耽美試行

花舞-3-

 11〜15 2016.5.27〜2016.6.10

    

3-1-

「あのとき、わたし、どうかしていたんだわ、きっと・・・・」
「セックスする関係になってしまったんですもの、あとは結婚・・・・」
26歳になってしまった美佐子は、由岐康夫とのことを、出会ったところから反芻するように、時系列で、順を追って、記憶をよみがえらせるのでした。そんなに頻繁に会っているわけではありません。会いたさに切羽詰まって会いたくなる、というほどには燃えていないのだけど、康夫のことは恋人といってもいいかなぁ、というんです。
「本屋さん?美術商?このまえ、行ったマンション、そこでほんとにやるんかしら」
美佐子には会社員の仕事は、もう慣れすぎてしまって、新しい何かが欲しいと思っているところです。康夫が提案しているシュールリアリズム系の古書などを扱うお店の店員、それもいいかなぁ、と思うところです。
「なんだか、わたし、あたらしいことが、始まりそうな気がする・・・・」
一人でいると、次から次へと空想のようなことが広がっていきます。まるで夢の中のお姫様、いえいえ玉の輿かも知れない。わたしの人生、バンザイ、でも、ほんとうにうまくいくのかしら。わたし、迷っちゃうな、どうしたらいいのか。由岐康夫さん、28歳かぁ、旦那さんにするには、なんだろ、ちょっと豊かなおうち過ぎるかなぁ。

「いいえぇ、今夜なら、六時半、大丈夫です、でわ」
iPhoneでのやりとりですが、康夫から直接の電話に応えた美佐子です。金曜日の夜です。康夫と一緒に夜を過ごす。明日は休みだから、遅くなっても、安心です。それに、今夜は、大丈夫だとは思う、でも、念のため、用意しておかなくちゃ。でも、これって、おんなの責任なのかしら、わかんないけど、もし万が一のことがあって、赤ちゃんなんかでけてきたら、結婚してるわけじゃないし、結婚するかどうかもわからないんだし。「でも、いいのよ、わたし、そうなったら、康夫さんと結婚する」
六時半までにはまだ一仕事終えて、退社して、それから、河原町のドトールの二階へ、それから食事して、会話して、行くんやろなぁ、あれから一週間だし、求めてくるやろなぁ。六時半という時間は、まだ薄明るくて夕方の気配が漂っています。ネオンがつきはじめ、夜の気配になってくる、そんな気配に美佐子がうっとりしてしまうのも、康夫と付き合いだしたからなのかも知れません。
「ううん、怒ってなんてしていません、大丈夫よ」
六時半を十五分もすぎてからLINEで間もなく到着するというメッセージが届いて、そのあとに顔を合わせたときの、最初の会話です。

3-2-

四条小橋をさがったところに珍竹林という雑炊の店があるから、軽く食事のつもりで康夫と美佐子がはいります。小さな店だけど、古いたたずまいは京都らしさというところでしょうか。雑炊は熱いから口のなかがやけどしないように、ふうふう、ふきながら食べます。
「あらっ、康夫さん、これでおなかいっぱい?」
「まあ、軽めにしておこうと思って、ううん、いいんだ」
「そうね、そのほうが、いいわけね」
男女がテーブルを介して向き合って、食事をするというのも、はたから見ればほほえましい光景。恋人どうし、金曜日の夜がはじまったばかりの時間です。三十分ばかりの食事時間で、店を出て、薄暗くなった石畳の路をさがっていくと、間口に植え込みがあるホテルのまえにやってきました。美佐子には、うるるんな感覚で頬がほてってきているのがわかります。ふわっと浮き上がったような感覚に、ドアが開かれ、薄暗いなかへと入ります。康夫がまえ、美佐子がうしろ。顔を隠すようにして受付をとおり、部屋へはいります。洋間、六畳くらいのひろさ、ベッドがあります。窓がひらけられるので、そっと少しだけひらけます。川べりでむこうが道路、まばらだけれど人が行き交っているのが見えます。雑踏なのに、静かです。窓を閉めると、ものおとひとつしないほどに静かです。
「ううううん、わたし、このまえの、おはなし、もっと、ききたい」
「美佐ちゃん、それはあとで、ああ、ぼく、もう」
ベッドのそばで立ったまま抱き寄せられる美佐子。耳元でささやかれながら、唇を重ねられてきます。

「はぁああ、ああっ、はぁあ」
「ううううっ、いいね、いいね」
抱きあって、康夫が右手で胸をさわってきます。美佐子は、着衣のうえからの触りに、かすかな刺激を感じます。ブラウスのボタンの真ん中が康夫に外され、ためらったのちには美佐子が上と下のボタンをはずし、まえをはだけさせてしまいます。
「ああん、康夫さま、ってよべばいいかしら」
康夫もカッターシャツのボタンをはずして、脱いで、ズボンははいたままのシャツすがた。美佐子はブラトップのインナーだから、ブラウスを脱いでしまっても、胸は覆われたまま、スカートのすそをめくりあげ、ストッキングは自分で脱いでしまうのです。
「ああっ、はぁああっ」
康夫がブラトップの裾から手を右入れてきて、乳房に覆いかぶせるように手の平を、あてがってきます。
「ああん、康夫さまぁ、あああっ」
なんでもない、いきなり左の乳首をつままれ、揉まれてしまったから、美佐子のくちからため息のような声が洩れだしてしまいいます。薄暗い洋間です。音がないから静か、布が擦れる音が、さらさらと聞こえます。美佐子は、もう、なかば気もそぞろ、からだを康夫に預けきります。

3-3-

ダブルのベッドがあって壁とベッドの間は1mほどです。ベッドの頭のほうに肘掛椅子と小さな丸テーブルが置いてあるラブホテルの部屋です。男と女、康夫と美佐子以外には誰もいない部屋です。抱きあいだした男と女は、しだいに着ているものを脱いでいき、素っ裸になってしまいます。
「ああん、康夫さまぁ、あああん、だめ、ああっ、いいっ」
「向井さん、美佐ちゃん、やわらかい」
「うううん、はぁああ、ああっ、ああっ」
「脱いじゃえよ、ほら、椅子に座れよ」
美佐子が先に全裸となって、肘掛椅子に座ります。そのまえに康夫が立ちます。愛しあうって、からだを交わらせること。性愛ってゆうんだ、結び合って歓びあうこと。ひとりでするのとは、まったく、ちがうんだ。気持ちがいいんだ。気持ちがいいんです。なにより、とっても、安心感に満ち満ちていて、これを幸福とゆうんじゃないでしょうか、康夫が独り言のように考えていました。でも、男と女が、抱き合い身体を結合させているときは、そんな思考なんて全くなくて、ただ、からだの接触を喜ぶだけの行為です。
「ううん、ああっ、そう、くちに、いれて」
美佐子の前に立った康夫の腰には、男の性器が勃起しています。美佐子は、それを手の平にはさみ、先っちょの頭を唇に挟みこみます。
「ううっ、ふぅうううっ、ううっ、ううっ」
唇を使ってあげる美佐子。先っちょの頭を、唇に挟んで絞り上げ、舐めあげ、挟みこんでそのまま口のなかへ入れ込みます。
「うううっ、うううっ、ふうううっ」
立ったままの康夫が美佐子の頭後ろへ左手を置いています。右手では、耳たぶから首後ろ、髪の生え際を、優しく撫ぜあげてやります。美佐子は、触られて、撫ぜられて、こそばゆさが消えていき、快感にかわってきます。

「ううっ、あああっ、あああん」
康夫が座り込み、椅子に座った美佐子の二つの膝に、それぞれ手の平をかぶせて置きます。ひろげます。膝から太ももの根元へと、手を這わせあげていきます。
「ううん、美佐ちゃん、まえへ、もっておいで」
深くに座ったからだ、お尻をまえへ持ってこさせて、椅子の縁にまでずらさせます。膝をひろげます。美佐子の股間が開かれます。美佐子の股間を、康夫は、じっくりと、見たことがなかったから、生唾呑み込む感じで、ドキドキ状態で、美佐子の股間を見ます。黒い毛が覆い茂っているけれど、濃いほうではなくて、むしろ薄いくらいです。黒毛というより茶色がかったようにも思えます。
「はぁああ、ああっ、康夫さまぁ、ああっ」
康夫が、股間に指を這わせてきたのです。陰毛の生え際から下の方へ、ぷっくらふくらんだ縦割れの唇、そのとがるあたまを撫ぜおろしてきたのです。なんにも感じないと言ったらうそ、うっすらとこそばされるような感覚です。そうされれいるうちに康夫の顔が股間にくっつき、唇が縦割れの唇に重ね合わされ、押さえられ、ひろげられ、ひろげられた内側を這わすようにして唇と舌がうごめかされるのです。
「ああっ、ああっ、はぁああ、ああっ・・・・」
美佐子は、前へずらせた足を、太ももから膝へ、大きく開いてしまいます。太ももをひろげ、康夫の頭を抱きます。
「ああ、ああ、これ、この、感じだわ、ああっ」
美佐子がからだを開いてくるので、康夫もひらけます、ひらけるといっても、こころをひらけるだけで、勃起ブツをいっそう勃起させていくのです。

3-4-

美佐子が康夫を受け入れるのには、それだけの理由があります。単に遊び、セックスフレンド、だとは思わない。結婚相手として、受け入れてもいいな、と思うようになっています。なんの抵抗もなく、この案件は、康夫が独身で有ること、美佐子自身も独身です。康夫も美佐子のことを好いてくれていて、いっしょに生活を営むということに賛成してくれるのではないか。
「ああん、はぁああ、ああん」
「美佐子、ううっ、ああ、いいんだね」
「はぁああ、ああ、だいじょうぶとおもうけど、つけて」
女と男が結合しているんです。美佐子には、男の康夫をからだに受け入れることは、そのまま生殖につながっているわけだから、それなりの処置を施しておかなければ、もしかして、妊娠してしまうかも知れない。
「はぁああ、ああっ、あああっ」
かぶさってくる康夫の背中へ腕をまわして、抱きしめていく美佐子に、康夫が応えてきます。首後ろへ腕を通され、ぐいぐいとこすりつけられながら、腰の勃起ブツが体内に埋められていることの感覚。密着している、密着しているんだわ。美佐子は、そう思うことで、からだが開いていく感じがします。ぐっと開く、ひろげる。こころもからだも開きひろげます。
「ううっ、ああっ、あああっ・・・・」
からだの奥で、はじけるような感触を受けた美佐子が、高揚します。からだのなかを突き抜けてくるぐぐぐぐ感です。これが快感、忘れることができない快感です。

「ううん、だから、美佐子には、家に来てもらって、それから」
「そうね、おとうさまやおかあさまの承認、だよね」
「美佐子のほうも、そうだろ、許してもらえるかどうか」
「大丈夫、だと思う、康夫のこと、承認よ」
「まあ、な、いまのところ、生活は成り立つから」
「ええ、それより、わたし、母にあってもらいたいわ」
「ぼくのほうも、父より母かなぁ、会ってもらいたいなぁ」
康夫は28才、美佐子は25才、適齢期といえば適齢期だから、お互いに家柄も遜色なく、両性、康夫と美佐子が合意すれば、それは成立するはずです。

3-5-

交合した相手と結婚することを想うというのは、美佐子は当然のことと思っています。快楽ではあるけれど、結果としてその行為が、あそびであってはいけないと、モラリストとして美佐子は考えるのです。だから、由岐康夫と懇意になって、一歩踏み込んでしまって、からだを交合させる関係になって、次のステップへと進めたい。
「でも、まだ、はやい、と、ぼくは、思っているんだ」
「だったら、わたし、待つしか、ないの?」
「そうだね、親が許してくれるまで、というところまで」
「いつまで、いつまで待てば、いいのかしら」
「なかなか、相手の家系のことだとか、ゆうんだ」
「わたし、お気に召さないというわけ、母子家庭だったから?」
「なんせ、親父の考えは古いんだ、母もそうだけど」
美佐子は、ここまできて、親という一番身近な人を、説得できるかどうか。こじれるなんてこと、美佐子には思いもかけなかったことです。由岐織物は老舗の西陣織の問屋会社です。代々引き継いできた財産や営業権、それに親族との関係があります。由岐康夫が美佐子に接してきて、関係ができて、嫁にしてもらえるかどうかは、康夫の父親の権限だというのです。たとえ両性の合意によって婚姻は成立する、とはいってもまだ家制度は残されている現状です。

「ああん、だめぇ、わたし、ああん、康夫さん」
「ううん、美佐子、好きだよ、ほんとだよ」
「だったら、いっしょに住もう、住んでもいいんでしょ」
「ああっ、ああっ、ああっ」
快楽のあいだにも、会話が必要だから、お互いを確認するためにも、うわごとでいいから、確認したいと美佐子は思う。康夫が思う。ラブホテルへやってきて、交情しあう。もう、慣れてしまった関係です。いまさら、なくなること自体が考えられない。結婚を意識していても、それは絵空事でしかなくて、古書籍の店も資金的にはいけるめどが立ってきているけれど、まだ本決まりではありません。
「ああっ、いい、いい、いいっ」
「すき、好き、好き、康夫さぁん」
「美佐子、おれ、でてしまう、ううっ」
「つけて、つけてしてね、おねがい」
「ううっ、つける、つける」
もう我慢の限界まで昇ってきた康夫が、スキンをかぶせて、最後のとどめをさしにやってきます。美佐子にはその少しの空白が、われにかえるときですが、そのまま、オーガズムに至ろうとします。いい気持ちになる。快楽、快感、おんなの性です。そうして男が果てても、女には余韻が必要なのです。空しさは、そのあとです。







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最新更新日 2016.5.30


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