紫陽花の頃-2-

 7〜12 2020.6.28〜2020.7.10


 

-7-
美咲の実家は和菓子屋です。由緒ある京都の和菓子をつくる老舗といわれ、テレビでレポートされたりします。美咲は美術の短大を卒業して絵描きの道を歩んでいきたいと思って、就職はせず、和菓子屋の店で手伝うこともなく、フリーターの道をえらんだのです。住まうところも家族から独立して、ワンルームマンションに入居し、コンビニでアルバイトしながら、生活をしているのです。
<ママ、ちょっときついいから、5マン、おねがい>
美咲の願いは生活費の何割かをママから援助してもらうことです。援助交際なんてしません。男子とつきあったことがありません。好きな男子がいたけれど、お付き合いするほどには近づけませんでした。
<カメラマンさん、川村さん、優しそうなひと、感じいいけど>
LINEで自分のポートレートを送ってくれた真一の、植物園でむきあった姿を思い出しながら、でも、顔がはっきりわからない感じがする美咲。
<会おうなんて、ゆうてきたら、お会いしたいなぁ>
女心、恋した気持ちのような、男慣れしていないから、ほんのり、あわい、夢のような感じで、ファッション雑誌の男子をみている美咲。

和菓子屋さんというからいかにも和風なしきたりで生活を営んできたかといえば、そうではなくて、まったくの洋風で、美咲の習い事は、音楽教室からはじまって、小学生の中頃からピアノを習いだし、ヴァイオリンも習いだし、中学生になって音楽部にはいります。進学した高校の音楽部は、合唱部門と器楽部門があって、美咲は、声楽はあまり好きではないから、器楽部門でヴァイオリンを弾くことにしてもらいました。
「先生、音大へいきたいけど、こんなのじゃ、だめですよね」
「まあ、な、教養だけならいいけど、ヴァイオリンではきついかも」
「それなら、わたし、美大でデザイン、習いたい」
手先が器用なのか、ピアノもヴァイオリンもそれなりに上手だし、デザインも好きなジャンルだから、美大の短期部だったら推薦で入学できそうなので、それほど受験勉強もしないままに、デザインを勉強し、二年間を終え、卒業して、家からも独立して、ひとり暮らしをはじめたのでした。真一から会えないかと、LINEがきたのは、初めてすれちがってから二週間がすぎたときでした。

-8-
金曜日の夕方5時、四条小橋で待ち合わせです。美咲のコンビニバイトが、朝9時から3時までで、それから烏丸鞍馬口のワンルームに戻って、シャワーして、着替えて、四条河原町までいくのでした。四条まで地下鉄に乗って、歩いていくので、それなりに時間がかかります。
「ああ、もう来てらしたの、こんにちわ」
まだ5時まで5分ほどあるのに、真一がすでに来ていて、美咲を待っています。
「やあ、大山さん、こんにちは」
美しい、白地に淡いブルーの花をあしらった清楚なワンピースを着た美咲が、真一にはまるで妖精のようにも感じられるのです。
「そこに、喫茶店があるんだ、ひとまず、そこへ行こうか」
小橋の欄干からみえるフランソワという名の喫茶店です。美咲は、その喫茶店には古い歴史があって、人気のスポットだけど、入るのは初めてです。ドトールでもいいのに、と思いながら、真一が誘うから、それに従おうというだけです。真一には、見栄というのあるから、カッコつけてフランソワでお茶を、と思ったのです。喫茶して、食事して、いろいろお話しながら、散歩して、9時にはお別れしたいと、思う美咲です。

「有名な喫茶店だよ、調度品も古くて、人気のスポットだよ」
「わたくし、知ってたけど、入るの初めてです」
向きあって座って、真一はホットコーヒーを、美咲はレモンスカッシュを注文して、それほど明るくはない店内なので、目が疲れるというほどのこともありません。
「ええ、知っています、花園にあるお花のお寺ですよね」
「蓮の花が咲く、見てみたい、大山さんをモデルに、写真するか」
真一は、アンティークな椅子に腰かけた美咲を、眺めます。胸がときめきます。美咲は、うつむきかげんで、ストローを唇にはさみ、レモンスカッシュを飲みます。髪の毛がおかっぱの美咲が、整った目鼻立ちで、特別な顔ではないけれど、美人顔です。整っているから、胸がときめくのです。抱きたい、と思うけれど、こころの中だけです。美咲もまた、真一を目の前にして、少し、恥ずかしい、見られているのを意識して、こころ穏やかではありません。好意をもっているから、お会いすることに同意して、いま、ここに、座っているのです。シャワーして、匂いをけして、インナーも清楚な新しいのにしてきたし、万が一、誘われたら、断れないかもしれないし、処女なんだ、わたし、どうしたらいいのかした、わかんないけど、成り行きにしようと思う美咲です。

-9-
もう青年ではない真一を前にして、美咲は、なにかしら安心感を抱いています。手の中に納まるくらいのコンパクトカメラをテーブルに置いて、真一が、話題をカメラのことに向けます。
「写真、千枚ほど撮れるし、動画も撮れる、優れたカメラだよ」
「そうなのね、わたしは、最近、スマートフォンです」
「インスタとか、ツイッターとか、してるんよね」
「うん、は、はい、してます、お花の写真とか」
「デザインの方へは進まないの、美咲ちゃん」
「ええ、まあ、そこまでは、おもってなくて、なんですが」
美咲は、真一の姿を目の前にして、心が揺れているのです。会話に、入り込んでいけない、なにかしら空を歩いているような、ふわふわした気持ちです。美男子、イケメン、カメラマン、美大で教えてる、だいぶん年上だけど、なにかしら、わたし、どうしたのかしら。
「家業は、和菓子屋さんなんだ、美咲ちゃん」
「ええ、そうなんです、あと継がなくちゃ、わたし長女だから」
「そうなの、ぼくは、三男だから、気楽といえば気楽」
まだ、美咲のことを知る由もなかった真一、美咲にしても真一のことは、知る由もなく、いいえ、そんなこと、知っても知らなくても、関係ないといえば関係ありません。

フランソワを出て、食事は、喫茶店の近くの珍竹林というお茶漬け屋さんにはいります。真一は、向きあって座って、カメラを美咲に向けてきます。だまって、撮ってもいいか、と問うまでもなく、シャッターをきるのです。まだ食事の御膳が出てくる前で、美咲は、カメラを向けられていることに、意識しちゃいます。
「ここで食事して、スタンドへいって、ワインかなぁ、美咲ちゃん」
「ええっ、お酒、ワイン、わたし、どないしょ、弱いの」
テーブルにでたお茶漬けを、美咲は、緊張していて、味を味わうほどには落ち着いていなくて、真一を意識して、目線をあわせることができなくて、真一が話題を提供してくるのに、相槌をうつくらいで、どうしたことか、まだ、ワインをのんでいるわけでもないのに、気持ちがドキドキしてきて、なにがなんだかわからないほどです。
「それでさ、誘ってもよかったのかなぁ、美咲ちゃん」
真一は、もう美咲ちゃんと、なれなれしく名前で呼んでやることで、美咲の反応を見ているのです。
「男の友だち、って、いるのかなぁ、いるんやろなぁ」
美咲は、ひとりごとのように言う真一のことばに、後ろめたさの気持ちを感じたのです。どう答えたらいいのか、いなにのに、いないともいえなくて、もちろん、いるともいえなくて、うつむいたまま、唇をかるく咬んでしまうのです。

-10-
珍竹林で食事をしてもまだ七時にもならなくて、夏の夕方の空は、まだほんのりと明かるいです。美咲は誘われるままに、四条木屋町のスタンドバーへはいります。日頃には余りアルコールをたしなむこともない美咲ですが、真一は飲めるほうで、グラスに注がれた赤ワインを、ぐいっと飲み干し、おかわりします。美咲は、ぐっとは飲めなくて、それでも、ちびちび、グラスのワインを空けます。
「お食事のまえに、飲むんですよね、お酒って」
「そうだね、食事の前に飲めばよかったかもね」
美咲は、ほんのりと顔をあからめ、火照ってきているのだけれど、薄暗いスタンドバーでは、その赤らむ表情もかくされてしまいます。
「ああ、わたし、ちょっと、なんやろ、すみません」
「いいんだよ、すこし、酔ってきたのかな、美咲ちゃん」
「いいえ、わたし、酔ってなんていません、大丈夫です」
「それじゃ、もう一杯、おかわりしたら、いいですよ」
もう、ほんのり、火照っているのが自分でわかります。瞼が閉じてしまいそうな感じです。
<ああ、川村さま、わたくし、どうしたのかしら、へんよ、わたくし>
「どうした、美咲ちゃん、急に黙り込んで、気、わるくしたのかな」
「ええっ、いいえ、そんなんじゃないです、そんなんじゃなくて」
カウンターに置いた美咲の左手の甲に、真一の右の手の平がかぶさってきます。美咲は、ハッと思いますが、なにもなかったかのように、そのままです。

ふらふら、美咲がスタンドバーをでるときには、足元がふらついて、真一に背中から抱かれて、支えられてしまいます。高瀬川にかかった小橋を渡ると、そこには男と女の休息場があります。真一は、熟知していて、美咲をそこへ導こうとしています。
「ちょっと、休んでいこうか、いいやろ、美咲ちゃん」
ひそひそ、真一が、美咲の耳元で囁くのです。美咲は、薄暗いまわりの気配にも気がつかない風をして、言われるがまま、肩を抱かれているまま、葵ホテルの玄関へ、はいったのです。なるようになる、とは思っていたし、もしかしたら、こういうことになるかもしれないと、うっすらと思ったからこそ、インナーを真新しいのにして、ワンピース姿で真一と会うことにしたのでした。
「ああ、どないしょ、わたし、どうしよ、わたくし、ああっ」
二人だけの密室となるルームのドアが閉められて、美咲は、真一に、立ったまま、抱かれてしまいます。そんなに強くではないから、ほんのり、火照る頬にも優しい感じがします。
「いいんだろ、美咲ちゃん、いいんだよね」
囁くように、優しく抱いた美咲の耳元で、ことばが紡がれます。甘い音色にきこえる美咲は、催眠術にかかった子猫のような感じで、真一の腕のなかです。
「ああっ、川村さまぁ、ああっ」
カサカサと布の擦れる音がたち、美咲が着ているワンピースの裾がめくられてくるのです。美咲は、呆然とからだの力をぬいて立ったままです。左右の腋の下に腕を入れられて、美咲が倒れ込むのを支えられえます。そのまま、美咲は後ずさりして、肘掛椅子にすわります。

-11-
美咲を肘掛椅子に座らせた真一は、椅子のうしろに立ち、後ろから美咲の肩に手をおきます。ワンピース、首後ろのホックをはずし、ファスナーを降ろし、背中をひらいてやります。
「ああ、わたし、酔ってる、ああ、どないしょ、ああっ」
美咲は前を向き、腕を肘掛においてぐったりです。真一が後ろにいて、ファスナーを降ろしているのを、感じています。薄暗いすぐ前にだぶるのベッドがあります。
「ああ、川村さま、ああっ」
ワンピースの肩をぬがされ、腕の中ほどまでぬがされると、前がはだけます。美咲は、なされるがままです。後ろに立ったままの真一が、手を前へ降ろしてきて、スリップうちがわへいれたのです。
「だめ、ああ、だめ、だめです、ああっ」
呻くような小さな声を、美咲が洩らします。真一は、おそるおそるです。強く拒否されたらもともこもないから、優しく、やさしく、胸に手をいれていきます。

やわらかい、美咲の肌です。乳房のふたつのふくらみが、手のなかに包まれます。スリップの肩紐を肩からはずして、胸を露出させてしまいます。
「たって、このまま、立って」
「ああ、立つんですか、このまま」
真一が肘掛椅子の前にまわってきて、美咲の正面です。美咲を立たせます。美咲が立ち上がります。ワンピースの半分を脱がされてしまった美咲です。インナーのスリップが下ろされていて乳房が露出します。
「ああ、だめ、はずかしい、ああ、だめ」
初めての体験。美咲は呻くようなくぐもった声をもらし、乳房を腕で隠す仕草です。上半身が裸になった美咲を、真一がまじかで眺めます。可愛い顔、白い肌、柔らかい肌、男の真一には、もう美咲を見る目は、情欲でしかありません。美咲は、なされるがまま、ワンピースを脱がされ、スリップを脱がされてしまって、ショーツだけになります。真一も、すでにブリーフだけの裸で、立ったまま、美咲をぎゅうっと抱きしめてしまうのです。

-12-
真一に導かれて、ベッドに仰向き、寝かせられてしまう美咲。ショーツだけの裸。真一はブリーフを脱いでしまって全裸になって、仰向いて伸ばしたからだの横に寝そべってきます。
「ああ、わたし、どないしょ、ああっ」
肩から首の後ろに腕を入れられ、右手が乳房に置かれた美咲です。ちいさく震えがやってきます。男の手、からだ、なんだか硬いモノが、腰に擦りつけられてきます。真一は、無言、息する音だけが、ルームの静けさを破ります。美咲は、目をつむり、男の肌を感じます。真一が、お尻を少しあげさせ、腰からのショーツをずらして脱がしてきます。全裸にされてしまう美咲です。
「はぁああ、だめ、だめ、あかん、どうしょ、ああっ」
「うん、いいんやろ、いいんやろ、美咲ちゃん」
小さな言葉が、吐く息のようにして、交わされるのですが、真一が、密着してくるのです。股間を弄られだして、美咲は、太腿をひろげてしまいます。真一が太腿のあいだに入ってきます。仰向いた美咲は、膝をひろげられ、持ちあげられ、真一の上半身が、美咲の上半身に重ねられてきます。痛烈な痛みを感じる美咲。口を噤んで声を出さないように、ぐっとこらえますが、からだに走る痛みに、顔をしかめてしまいます。真一は、美咲が苦痛をこらえていることに気づきます。美咲が処女であることを、真一が知るのです。

真一は、無理をしないで、男のモノを勃起させたまま、ゆっくり抜いて、ゆっくり挿します。美咲は、ぐっと痛みをこらえているのが、心を締めつけてきます。それでも、すこしずつ、挿しては抜いて、全部を美咲のヴァギナに挿し終えて、重ねていた美咲から上半身を浮かせます。腕のあいだに、美咲の胸がつんと起こっているのがわかります。美咲の目からは涙が、ひとすじ、ながれでてくるのを見てしまいます。
「はぁああ、川村さま、わたし、わたし、ううっ」
言葉にならない美咲から、真一は、男のモノを抜いてしまって座ります。射精しないままです。仰向いて寝そべった美咲の裸体を、真一は観察します。きれいな裸体です。ぷっくらの乳房。陰毛が白い肌に映えます。美咲に萎え始めた自分のモノを握らせます。
「ごめんね、美咲ちゃん、関係しちゃった、初めてやろ」
「ああ、川村さま、わたし、いいの、いいんです、これで」
インナーを身に着けだす美咲は、背中を真一に向けています。真一も下着をつけ、ズボンを穿き、シャツを着て、肘掛椅子に座ります。ワンピースまで着終えた美咲が、目線をあわせないまま、真一の横に立っていて、手を握ります。真一は、握られた手をぎゅっと握り返したのです。

















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最新更新日 2020.7.14


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