耽美試行

花舞-1-

 1〜5 2016.3.25〜2016.4.27

    

-1-

花の季節が訪れると、美佐子の胸が騒ぎます。何か良いことが起こりそう、良い人が現れてくるのではないかと、期待に胸を膨らませるのです。円山公園の枝垂れ桜が、元気がなくなったとはいっても、ピンクの花を咲かせると、それは艶やかな妖精を思わせます。平野神社の枝垂れ桜が親だというけれど、この親の方はもう樹勢がなくて、老体のように見受けます。そのことでいえば円山公園の枝垂れ桜だって、壮年期を超えた熟成のからだなのではないのか、と美佐子は思うのです。
「そういうことでゆうたら、山越えのとこの桜が、若いんですって」
「そうなのか、美佐ちゃんは、桜について詳しいんだ」
「そうでもないけど、そうゆうことかも、です」
北野白梅町駅から一両編成の電車に乗って帷子ノ辻までいくのですが、途中の鳴滝あたりで桜のトンネルになっていて、咲き乱れる数日は見事な清楚さを醸し出します。美佐子は由岐康夫と嵐山へいく途中に、この桜咲き乱れる光景に、胸を躍らせたところです。

「お昼ご飯は、あそこの湯豆腐がいいね」
「そうね、あそこの湯豆腐、庭があって落ち着きますね」
「じゃあ決まりだ、予約なしでいけるから、そうしよう」
土曜日と日曜日は、大村美佐子が勤める織物会社は休日です。由岐康夫は美佐子が勤める会社の取引先にあたる会社の社員。デートは月に二回ほど、あとはメールで、電話で、近況を話します。恋人と呼べるほどに近しい関係とはいえなくて、恋愛に至っているとは言いがたくて、でも、美佐子には、由岐のことを意識して、将来をともにする相手としての値踏みをしたりしています。
土曜日の昼過ぎだから大きな座敷の、いくつも置かれているテーブルの、庭が見渡せるところに、二人は案内されます。京都の旧跡には湯豆腐の店があります。嵐山は、大堰川から小倉山をぬけて大覚寺まで、観光地ですから人混みです。さすがにこの湯豆腐のお店は、けっこう値段が高いから、それなりに訪れる客は、限定されるところです。

-2-

遅めの昼食は湯豆腐でした。由岐康夫と向井美佐子が嵐山の湯豆腐を食べさせる店をでたのは、もう午後2時をとうに過ぎていました。二十五歳を越えてしまった美佐子には、この花見のころの気分に、いらだちを感じます。高校時代の友人で、すでに結婚をし、子供をつくっている光景を思い浮かべると、そろそろ自分も縁があったら、と思うのです。それに、からだが疼くといういい方は順当でないかもしれませんが、男と交わることから遠ざかっていることで、桜の季節には身が疼くのです。大学の二回生、二十歳のときに恋人と交わった経験がある美佐子。夏が終わるころまでの恋愛経験でしたが、別れの哀しみから快復するまで、大学を卒業して社会人になったころまで、もう恋愛はしたくないと思っていました。でも、これは、頭の中での思考であって、男と交わったからだの記憶は、ことあるごとにその光景を思う浮かべてしまうのでした。康夫と出会ったのは正月明けの初荷で、挨拶をかねて美佐子の会社へ来たことでした。
<どないしょ、わたし、由岐さんと、うまいこといったらええんやけど>
相性が合わないとは思わないけれど、激しく恋心を抱くというほどにも萌えてこない美佐子は、自分ながらに値踏みしてしまいます。相手は、会社の経営者になるお人です。日本画というジャンルで、絵画作品をしている自分への、将来での、生活時間の余裕、ということを考えないでもありません。

由岐康夫は、由岐織物を経営する会社の御曹司。二十八歳、男子としての年頃といえば年頃で、見合いなどない時代の恋愛を待望していたところです。大学で経営学を学んで、まもなく経営者として存立していく人物として、商工会議所若手の会の副代表に選出されたのがこの春です。
「でも、けっこう、経営が厳しいってゆう現実も、あるんだよなぁ」
「そうですか、わたし、お商売のことわからないけど、厳しいんですか」
「経営するって、醍醐味はあると思うけど、勤め人よりは、ね」
大学を出て三年間、大阪の商社に勤めた経験の康夫です。二十五歳になって商社を辞め、由岐織物の後継者として経営陣に加わったのでした。肩書は専務取締役、株式は非上場で同族会社ですが、従業員30名余りの業界としては上位に君臨する会社規模です。織物問屋といえば本業ですが、かって工場があった土地では賃貸マンション経営、また月極ガレージも営んでいます。
「そうだよ、厳しいんだよなぁ」
美佐子が自分の中へ入ってきてくれる感覚に、大堰川の堤に咲き誇る桜の下で、康夫はほのかな恋心を感じるのです。

-3-

嵐山からは阪急電車に乗ります。桂で乗り換え、河原町まで出てきて、康夫と美佐子は祇園のほうへと歩きます。四条小橋で地上に出、鴨川の大橋を渡って南座の前まできます。花見のころの土曜日だから、けっこうな人混みです。もう夕方、五時半を過ぎています。まだ明るいから、二人並んで歩くと、肩を寄せ合うまでもなく、恋人同士に見えます。ふたりとも余所行きの格好だから、どう見ても夫婦には見えない。
「歩こう、祇園まで、ほら、石段したのホテルの一階の喫茶店、行こうか」
「スタバでしたっけ、いっぱいかも」
康夫が美佐子の手首を持ってきます。手をつなぐ。初めてのことです。かなり混み合う喫茶店、空席を探して、康夫はアイスコーヒー、美佐子はカフェラテ、まるで恋人同士、康夫は幸福感に満ちながら、美佐子を抱きたい衝動に駆られます。
「そうなんだよな、厳しくて、逃げ出したいくらいだよ」
「そうなの、経営者のひとって、そんな感じなの?」
「でもさぁ、今日は向井さんと一緒だから、ほっとしてる」
「わたし、どうしたのかしら、いやだぁ」
手を握りしめられて、美佐子の顔がポッと紅潮してきます。
「だきたい、きみを、だきたい」
頭がすれるほど近寄って、顔を合わせた康夫が、小さな声で、美佐子に囁いたのです。

美佐子はもう二十代半ばを越えてしまった年齢に、少しはいらだちを覚えていた矢先のきっかけ、二十八歳織物会社の御曹司、由岐康夫となら、うまくやっていけそうかも、と想像したこともあります。その気がなかったとはいえないから、美佐子は、康夫の言葉、俯いて応えなかったけれど、内心はビクついてしまって、タジタジとしてしまって、顔がほてってきているのがわかった。暗黙の了解。スタバを出て裏通りにはいって、薄暗くなってきたところで、ラブホテルがあるところへ来てしまって、そこのひとつのラブホテルへ、入ってしまったのです。
「いいんだろ、向井さん、いいんでしょ」
「・・・・、はぁあ、どないしょ・・・・」
もう、なにをいっても部屋へ通されて、ドアが閉められ、二人だけになったから、あとは成り行き任せ、美佐子は年長の康夫に任せるしかなかった。
「ああっ」
立ったまま抱かれて、唇をかさねられてきたとき、美佐子は小さな呻きのような声を洩らしたのです。康夫は鼻息だけで無言です。美佐子のため息のような吐息に心をふるわせます。美佐子の匂いが、康夫のからだを刺激してきます。康夫の匂いが美佐子のからだを刺激してきます。唇をかさねられ、舌先がはいってきたとき、美佐子はもう、正気を失ってしまい康夫に抱きついてしまったのです。六畳の間ほどの洋室に、ダブルのベッドが置かれて、テーブルと背もたれ椅子のセットだけの部屋です。空調の音以外に、聞こえてくる物音はありません。

-4-

由岐康夫に抱かれた美佐子は、そのまま崩れ落ちるように、からだの力が抜けてしまって、しゃがみ込んでしまいそうになります。康夫が支え、しゃがみ込んでしまうのを、そのまま背もたれ椅子に座らせます。手を離し、美佐子を背もたれ椅子に座らせて、そのまま、康夫が見つめます。
「はぁああ、由岐さん、どなしょ、わたし・・・・」
髪の毛が乱れてしまう、スカートが太ももの半ばまでめくれあがり、セーターのうえからでも盛りあがる胸がなまめかしい。ゆるんだ唇のいろに康夫は、いい知れない愛情の気持ちを抱きます。座ったままの美佐子を再び立たせ、スカートを脱がせ、セーターを脱がせ、ブラトップのインナーとストッキングを穿いただけにさせます。
「うううん、わたし、いいんです、由岐さん、いいんです・・・・」
由岐がズボンを脱ぎ、カッタシャツを脱ぎ、シャツとブリーフだけの姿になります。美佐子のまえに立ったままの康夫が、美佐子の頭を抱きかかえます。無言です。美佐子は、頭を抱えられたことの意図がわかったかのように、康夫の腰へ、頬をすり寄せます。
「はぁああ」
康夫のモノが頬への感触でわかります。
「さわってほしい、ううん、むいてほしい」
ブリーフをおろすと康夫のモノが勢いよく跳ね上がります。
「はぁああ、ああっ」
美佐子は、当然、驚いた感覚で、康夫の勃起ブツを頬に当て、すり込ませます。手に握り口に入れるという勇気が、初めての美佐子には、まだありませんでした。

男女が最初のとき、前戯はなくて、いきなり性器結合になる、とはいってもケースバイケースで、美佐子の仕草から、康夫は前戯にもちこんだのです。勃起させたブツを美佐子の口に含まさせ、そうしてパンストとショーツを脱ぐときには、勃起ブツを口から離させ、美佐子の下半身が露出されたところで、そのまま、しゃがみ込む康夫です。目の前に、美佐子の下半身が剥き身になってあります。色の白いきめ細かな肌です。真ん中の黒い毛がなまめかしい。
「はぁああ、だめ、はずかしい、恥ずかしいです・・・・」
康夫が膝に手の平を置き、左右へひろげようとしたとき、美佐子の声が、恥ずかしい、というのです。羞恥心、康夫とは初めての交情です。恥じらい、奥ゆかしい、二十五歳の女心です。
「うううん、ああん、由岐さん、んん・・・・」
小さな驚き声を洩らして、美佐子は康夫にされるがまま、股間へ顔をつけられ、唇を羞恥唇につけられ、刺激されていく感覚に、こすばさというより、じゅるじゅるっと染みこんでくるきわどい感覚に、むせびだすのでした。恥ずかしい箇所を舐められ、舌をころがされているうちに、美佐子は太ももをひろげだし、由岐の頭を抱きだして、そのクンニリンクスを受け入れたのです。ベッドへあがるのは、そのあと、ブラトップを脱がされて全裸になった美佐子。由岐も全裸になってしまって、ベッドで抱きあうのです。

-5-

男の人のまえで裸になる。美佐子には、これまでに一人だけそうした関係になった男子がいました。大学の二回生、二十歳の春、桜が咲くころ、一年先輩になる男子とラブラブ関係になりました。その先輩と知り合ってまもなく、求められるがままにからだを交わらせた思い出が、むしろ忌まわしい思い出が、よみがえってくるのでした。それ以来、何年が過ぎたのか、大学を卒業し、大手の銀行員となって二年半、けっこうハードな勤務であったがそのうち体調に異変をきたして離職したのです。それから、室町筋の織物問屋の事務員として採用され、いまに至っているんです。二十五歳になっているから、男を見たら婚活を行え、などと言われていても、その気にはなれなくていたところです。
「はぁああ、由岐さん、だめ、きついの、だめ・・・・」
乳首を噛んできた康夫に、紗枝子は乳首の痛さと心の痛さを合わせて感じ、ついつい言葉になってあらわれます。
「うううん、いいんだろ、少しぐらい、痛いほうが」
「ああん、そんなこと、あらへん、いやぁああん」
ベッドのうえで全裸です。抱きあうといっても、相手とは初めてだから、要領がわからなくて、受け身の紗枝子には、康夫の愛撫で、何もかも忘れさせてくれるほどには熱中できないのです。

「はぁああっ、はぁあん・・・・」
「ううっ、ああ、向井さん、ううっ、ううっ」
「はぁあ、由岐さん、わたし、ああ、だめ、あああん」
「いいんだろ、経験してるんだろ、いいんだね」
康夫が男のモノを挿し込んできて、紗枝子はそれを受け入れます。仰向いて、膝を立て、太ももをひろげて、男のモノを受け入れます。
「はぁああっ、ああっ、ひぃいい、いい・・・・」
ぶっすり、下腹部に圧迫感を覚え、いいしれぬ内がわの盛りあがりに、紗枝子がむせびだします。われがわからなくなっていく紗枝子。抱かれて、上半身をかさねられ、髪の毛を撫ぜられながら、行為が続きます。
「ううっ、ううっ、いい、いい、いいねぇ」
「はぁあ、はぁあ、ああん、由岐さぁん」
硬く感じていたからだが柔らかくなってきて、いつの間にか雲の上にいるような、ふわふわ感に包まれていく紗枝子です。大きなオーガズムはなかったけれど、小さな叫びと喘ぎを覚えて、康夫が果てていくのに合わせて、快感の極みに達したことは事実です。











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最新更新日 2016.5.29


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