耽美試行

さくら協奏曲(6)

 26~30 2014.3.16~2014.3.27

    

(6)

-26-

坂倉千代子は戦争で夫を亡くした未亡人、松倉織物へ勤め出したのは、まだ松倉正敏の妻が病に伏せっているときで、あれから8年の歳月がすぎています。松倉が一人身になって、千代子とは苗字が一字違い、松と坂、そんなよしみもあって、なんとなく千代子が正敏の世話を焼くようになっていたのです。身分なんていいだせば、もう身分なんてなくて、だれもが一緒、男女同権、対等なわけですが、とはいいながら、家柄とか、そうですね、むかし町衆だったのか武家だったのか公家だったのか、それとも百姓をしていたのか。松倉正敏は商人の系で町衆の部類で、資産もある家柄ですが、坂倉千代子においては、母親はわかるが父親のなまえは戸籍には載っておらずだから、どうみても松倉正敏とは、夫婦になれる間柄ではありません。とはいっても情、女と男がいっしょにいると、情が移るというけれど、千代子も正敏も、そのような気持ちになっていったのです。それが、松倉のまえに高校を卒業して入社してきた鈴子に、松倉の気持ちが移っていくように思われて、ああ、女の嫉妬心、親子ほどに歳がちがう千代子と鈴子なのに、女の若さに嫉妬してしまうのです。

土蔵のアトリエは、夜に使われることが多い場所です。大通りの玄関から通り庭を通って中庭があり隠居部屋があってその裏奥が土蔵。松倉織物の社員でここに立ち入れるのは、社長のほかには千代子だけでしたが、若い鈴子も立ち入れるようになってしまったのです。千代子の聖域を鈴子に奪われないかと、内心はらはらする千代子です。
「専務ぅ、ああ、正敏さぁん、だめですよぉ、ああ、いきなりなんてぇ」
「ふふ、お千代、そんなら、やめとこうか、ふふん」
お茶をもって土蔵へ入ってきて立ったままの千代子を、椅子に座っている正敏が、腰のあたりを抱きしめ、スカートの中へ手を入れてきたんです。べつに、千代子は驚くわけではないけれど、拒否のことばをゆわないと、ことは進んでいかないようにも思われるのです。
「ああ、専務ぅ、はぁあ、いやですよぉ」
手を入れられてズロースを穿いた股ぐらをまさぐられてしまう千代子、湯呑をのせてきたお盆をおいて、千代子は拒否のことばをいいながらも、正敏の正面に立っていて、なされるがまま、正敏の頭を手ではさんでいるんです。

60Wの電球が天井からぶら下がる土蔵、正敏が絵を描くアトリエの真ん中に立っている千代子。
「ほら、お千代、いいから、ほら、持っているんだ」
事務員のスカートは紺色のタイトですから、めくりあげるといってもそのまま裾を引き上げて、お尻をだして腰でまとめる。まとめたスカートの生地が、ずり落ちないように千代子に持たせるのです。
「はぁあ、専務ぅ、専務ぅ、ううう」
立ったままの千代子は、椅子に座った専務正敏の顔へ、ズロースを穿いた腰をすり寄せていきます。正敏がズロースの腰ゴムに手をかけ、そのまま、千代子が穿いたズロースを、太ももの根元まで、降ろしてしまいます。立ったままの千代子の腰に生えるちぢれた黒毛、専務正敏がそのうえへ、顔を擦りつけてきます。ズロースを降ろしてしまった千代子のお尻、正敏が抱きしめ、顔を股間に埋めようとしているのです。ズロースを降ろして脱がせてしまうと、千代子は、それだけで興奮してきて立っていられなくなって、そのままうずくまってしまいます。
「ほら、お千代、立って、足をひらいて、立ってるんだ」
事務用の上靴を履いた千代子、上にはブラウスと紺のチョッキ、紺のスカートを腰までめくりあげ、正敏のまえに立たされているのです。


-27-

千代子と正敏、戦争未亡人と病で妻を亡くした夫、これは不倫でもなんでもなく、愛を渇望する女と男の関係です。下半身を剝きだして立ったままの千代子へ、椅子に座った正敏が顔を埋めています。お尻を抱いて顔を陰毛へ擦りつける正敏の息のぬくもりに、千代子は千代子で正敏の頭を抱いて腰を突きだしてしまうのです。
「はぁあ、ああっ、専務ぅ、あああっ」
足ひらいて反りかえる千代子。正敏が黒毛のすそ、股間の先を、下唇ですくい上げてくるんです。すくい上げてしまって、先の皮を露出させ、その皮の小さなかたまりを、舌先で舐めはじめて、くちゅくちゅしてやる正敏、無言です。ある極点に刺激を与えられる熟した千代子。わけのわからない、えたいのしれない、舌先で触られる感覚が、なんともいえない快感に思えてくるのです。
「あああっ、専務ぅ、うううっ、はぁあああ」
ぷちゅ、ぷちゅ、土蔵のなかの静寂を破って、正敏が口先で千代子を吸う音が、千代子の呻きに混じって聞こえます。

木綿の白いズロースを脱いでしまって、紺のタイトスカートを腰にめくりあげ持ち、立ったまま、足をひらいている千代子。お尻にまわった正敏の、手指が千代子の股に入れられて、その真ん中をまさぐります。椅子に座っている正敏は、千代子のお尻を左の腕に抱いて股間へ手を入れたまま、右の手で腰のベルトを外し、腰を締めるボタンを外して、前をひらけます。ズボンの下穿きを太ももにまで降ろして、腰からにょっきりの竿を露出させてしまいます。下半身剝きだしにした千代子を引き寄せ、腰にまたがらせます。またがらせるとき、正敏が、そこそこ勃起した竿を千代子のヴァギナに挿しこませ、そのまま千代子の股間が正敏の、腰に密着するまで降ろさせるんです。
「はぁああ、ひぃいい、いい、専務ぅ、ひぃいいい」
千代子は年甲斐もなくまたがった正敏に抱きつき、唇を求めて唇を当てがっていくのです。男と女のサカリ、交合はお洋服を着たままで、局所だけを露出して、交わらせるのです。いつひとが土蔵を訪れてくるかも知れない、万が一のため。

この前には高校を出たばかりの鈴子を縛っておいて、そのまえで千代子は正敏と交合しあったのですが、今夜は千代子と正敏の二人だけです。三十後半の千代子と四十前半の正敏、熟年、夫を亡くした妻と、妻を亡くした夫とが、かって知った喜悦の世界を、ここにこうしてむさぼりあっているのです。
「おおおっ、お千代、腰を、ほれ、もっと動かせ、ほら、ほら、もっとだよ!」
「ひぃいい、ひぃいい、専務ぅ、ひぃいいですぅ、ううっ」
「いいか、いいのか、お千代、ほら、ごほうびだ、たっぷりちんぽを楽しめよ」
「はぁあ、ああっ、正敏さぁん、ちんぽ、ちんぽ、いいです、ううううっ」
正敏は背もたれの椅子に座ったままで、抱きあったまま、腰にまたがった千代子の尻を前後に動かさせます。千代子の肉筒に埋めこんだ正敏の肉竿を、肉筒の襞で擦りあげさせるのです。
ぶすぶす、ぐちゅぐちゅ、正敏が椅子に座る体位から、こんどは千代子が椅子に座って正敏が、竿を挿しこみ動かすんです。


-28-

松倉織物の土蔵は江戸時代に造られた火事にも焼け残る頑丈な蔵です。松倉正敏はいま専務ですが、ゆくゆくは社長になり、会社の采配をふることになるんですが、好きで描く絵が、それなりに世間で好評を得ているから、絵を描くことを本業としたいとも思うところです。土蔵を改造して、絵を描くアトリエにして、世間から遊離した空間を演出していて、こころが安らぐ場所です。千代子が性欲の面倒まで世話してくれるようになって、それなりに安定はしてきたものの、最近は、今年入社してきた鈴子のことが気になりだして、自分の絵のモデル、それも縛り絵のモデルとして描くようになって、いっそう身近に感じるようになっている専務の正敏です。
「ほぉら、お千代、どうじゃ、ええやろぉ!」
「はぁああ、専務ぅ、ああっ、いい、いい!」
ズロースを脱がせて背もたれ椅子に座らせた、千代子の股間をひろげきり、向きあって座部に座った正敏。腰の勃起ブツはきっちりと千代子の股間にしまわれて、男と女の黒いちぢれ毛、陰毛が擦れあう密着、三十後半熟れた千代子の粘膜が、四十過ぎの正敏の竿を十分に楽しませる締まりぐあいです。

背もたれ椅子の座部に、向きあって座った千代子と正敏、抱きあっています。土蔵の重い扉は閉めてあり、内側から鍵をかけているから、外からは全く見えない土蔵の内部、千代子と正敏、二人だけの世界です。
「ほうれ、お千代、おれのちんぽは、どうじゃ、いいのか」
「はぁああ、専務ぅ、いい、いい、ほんとですぅ」
「そうか、お千代、おおっ、挿しこんだぞ!」
「はぁああ、ああっ、ひぃいい、ですぅ、ううっ」
「おお、おお、どうじゃ、ええやろ、ほうらぁ!」
ズロースを脱いで紺のタイトスカートを尻のうえまでめくりあげ、ブラウスと紺のチョキは着たままで、太ももをひろげ、膝をもちあげられ、ぶすっと挿しこまれたまま、腰を左右から上下へと動かしてくる正敏に、千代子はもうもうなにもわからない霧のなか、朦朧、おぼろげに、正敏の行為がそこはかとなく、うつつの出来事としてわかります。このままいつまでもこうしていたいと千代子は思う。だれに見られることもない土蔵のなかだから、正敏は千代子がつけている会社お制服、チョッキのボタンをはずします。ブラウスのボタンをはずします。火鉢には炭をたっぷり盛ったなか、火を焚いているから裸になっても暖かい。

紺のスカートをも脱がしてしまって、千代子を全裸にしてしまい、正敏も全裸になってしまいます。抱きあいます。背もたれ椅子にお尻をおいて、抱きあいます。ぽちゃぽちゃ三十後半の千代子のからだは柔らかい。乳房をまさぐり、乳首を揉まれると千代子、ピリピリ刺激を感じでしまって、ぐっと顔をしかめます。したの刺激はふといどろどろ感をさそう快感、乳首の刺激は細い糸のような快感、でも、千代子、したと乳首をいっしょに刺激は、からだのなかが崩れる感覚に満ちるんです。
「ああっ、ああっ、専務ぅ、ひぃいい、ひぃいい」
「お千代、ええな、ええな、ちんぽ、ええな」
「はぃい、いい、いい、専務ぅ、ちんぽ、いい、いいいいですぅ」
火照る千代子のお顔、からだも火照っていて、暖かく熱を帯びる千代子の肌が、桃色になってきます。とろとろとながれだす千代子の秘汁、ぬるぬる、透明の粘液がサラサラになってきて水状になってきて、千代子の喜悦がはじまりだして、こらえる声もしだいに大きな声になってきて、正敏、千代子の呻き悶えのさまをみて、ますます興奮してしまうのです。

-29-

ぐぐっ、ぐぐっ、ぐぐっと挿しこむ正敏に突つかれて、ひいっ、ひいっ、ひいっと声をあげている千代子。妻を亡くした正敏と夫を亡くした千代子の交合、惹かれて交わる男と女です。
「ほおら、お千代、どうじゃ、ほうら、どうじゃ」
「ひぃいいっ、ひぃいいっ、ひぃいいい~っ」
肌を重ねて抱きあい、勃起した腰のモノを千代子のヴァギナに挿入し、正敏は腰をひねるたびに声をあげ、それに応えて千代子の呻く声が土蔵のなかに響きます。そうして正敏、射精をもよおす気配がしてきて、用意してあるスキンをかぶせ、最後のときを迎えていくのです。千代子は女、挿入される勃起ブツに翻弄されているから、おぼろげに抜かれて挿されたことだけが、うすらぼんやりわかるだけ。
「おおおおおっ、ううっ、ううっ、ううううっ」
「はぁああっ、あああっ、ひぃいいいい~!」
正敏が、挿しこんだままぐいぐいと、うごめかせて射精にみちびかれます。千代子は突きあがってくる快感に、気もたえだえで呻き悶えて、すべてを受け入れるのでした。

「お千代、いつも、すまんなぁ」
「いいえ、専務、うちのほうこそ」
「ここに、こうしておると、いやなこと、忘れられる」
「いやなことって、専務、どんなこと」
正敏に背を向けたままズロースを穿き、シュミーズを着け、立ちあがって会社の制服、紺のタイトスカート、白のブラウス、紺のチョッキを身につけた千代子が、髪の毛を手でまとめながら、受け応えしているのです。
「いやなこと、世のすべて、生きてるのが、つらいわ」
「そんなこと、専務、ゆうたらあきません」
「そやから、こんな時間は、生きてるのが、うれしい」
「そうね、生きてるのって、けっこう、つらい・・・・」
千代子が女子事務員の制服を身につけると、この世に生きる新しい女のように見てしまう正敏。熟れたからだの千代子を抱いたあとの会話は、本音。千代子は、何事もなかったかのようにして、土蔵をあとにして大通りに面した事務室へと戻るのでした。

事務室では、もう九時をすぎた時間だというのに、居残りをして反物を整理している先代からの勤め人の番頭さんが、声をかけてきます。
「やぁああ、お千代さん、遅ぉまでごくろうさん」
千代子は、顔を見られたくない心理にうごかされますが、それを隠すようにして、言葉をさがします。
「番頭さんこそ、遅ぉまで、ごくろうさま」
「専務の絵描も、ええかげんにしてもらわんと」
「まあまあ、そやかて、専務さんは、芸術家さんよ」
「織やも芸術とゆうたら、芸術かもしれんけど」
「西陣織は、伝統ある織物、芸術の気持ちが必要よ、番頭さんはお金?!」
「そうやね、芸術に先立つのは、金、金がだいじだよ」
番頭さんがいうには、不景気で在庫が増えていて、それに洋装化が進んでいて、なかなか思うようにはきものが売れない、だから資金繰りがくるしいというのです。商売のなかみについては、千代子が立ち入る話ではないから、番頭さんのはなしは、愚痴だと聞き流すしかないのですが、週一回発行の織物新聞にも、会社倒産の記事もまま見受けるから、なにかしら、不安な気持ちになってしまう未亡人の千代子です。

-30-

松倉正敏としてみれば、年増の千代子よりも若い鈴子をモデルに絵を描くほうが、興味の対象です。年齢とともにモデルの年齢と相関関係にあるようで、正敏がまだ若かったころには、熟した女のイメージに、清楚な女のイメージよりも惹かれていました。ところが四十をこえてきたあたりから、モデルになる女のイメージは少しずつ若い方へと移行してきて、熟した清楚感とでもいえばよろしいのか、若い色気を描きたいと思うようになってきたのです。金谷鈴子が高校を卒業して入社してきたとき、専務の松倉は目がくらむほどの眩さを感じたのです。会社のことは会社のことで、公私を別にするというのが鉄則なのに、絵描の松倉には、その分別がつかなかったのです。よくあることだから、といって済ませてしまうと、とんでもないことが起こってしまう。松倉正敏は、鈴子をモデルにして絵を描きたいとの欲望をかなわせてしまったのでした。

坂倉千代子は、若くして戦争未亡人となってしまって、母親とのふたり暮らしで細々と生きてきたところでしたが、母親が西陣織の手機の織子をしている関係から、松倉織物が事務員を募集しているという話をもってきたので、社長と専務に面談されて採用されたのでした。松倉の奥さまがお亡くなりになって、松倉が一人身になんて、二年も経たないうちに懇意になって、週に一遍ほどお絵描の土蔵のなかで、関係するようになってしまったのです。正敏の戸籍上の妻となるには家柄がちがうということは百も承知しているから、そのつもりは毛頭ないけれど、内縁関係であっても、子どもができても、認知さえしてもらえればよいと、千代子は考えるのでしたが、松倉とこんな話はしたことはありませんでした。そこへ、今年になって、金谷鈴子が初々しく高校卒業と同時に松倉織物の社員として採用されてきたことから、微妙に、松倉正敏の様子がおかしくなってきたのです。これは女の直感、関係を持ってきた松倉正敏の、微妙な接しられ方、という心の動きに対しての、これまでとは違うという、直感です。

千代子には、奇妙に引っかかった正敏の言葉がよみがえってきます、いやなことこの世のすべて生きてるのがつらい、あ~あ、いやなことこの世のすべて、正敏専務の本音かもしれないな、うちかってそんなこと思うときあるから、うちかって生きてるのがつらいって思うことあるんやから、そやけど、ふたりいっしょにいて抱きあっているときってつらくない、つらくなくって、極楽浄土みたいなとこにいる感じ、ほんとです、千代子はこのように思うのです。
「ほな、お先ぃに帰りますよって、番頭さんあと頼みますね」
炊事場で湯呑の茶碗を洗ったりして、松倉織物をあとしたのは、もう夜も更けた10時前、腰がだるい、後始末してないからなんだかムズムズする、そんな気持ちをいだいて千本通りへ出ると、おうどんの屋台があって、千代子はお腹がすいたから、白いエプロンしたおじさんに、すうどん一杯を注文し、屋台のまえで立ち食いさせてもらったのです。











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最新更新日 2014.4.2


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