夏越の頃-3-

 15〜21 2022.7.1.〜2022.7.7

 

-15-
このまえ美和子と一緒に行った法然院、二人で、陶房から散歩にでた初めての日、浩一には、夢のような時間でした。美和子のことが気になってしかたがなくて、これは恋してる、と思っていた矢先のことでした。それから、次の陶芸教室の日、美和子から土窯つくりのプロジェクトに参加しないかとの話があって、ことの流れで、参加するほうに舵をとったところです。
<姉さん、素敵だなぁ、大地なる母、かなぁ、惚れちゃうよなぁ>
自分のワンルームで、暑いから贅沢にクーラーをいれ、音楽はベートーベン、荘厳ミサ曲、気持ちゆったり落ち着かせます。ぶつぶつ、独り言、美和子の、見たことがない裸体を脳裏に思い描きながら、亀岡に企画されている芸術村構想に思いを馳せだすのです。
<姉さん、でも、なんだか、淋しそうな顔してた、憂えた顔つき、素顔だ、素顔の姉さん>
浩一には、数か月前から知りあった、陶芸家の美和子しかわかりません。浩一が知るのは、美和子が女子大を出て、陶芸専門学校を出て、大きな陶芸工房で陶芸の基礎から学んで、自分の陶房をたちあげ三年、というストーリーです。
<お母さんがバイオリニスト、お父さんとお兄さんが日本画家、姉さんはお年頃、美女、陶芸家>
荘厳ミサ曲、浩一は哲学やりながら、教会音楽から心打たれた感覚があって、28歳になったいまも、ことあるごとにクラシック音楽を聴くのです。
<ぼくがはいるスキなんて、ないよなぁ、姉さん、いいとこのヒトやもんなぁ>
浩一はそう思ってしまうけど、美和子のことばでは、
<おんなよ、わたし、ふつうのおんなよ>
と自分を宙に浮かすような言葉を紡ぎだすのです。男の浩一には、女の美和子が言うことの、そのこころの奥が、つかめません。地元の信用金庫のポスターに、和服姿の美和子がモデルに起用され、張り出されています。
「でも、ね、向井くん、世の中、ランク付けばかりよ、ヒトを選別してしまうのね」
今日も完熟の赤いミニトマト、水洗いしただけの、自然の温かみあるミニトマトを食べさせてくれる美和子。白い手指、マニキュアしていない爪、ノースリーブだから、肩まで素肌が見えます。うつむいた美和子の首筋からは、鳩尾のうえまでが覗けます。
「ぼくには、なんにも、ないなぁ」
「なんにもないわけないでしょ、塾で教えてるんでしょ、難しいこと」
「それは知識があるだけ、哲学の本質には、かんけない」
「ああ、情動ってことよね、向井くん、言ってた、情のこと」
「そう、情って、からだと密接な関係がある、動物の本能ですよ」
「そうね、そうかも、ね、わたし、動物よ、アニマル、メスのアニマルね」
美和子は、釉薬の壺のなかを掻き混ぜながら、優しい女声で、つぶやくように言うのです。汗ばみそうな午後、浩一はアニマル美和子を眺めて、からだが動揺してくるのを覚えます。

-16-
浩一が、素焼きした器に釉薬をかけます。灰色なのに焼くと緑っぽく発色します。手の指を釉薬で汚した浩一を、傍で見ている美和子です。作業台は庭に近いから、そとの眩しい光が這入っています。白いシャツを着た浩一が、眩しく思える美和子です。
「それ、乾いたら、焼いてあげる、あなた好みの、いい色がでたら、いいわね」
「そうですね、姉さん好みの色になると、いいなぁ」
ふたりだけ、親密になりはじめた美和子と浩一。先生と生徒、女と男、このことを意識しだす美和子です。手を握ってくる気配もない浩一。美男子にみえます。憂いある感じにもみえます。
「ねえ、向井くん、サグラダファミリアって、しってる?」
「ガウディの、スペインの、聖家族教会、まだ未完成の、教会、それでしょ」
「わたし、行ったことないけど、行ってみたいなぁ」
「そうなの、行ってみたい、ぼくは、バウハウスの跡地かなぁ」
「旅行したいね、ドイツからフランス経由でスペインよね、行きたいね」
「ぼくなら、イタリア、ローマ、バチカン、ピエタ像、拝みたいなぁ」
明るい光が降り注いできます。眩しい作業台の上、浩一が釉薬をかけた器があります。美和子が、指先が釉薬で汚れた浩一の手首をかるく握ります。
「うん、手の平みたいの、向井くんの運勢、みてあげるわ」
「ええ?、姉さん、うらない、できるの?、みてほしい、バルセロナ、行けるかなぁ」
うそです、美和子が占いできるなんてうそのこと。とっさに浩一の手首をつかんで、柔らかそうにみえた手が、あんがいごつごつしてるように感じて、手の平をひらかせてしまう美和子です。浩一は、突然の出来事に驚く暇もなく、成り行き任せで、従います。美和子は黙ったままで、浩一の右手首をもちあげ、斜め向き、手の平を両手でひろげてしまいます。
「見せて、向井くんの手の平、なんか、不器用そうな手、ね、でも、わるくはないよ」
「そうですか、金運、いやぁ、恋愛運かなぁ、ぼくはナイチッチかなぁ」
「ああ、向井くん、わたし、おしえてあげる、わたしのこと、ああ」
美和子が、ひろげさせた手の平を、顎を仰向かせ、自分の首へ当てさせたのです。浩一の動揺がわかります。乳飲み子に母乳をあたえる聖母のように、生成りのシャツのボタンをふたつ、はずしておいた美和子が、浩一の手を胸へとおろさせ、ふくらみの肌へ触れさせたのです。伊弉諾と伊弉冉が最初のとき、おんなの伊弉冉がさきに声をかけたとされている、それは児産みにはならなかったけれど、美和子はグレートマザーです。

-17-
ワンルームの狭いスペースには、浩一の記憶がいっぱい詰まっています。学生だったころ、恋していた一年下の美幸が、このワンルームへやってきて、濃密に愛しあった記憶がよみがえってきます。気性が尖っていた美幸が、浩一の素性を見抜いて、もうさようならします、といって関係を絶っていった痛手に耐えきれなくなって、風来の旅にでた浩一でした。その風来の旅経験は、死ぬに死ねない自分が、生きていける勇気につながっています。
<卒業して、東京へ行くと知らされたけれど、いま、何をしてるのか、ノマドしてると書いていたけど、あれから五年、何してるのか>
何年かかかって、浩一の記憶から美幸のことが消えました。寂しさにまみれて、小説書きをこころだし陶芸家の美和子と親密な関係になりだしてきて、記憶がよみがえってきます。といっても美幸の記憶に、感情が伴うわけではなく、ただいまの感情は、陶芸家尾上美和子にかさなっています。
<あかんなぁ、ぼくなんか、浮上しないなぁ、肉体労働には向いてないよなぁ>
頭脳しか使ってこなかった自分の肉体を、どう処理したらいいのか、浩一はひとり処理しかできません。美和子が、胸を触らせてきたとき、浩一は咄嗟に身を引きました。美和子を前に近寄せれば抱けた、抱きしめられたのに、自らのからだを引いてしまいました。
「向井くん、どうしたの、どうなさったの?」
「姉さん、だめだよ、抱けないよ、だめだよ」
「どうして?、ほしいんじゃないの、わたしを」
「だめだよ、ぼく、弱虫なんだ」
泣きそうになってしまって、そのあとは、気まずい気持ちになって、美和子とは目線をあわせないまま、陶房から退避してしまったのです。
<姉さん、好きなんだよ、ぼく、大人になったらいいんだよね、なのに、ね>
まるで夢を見ているように、美和子は神聖な存在に思えていて、汚したくない気持ちです。あちこちにいてめぐり合う女子には、関係したい気持ちが起こってきて、それを打ち消すのですが、彼女、尾上美和子、神聖なお方に思えて、手が出せそうにありません。芸術村の打ち合わせがあるので向井くんも来ませんか、とのLINEが美和子からあって、それは明日の午後二時、小泉ギャラリーで行われるというのです。

-18-
小泉ギャラリーのミーティングルーム。一階ショップの奥に設えられた応接兼会議室といえばわかりやすい。六畳の広さです。長いテーブルが真ん中で、背凭れ椅子が六脚用意されています。
「まだ準備の段階だけど、プロジェクトメンバー予定者に集まってもらった」
還暦を迎える小泉さんが、司会の役割。呼ばれて集まったのは、美和子と浩一、それに辰野裕子、あとにはギャラリーの松野さん、画廊の小泉さん、の五名です。
「若い人たちで、芸術村を運営してほしい、ぼくは出資する側だ」
小泉信一郎の構想は、陶芸村と農園をリンクさせ、ショップを作り、ひとが集まれるカフェを併設するというのです。陶芸村には、陶芸だけではなくて、絵を描く、木工する、などの制作ができるように整える。陶芸の土窯をつくります。パンを焼く土窯をつくります。鶏を、山羊を、飼ってもよろしい、新しい共同体、コミューンをつくっていくプロジェクトです。
「楽園を創りたいと思っているのです、運営は皆さんに任せようと思っています」
小泉がたんたんと語ります。美和子は陶芸家であるし、菜園にも興味をもっているから、小泉の話しがわかります。それに小泉がいうには、美和子が楽園の顔になる。
「いいですね、わたし、もっと、土に戯れたいと思っているから、がんばりたいです」
「わたしは、未経験ですけど、話しはわかります、やってみたいです」
キリリとした辰野裕子は広報担当です。向井浩一は文学とかの教室の責任者、ギャラリーの松野さん、画廊の小泉さん(小泉信一郎の娘さん)の二人は、カフェの管理、という役割だとミーティングのなか、話が膨らんでいきます。芸術村の土地の管理は、地元の農業者に世話してもらえるという話しです。
「おもしろそうですね、陶器の土窯とパンを焼く石窯、いのちの原点に触れられるかも、ですね」
さすがに浩一の発想には、美和子がうなずき。文筆と写真の裕子もうなづきます。
「武者小路の新しき村とか堀辰雄の美しい村とか、参考になるかもしれませんね」
「鶏とか、山羊とか、畠とか田んぼとか、なんか自給自足を目指す、みたいな」
「野菜なんか、収穫してもらって、買ってもらう、ってサイクルにしたいな」
「なにより、こころを病んだひとたちが癒される場、みたいな」
ミーティングがおわって、小泉信一郎が、半年の準備期間をもって、秋にはオープンさせたいというので、美和子も浩一も裕子も、なんとなく期待をもって、なにかが始まっていく予兆を感じます。

-19-
それは虚像といってもいいかと思いますが、美和子の陶芸生活が雑誌に載せられ、ポスターには和服すがたの顔が載せられ、芸術村の企画が新聞社から取材され、記事になっています。いよいよ地元のテレビ局からの陶房取材がはいってきて、芸術村へと発展していくイメージの動画が、つくられていきます。
「なんかしら、ほんとのわたしじゃないわよね、辰野さん、どう思う?」
「いいえ、いいえ、虚像だとしても、メディアはそれでよいわけです」
美和子の本音に、裕子は答えます。メディア論といえば裕子の研究分野のひとつです。社会の仕組みの一角で、メディアが創り出すイメージで、読者、視聴者が、ちょっと上層のイメージを抱かせられる。このことを知るディレクターが、そのことを醸成させる記事とか番組を組むことができる。裕子のメディア論は、編集者としての知性によるものです。裕子は、文化を研究する枠組みの常識だと考えています。
「でも、なんだか、ほんとよ、わたし、戸惑っているわよ」
「尾上さん、いいイメージをつくってもらったら、スキャンダルに気をつけて、です」
美和子は、自分の立ち位置が、わかっているようで、わかっていません。裕子は、そのことでいえば、社会の仕組みを外側から観察するようにと学んできたところです。
「そうなの、スキャンダルねぇ、男のことかしら、気をつけなきゃ、いけないのね」
「でも、でも、尾上さん、いいなぁ、もう下地ができているし、その上に芸術村ですもの、ね」
「辰野さんには、いろいろ、お世話になって、わたしのお守りですね、うれしいわ」
「尾上さんこそ万能、わたしの好きな作家さん、いいえ女性ですよ、そう思っています」
陶房へ来ている裕子が、美和子とくつろいでいきます。
「お紅茶にする?、それとも甘いものがいいかしら?」
「わたし、そうですね、紅茶にミルク、いいんですか?」
「いいわよ、とっておきの牛乳があるから、それでいれてあげるわ」
美和子は、裕子を二階へと案内します。陶房の二階はプライベート、美和子の生活空間です。キッチンがあり食卓テーブルがあります。寝室にしている部屋があります。くつろぐスペース、ゆったり布製のソファーがあります。和室は空いていて、客人を泊めるときにはこの和室を使ってもらいます。
「辰野さんには、わたしのプライベート、見せてもいいかと思っているのよ」
「素敵ですね、真ん中に柱があるけど、ワンルームですね、素敵です」
全体はダーク基調で東側がガラスの引き戸になっていて、光がはいります。尾上陶房の一階と二階、この空間を、キーステーションとして、美和子には新しい世界が創られていく、それの手伝いをする役割の辰野裕子です。そういうイメージトレーニングを、会話のなかでおこないます。
「あたらしい生き方を模索する陶芸家尾上美和子、ですね、キャッチフレーズ」
「あたらしい生き方ですか、なにがあたらしいんやろ、ねぇ、辰野さん」
「自由に生きる、生きられる、がコンセプトかなぁ、解き放たれた女、かなぁ」
「なによ、難しく言わないで、好きなことして生きてる、それだけよ」
「新しい芸術村では、お金がなくても、自由に生きられる、理想ですけど」
裕子のほうが、美和子よりも、理知的で、新しい芸術の価値を見い出そうとしているのです。

-20-
浩一が陶房を訪れます。もう夏の気配です。青空、太陽が真上、サンサンと眩しい光が降り注いでいます。
「いらっしゃい、向井くん、暑かったでしょ、さあ、さあ」
陶房の土間は、比較的涼しい、扇風機がまわっていて、庭へのガラス戸は開けられています。
「やっぱり、来ちゃったよ、よろしくお願いします」
「なによ、他人ぶって、もっと近くに、いらっしゃいよ」
陶房に立っているお互いの距離が三メートル、ということもありますが、美和子には心と心の距離が、この前よりも遠のいていると感じられるのです。きわどいところで引いていった浩一を、先日のミーティングでは他のメンバーの目線もあって、他人様として扱っていました。それからの今日、美和子には、この距離感が、とても気になります。
「はい、尾上先生、和服着てにっこり挨拶のポスター見ました、びっくりしました」
「ああ、あのポスターね、いやねぇ、恥ずかしいわ、向井くんに見られちゃったのね」
「見ちゃった感です、美女さんでした、スターですね」
「そんなんじゃないよ、でも、まあ、うれしさもあるけど、ね」
ショートカットの美和子を前にして、白っぽい生成りの服を着けた姿を見て、浩一にはやっぱり眩しく見えます。肩から腕が艶めかしい、首筋から耳たぶ、その裏の髪の毛のはえぎわ、夏の昼下がりの女のすがたです。
「きょうも、土,捏ねる、もうちょっと陶器のこと、勉強します」
からだとからだの距離感に、ちょっと戸惑っている浩一です。
<かわいいなぁ、抱きしめたいなぁ、お姉さま、美和子さま>
暑さのせいもあってか、浩一はからだが浮いてくる感じがします。ふつふつと性欲がわいてきています。後ろ向きの美和子を、お尻のふくらみを見て、むらむら感がわきます。
「じゃあ、この土、はい、なにをつくる?、お皿にするなら、タタラね」
「そうですね、タタラで、皿をつくります」
感情は交感できていません。このまえよりも距離がある感じで、少し他人様になっている気がします。美和子の手の甲がふっくら、柔らかそうな白い皮膚です。静寂な陶房です。扇風機のモーター音がかすかです。真近になった美和子のうつむいた顔、ネックレスもイヤリングもない素のおんな、かすれるような息づかいを、浩一が感じます。
「型ができたら、スイカ、たべましょう、冷やしてあるのよ」
美和子は、なんの屈託もなく、嬉しそうです。浩一は、どうしたらよいのか、心では迷いながらも、作業台の上、目の前にある土を捏ね、?棒で平たい板状に伸ばしていきます。

-21-
浩一が丸い平皿を二枚作り終えたあと、美和子は、二階でスイカを食べよう、といいます。二階は美和子のプライベートです。雑誌やテレビ、これまでメディアの何処にも公開していません。このまえ辰野裕子を招いただけです。
「ねえ、向井くん、わたし、ね、なんか、わけ、わからなく、なってるのよ」
冷蔵庫から出してきた半月のスイカを、流し台横のまな板で、食べやすいように切りながら、喋りだす美和子。浩一には背を向けているので、顔は見えません。白い生成りのシャツにモンペ風作業着の美和子、浩一には背中が見えています。
「なにもしたくない、無意味でいいの、無価値でいいの、ただの女でいい、と思いだして、ね」
大皿にひとくち大に切った真っ赤なスイカを盛って、テーブルに置く美和子。浩一は、美和子のプライベートに初めてはいるお客さまです。
「芸術村のプロジェクトのことですか、お姉さん?」
「意味あること、価値あること、それに向かうことが生きがいだって」
「お姉さん、その道を駆け上がってる、そんなふうにみえます」
「わたしも、そうしようかと思った、けれど、迷っているの、それでいいのかしら」
「それでいいんじゃないですか、有名になって、陶芸作家として、活躍する」
「そうね、でも、まわりのヒト、みんな他人、心なんて、置くところがないのよ」
「ぼくは、無意味、無価値を生きてるけど、お姉さんは意味ある価値のなかに生きてられる」
浩一が、かげりが見え隠れする美和子の顔をみています。美和子は、浩一と目線を合さないようにしています。
「ねえ、向井くん、わたし、なんか、遠い、知らないところへ、行きたい」
これまでに浩一が見たことがない、虚ろなのに天使のような美和子の表情に、言い知れない愛着を感じます。
「わたしって、そんな、才能ある、ヒトじゃない、みんな作ってもらっただけ」
「陶器の色だって、わたしの考案じゃない、真似してるだけ」
「わたしって、なんなのか、わけわからなく、なっているのよ、わたし」
「ねえ、向井くん、わたし、からだの奥底から感じたい、地に堕ちたい」
浩一が言葉を挟むまでもなく、美和子が、ひとり弱音ともとれる言葉を紡いでいます。ライトを落さない薄暗いテーブルには、お皿に赤いスイカが盛られています。
「お姉さん、どうしたのよ、弱気になって、だめだよ、そんなの」
立ち上がった浩一に、崩れこむように美和子がからだをすり寄せてきます。浩一が、抱きかかえ、抱擁します。
「ああ、わたし、壊して、おねがい、わたしを、壊してほしい、ほしい」
「お姉さん、だめだって、だめだよ」
浩一に抱きかかえられた美和子のからだから、力が抜けてしまいます。哲学者向井浩一、ナマの女を抱きしめ、欲情とともに涙して、美和子の身と心に、はいっていくのです。
(この項おわり)




HOME

最新更新日 2022.7.8


HOME



文章・小説HOME

夏越の頃

夏越の頃-1-

夏越の頃-2-

夏越の頃-3-