華美にならない程度のおしゃれをしたら、奈美さんは、粋な女性に変身するよ、と美容院のおねえさまが言っていた。その美容師さんを訪ねていって、小悪魔ちゃんにしてもらお、と奈美は思った。そう思うと、こころが浮き浮きしてきた。
 短大のときに買ったデジタルカメラを、取り出してみた。写真サークルに入っていて、友達数人と撮影をかねた旅行に行ったこともあった。そう思うと、次から次へと思い出がよみがえってきた。カメラは短大卒業後も使ったことがあったが、最近ではスマホで撮るだけで、カメラは使わない。そうそう、そうなのよね、愛子の車は軽四輪だったけど、四人で山陰の方へ旅したなぁ、と思うとアルバムを取り出して開いてみた。女の子が四人、大山のお土産屋さんで、知らない女性にシャッターを押して、撮ってもらった記念写真がアルバムに張られている。愛嬌ふりまく四人組っていった感じのポーズをとって、写っているのだ。
<19才だったのよね、わたし、みんな、どないしてるんやろ>
懐かしさの気持ちが湧き上がってきて、卒業後もメールのやりとりをしていた愛子に、連絡をとってみようと思い立った。

-10-
 落合愛子とはフェースブック友達になっていたから、検索してメッセンジャーで会いたいと書き込んでから数時間後に返信があった。淀屋橋の駅を上がったところにある喫茶店で、二日後の午後三時に待ち合わせできた。奈美は、愛子と連絡が取れたあとの、翌日に美容院へ行った。顔なじみの美容師さんにお任せして、今現在の美人にしてもらえる、というのだ。
「そうね、ショートカットがいいわね。可愛くなるよ、きっと、ね」
「ああっ、おねがいします、切ってください」
長い髪の毛をショートカットにしてもらって、首のところでカールするようにしてもらって、おかっぱにしてもらうと、奈美は別人のようになった。
「ルージュも赤いのがいいね、似合うと思う」
「お洋服も変えなくちゃね、ユニクロでもいいけど、ブティック紹介するわ」
美容師さんは、奈美からすれば美容の、スタイリストの専門家だ。多少お金がかかったが、紹介されたブティックへ行って、ピンク系でエレガンスな洋服を選んでもらって、着てみることにした。翌日、愛子と会った。愛子は、可憐さと優雅さを纏った美奈に、目を見張った。
「愛ちゃんだって、素敵だよ、わたしなんかより、素敵よ」
「まあまあ、ご謙遜を、美奈だって、素敵だよ、抱きたいくらいだよ」
「それで、婚約したのよね、フェースブックで見たよ」
「まあ、ね、25だし、縁あるときに一緒になろうかと思った」
「まあね、いいな、わたしなんか、つまんない」
「いい人、見つけなさいよ、わたしたちの人生って、男次第のとこもあるでしょ」
「愛ちゃんの彼は、いい人なんやろな、いいなぁ」
「いい人、いるんじゃないの、奈美、わかるわよ、わたし」
「ええっ、まだ、そんな、そんなとこまでいってない」
小杉裕二の顔が浮かんできた奈美だ。まだ一回しかデートしたことがない相手だ。その後、連絡がない。からだを結んでしまった関係になったが、奈美には、この後があるのかないのか、不安なところだ。
「彼、信二ってんだけど、アーティストなのよ、だから、わたしが支えてあげないと」
「なにしてるの、アーティストって、何屋さん」
「ガラス工芸、ほら、コップとか花瓶とか、そういうの作ってるのよ」
「工房って持ってるの?、信二さん、わたし、興味あるわぁ」
「奈美の彼は、どんな人なの、やってるんでしょ」
「やってるって、なにを?」
「なにをって、決まってるでしょ、せっくす、よ、女は男次第だから」
午後三時過ぎの駅上喫茶店は、会社員の男子グループがミーティングしている。女子は休憩時間してるのか、ひとりで、ストローでアイスコーヒーを飲んでいる。奈美は、病気休職しているが、数日前まで、ここにいる人たちと同じような日々を過ごしていたんだ、と思う。

-11-
 喫茶店を出た奈美と愛子は、淀屋橋から北浜のほうへ歩いて、早いけどといいながら食事をすることになった。女二人だから、お酒を飲む処ではなくて、食事ができる処を探す。奈美がこの界隈のことはよく知っているから、イタリアンの店に入った。まだ勤め人には仕事が終わっていない時間だから、空いている。パスタが美味しい店だから、奈美も愛子も店長お勧めパスタを頼んだ。
「そうなの、美奈はからだを壊したんだ、ストレスよね」
「そうかもね、あんまり営業の仕事、好きじゃないのよね」
「その点、わたしは、らくちんね、バイトだし、コンビニだし、慣れれば、ね」
「どこのコンビニなの、住んでるところは中津だから、淀川沿いのローソン」
「中津には、あんまり行かないな、わたし、京阪電車だから」
「そうなの、枚方だよね、ワンリームだよね」
「そうそう、ワンルーム、家賃、高い、安いの探そうかなぁ」
「わたしは、大阪から離れるよ、丹波の方、彼の工房が篠山なのよ」
「そうなの、いつごろから、なの」
「もう、そうなの、一緒なの、篠山はいいところよ」
愛子は、ガラス工芸の工房を持つ大竹信二のところで、もう一緒にいるんだと言った。大竹信二の工房は名前を粋工房といった。大竹は三十半ばを越えていて、愛子とは干支ひとまわり違う年齢だといった。200坪の敷地に畠を作って、自給生活をしている信二に惚れたのだと言った。
「近くにね、ヤギを飼ってる所があって、そこで、お手伝いさせてもらってるのよ」
愛子は、都会人だと思っていた奈美には、ヤギの乳を搾る仕事を手伝っているということに驚いた。畠もやっているという自然派だ。そんな生活があるのだ、ということを奈美は初めて知った。別段これまで興味がなかったから知る由もなかった。
「そうなのよ、彼、アーティストだから、わたし、好きになっちゃったのよ」
「そういう生活が、愛子には、向いているのかしら」
「三年前よ、辞めたの、二年間会社勤めしてたじゃない、面白くなかったのよね」
奈美が直面している事態に、愛子はもう三年も前に直面して、会社を辞め、ぶらぶらコンビニバイトでつないでいて、その店へ常連で買い物にきていたのが大竹信二で、プロポーズされたのが一年前。それからつきあうようになって、バイトの合間に、粋工房へ半分遊び、半分お手伝いに行くのだという。一週間に一回、泊まってくるんだと、愛子はいった。
「いいなぁ、愛ちゃん、わたし、ひとり、だれもいない」
「いるんでしょ、銀行の人がいるって言ったじゃん」
「いっかいだけ、会ったの、京都へ行ったの、ついこないだ」
奈美には小杉裕二の顔が脳裏に浮かんでは消える。どうしたわけか、心を許した相手だ。最初のデートで処女を明け渡した彼、小杉裕二、32歳の銀行員だ。好きになってもらおうと、美容院へ行き、ブティックへ行って、身の回りを美しくしてもらったところだ。魅力ある25歳の女、向井奈美が誕生しはじめていた。

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 喫茶店を出た奈美と愛子は、淀屋橋から北浜のほうへ歩いて、早いけどといいながら食事をすることになった。女二人だから、お酒を飲む処ではなくて、食事ができる処を探す。奈美がこの界隈のことはよく知っているから、イタリアンの店に入った。まだ勤め人には仕事が終わっていない時間だから、空いている。パスタが美味しい店だから、奈美も愛子も店長お勧めパスタを頼んだ。
「そうなの、美奈はからだを壊したんだ、ストレスよね」
「そうかもね、あんまり営業の仕事、好きじゃないのよね」
「その点、わたしは、らくちんね、バイトだし、コンビニだし、慣れれば、ね」
「どこのコンビニなの、住んでるところは中津だから、淀川沿いのローソン」
「中津には、あんまり行かないな、わたし、京阪電車だから」
「そうなの、枚方だよね、ワンリームだよね」
「そうそう、ワンルーム、家賃、高い、安いの探そうかなぁ」
「わたしは、大阪から離れるよ、丹波の方、彼の工房が篠山なのよ」
「そうなの、いつごろから、なの」
「もう、そうなの、一緒なの、篠山はいいところよ」
愛子は、ガラス工芸の工房を持つ大竹信二のところで、もう一緒にいるんだと言った。大竹信二の工房は名前を粋工房といった。大竹は三十半ばを越えていて、愛子とは干支ひとまわり違う年齢だといった。200坪の敷地に畠を作って、自給生活をしている信二に惚れたのだと言った。
「近くにね、ヤギを飼ってる所があって、そこで、お手伝いさせてもらってるのよ」
愛子は、都会人だと思っていた奈美には、ヤギの乳を搾る仕事を手伝っているということに驚いた。畠もやっているという自然派だ。そんな生活があるのだ、ということを奈美は初めて知った。別段これまで興味がなかったから知る由もなかった。
「そうなのよ、彼、アーティストだから、わたし、好きになっちゃったのよ」
「そういう生活が、愛子には、向いているのかしら」
「三年前よ、辞めたの、二年間会社勤めしてたじゃない、面白くなかったのよね」
奈美が直面している事態に、愛子はもう三年も前に直面して、会社を辞め、ぶらぶらコンビニバイトでつないでいて、その店へ常連で買い物にきていたのが大竹信二で、プロポーズされたのが一年前。それからつきあうようになって、バイトの合間に、粋工房へ半分遊び、半分お手伝いに行くのだという。一週間に一回、泊まってくるんだと、愛子はいった。
「いいなぁ、愛ちゃん、わたし、ひとり、だれもいない」
「いるんでしょ、銀行の人がいるって言ったじゃん」
「いっかいだけ、会ったの、京都へ行ったの、ついこないだ」
奈美には小杉裕二の顔が脳裏に浮かんでは消える。どうしたわけか、心を許した相手だ。最初のデートで処女を明け渡した彼、小杉裕二、32歳の銀行員だ。好きになってもらおうと、美容院へ行き、ブティックへ行って、身の回りを美しくしてもらったところだ。魅力ある25歳の女、向井奈美が誕生しはじめていた。

-13-
 小杉裕二の目の前にいる向井奈美は、これまでとは違う見え方で、別人のような女子に見える。髪の毛がショートになっている。化粧せいか顔の艶にも潤いが感じられる。洋服は鮮やかなブルーのセーターで、女らしさに満ちているように感じられる。
「それで、向井さんは、いつもどんなふうに呼ばれているの」
「そうね、奈美さん、奈美ちゃん、奈美、いろいろ、親しくなければ向井さん」
「じゃあ、ぼくは、何て呼べばいいのかなぁ、奈美ちゃん、かなぁ」
「はい、それで、いいです、なみちゃんで、いいけど、小杉さんのことは?」
「ああ、ぼく、ね、裕ちゃん、裕二、小杉ちゃん、でもいいし、どれにする」
「どれでもないわ、裕二さん、ゆうじさんが、いいですけど」
「なら、それで、いい、奈美ちゃんと裕二さんだ、これでいい」
裕二は、お互いの呼び名を決めて、まだ残っているコーヒーのカップを持ち、ぐっと飲んだ。志保は、ポテトスティックを口に運んだ。
「ぼくは、九州は宮崎生まれだよ、見なちゃんは?」
「前に言ったと思います、石川です」
「そうだったね、能登のほうだと言ってたね」
「ええ、それで、高校までそこにいて、短大が、大阪で、それ以来、大阪です」
「ぼくは、大学が京都で、仕事は銀行、転勤もあるけど、この五年は大阪だよ」
「というと、どこかにいらして、大阪なんですか」
「最初は横浜支店、そこで十年、東京本社三年、それから大阪支店」
奈美は、高校時代のことを尋ねられる。読書はしたか、とか、スポーツはしたか、とか。読書はしていない、スポーツは弓道部にいた、と話した。楽しかったか、と問われて、楽しかったです、と答える。よく実家へは帰るのかと聞かれて、お正月くらい、と答える。家族のことは聞かれなかったから、奈美は答えなかった。
「会社、辞めて、アルバイトして、写真の学校へ行こうと思っているの、カメラマンになる」
「そうなの、そんなセンスあるんだ、奈美ちゃん、アーティストなんだ」
「それは、そんなこと、ないです、わたしは、ブチャブチャ、弓ならできるけど」
「ブチャブチャって、どんなことなの、初めて聞くよ」
「ええ、初めて使います、ブチャブチャって、なんにもないってことかなぁ」
「あるじゃん、あるじゃん、奈美ちゃん、可愛いからだがあるじゃん」
「あっ、だめ、せくはらよ、そういう言い方、でも、わたし、からだしかない」
奈美は、裕二の顔を見て、イケメンだなぁ、と感じる。スタイルいいし、スマートだし、いい人だ、と思う。見つめられちゃうことを意識すると、ドキドキする奈美だ。

-14-
 ハンバーガーの店で小一時間を過ごして、まだ土曜日の午後三時を過ぎたところだ。裕二が、自分のマンションへ来ないか、と奈美を誘う。奈美は、まだ二度目のデートだからと、少し戸惑ったが、いい関係になりたいと思うから、行くことにした。
「星が丘ってところで降りて、五分ぐらいかな、ぜひ、見てほしい」
奈美は美しい、と裕二は思っている。もう暗いイメージは、目の前にいる奈美からは感じない。
「ええ、裕二さんのマンション、行ってみたいです」
独身女子が独身男子の住まいへ行くということは、その先のことを予測している。改札をはいって、支線の乗り場から電車に乗って、星が丘で降りた。坂になる昇りの道をゆるゆるといくと右手に星が丘ハイツのプレートがあるマンションに着いた。奈美がいるワンルームマンションとちがって、家族向けのマンションだ。エレベーターで五階までいき、廊下を歩いてドア五つ、506号室だ。
「ここなんですか、いいのかしら、わたし、お邪魔して」
「もちろん、いいんですよ、来てもらえて、嬉しいよ」
「わたし、失礼な女だと、思わないでくださいね」
「どうして、そんなこと、思わないよ、さあ、どうぞ」
ステンレスの玄関ドアが引いて開かれると、目の前が廊下になっていて、木にカットガラスがはめられたドアだ。
「おじゃまします」
靴を脱ぎ、裕二に聞こえるか聞こえないかわからない小声で、そういい、奈美がリビングに入った。男一人のリビングは八畳間だ。奈美がいるワンルームより広い。リビングの隣に六畳の部屋、そこに収納庫がついている。玄関から入った右側に四畳半の和室があり、左側にはバストイレキッチンがある。
「一人だから、殺風景でしょ、なにか足らないんだけど」
奈美は、男の部屋には、ブルーとグレーの色しかないのに気づいた。黒い立派なオーディオセットが置かれている。ソファーは布張りだが、高級品だ。六畳間のほうは、机と椅子が、まるで社長室にあるような立派な机と椅子だ。
「色が足らないんだと思います、わたしなら桜の色とか、春らしい色とか」
「そうだよね、奈美ちゃん、選んでくれれば、それにするよ」
「そうですね、買いにいきましょうか、次来るときに」
「そうだね、買い物に行きたいね、奈美ちゃんと一緒に」
「一緒に、ですよね、行きましょう、行きましょう」
はしゃぐ奈美。心が落ち着かなくて、むしょうにはしゃいでしまう奈美。もう、まるで婚約者のような感じで、奈美は裕二のマンションルームにいる。

-15-
 女が男と二人だけになる。二人以外には、誰もいない。小杉裕二のマンションへ来ている向井奈美だ。初めてのことで、まだ緊張している奈美だ。裕二も、初めて奈美を自分が住むマンションへ導きいれたから、どこからどうしたらいいのか戸惑うところだ。マンションに来た、ということは、すでに京都で二人の儀式を済ませているから、その続きを、奈美が望んでいるのだろう、と裕二は思った。裕二は32歳の独身男子だ。そのことでいえば奈美は25歳の会社員で独身だ。
「ううん、奈美ちゃん、こっちにおいでよ」
膝をスカートから丸出しにさせた奈美を、そばにおいでという裕二だ。数メートルも離れていない。1m程しか離れていない裕二と奈美の距離だ。奈美は、ソファーはラブチェアーで、真ん中に座る裕二が右にずれたので、左横に座る。座るとふかふか、お尻が沈む込む。腰から膝が斜め上にあがる。奈美は膝をぴったしとくっつけたまま、足裏をカーペットに置くと、ふくらはぎがこころもち斜めになった。
「あっ、ああっ、小杉さん、裕二さま、ああっ」
裕二が左腕を奈美の肩にまわしてきて、抱き寄せたのだ。奈美は、予期していたとはいえ、心がふるえた。声がうわずってしまって、動転する奈美。
「はぁああっ、いいんだろ、奈美ちゃん、いいんだろ」
裕二が奈美を抱き寄せ、キッスを迫る。柔らかく奈美の背中を抱いた腕に、力がこめられる。ピンクのカーディガンを着た奈美が、裕二の求めに応じます。
「うっ、うふっ、ううっ」
軽く唇をかさねられた奈美が、呻きのような声を喉奥から洩らしてしまう。目を瞑った奈美。裕二は、柔らかい唇を感じる。右腕を奈美の左わき腹に当て、抱き寄せる。ソファーに上半身を向きあわせ、足はソファーから床におろした格好で、抱きあった裕二と奈美だ。
「ううっ、ふううっ、うう、うう、ううっ」
奈美が着たカーディガンの内側へ腕を入れた裕二。奈美は抱き寄せられ、微妙に動く裕二の手にこそばさを感じながらも、夢中になっている。男に抱かれる。ほとんど未経験に近い奈美だ。

-16-
 男の匂いがする。いまいる部屋のなかも、抱いてきている裕二にしても、柔らかだけど炭酸のような匂を感じる奈美だ。初めてやってきた裕二のマンション、その部屋、いまいるのはリビングだ。リビングルームの二人掛けソファーに座っているのだ。
「ああん、裕二さま、わたし、わたし、ああっ」
「ううん、いい匂いがする、奈美ちゃんの匂い、ふぅううっ」
「ああん、あん、うっ、ふううっ、ううっ」
裕二が抱いてきて、キッスされて、奈美がうっすら唇をひらけるのだ。男の唇。このまえに京都で、ラブホテルで、唇をかさねたけれど、覚えていない、記憶にない奈美だった。
<うう、この感じだわ、ああ、この感じ、どないしょ、ああっ>
裕二がブラウスの上から胸に手を当ててくる。奈美は、布が擦れてかすれる音に、柔らかさを感じる。胸には三枚もの布が被っている。
「ああん、裕二さま、わたし、すき、すきだから、ああっ」
「奈美ちゃん、いい匂いの奈美ちゃん、すきだよ」
唇がはなされ、裕二の胸に顔を埋める奈美。それは女が男にふるまう前戯になっていく格好だが、初めてのいまは、そこまではいかない。裕二が奈美が着たブラウスのボタンをはずしてやり、そのなかへ右の手を入れる。インナーはキャミソールにブラだ。裕二の手がまさぐってくる。奈美は、こそばゆい気持ちになってくる。足が緩む。閉じている太腿が緩んでしまう奈美。
「ああん、裕二さま、あん、あん、あっ、ああん」
奈美の胸を這っていた手が、膝に当てられ、内腿を撫ぜあげてくる。ストッキングを穿かない奈美の太腿は生足だ。ぽっちゃり、白い、膝から上の太腿が、スカートをめくられて露出する。
「うっ、ああっ、ああん、裕二さま、ああん」
小さな声、心のなかのつぶやき、裕二に聞こえる声ではなくて、言葉にはならない声だ。裕二は、胸に奈美の頭が、左腕は奈美の背中から脇腹へまわし、左胸の上にまで。スカートがめくられた太腿が見えだすと、無性に心が起こってくる。
「奈美ちゃん、立ってみてよ、このまま」
「ああん、このまま、立つの、このまま」
リビングは八畳の広さだが、二人掛けソファーと一人用のソファーがあり、長方形のテーブルだ。大型のテレビがあり、書棚がある。ソファーの前には二畳のブルー系カーペットを敷いている。奈美が、裕二の前に立つ。裕二はソファーに腰を下ろしたままだ。前に立たせた奈美の手を握る裕二だ。奈美が降ろす両手の、それぞれの手首を軽く握る裕二だ。それから、握られた手が離され、スカートの裾からめくりあげてくる裕二の行為に、奈美は戸惑う。
「ああん、いやん、裕二さま、ああん」
「ううん、ちょっとだけ、奈美ちゃんのん、見たいと思って、さ」
裕二は半分までめくり上げたスカートを離し、奈美の腰に手をまわして、スカートのホックを外してしまう。奈美は、恥じらいながら、まるで子供のように、なされるがままだ。











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最新更新日 2018.11.29


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