耽美試行

牡丹が咲く頃(1)-2-

 8〜12 2015.8.16〜2015.9.20

    

-8-

村田翔平が香苗のワンルームへ訪問してくるのは、金曜日の夜と決まっていました。というのも、翔平はフリーのデザイナーで時間は融通がきくものの、香苗は勤めていて土日が休みだから、それにあわせて会う日時が決まる、ということでした。フリーになった翔平の稼ぎは、思うほどに芳しくなかったので、会社勤めで定期収入がある香苗のほうが、なにかと翔平のことを気遣って、お金を支払うことに、なっています。
「ううん、いいのよ、わたし、どうせ、わたし、使っちゃうんですもの」
「わるいなぁ、おもうほどに仕事がこなくってさ、わるいなぁ」
香苗のワンルームは六畳間、それにバス、トイレ、キッチンです。明るい部屋、女子らしく暖色系でコーディネートした部屋です。
「ああん、だって、ああん、翔平さぁん、あああん」
「ううん、うううん、香苗、ううううん」
六畳の間とはいっても、余りスペースは畳で一枚と半分ほどです。小さなテーブルにならべたお弁当を片付けたところで、翔平が抱いてくるのです。香苗の横に、からだを向ける翔平。座ったまま、横から抱くようにして香苗を引き寄せます。香苗、からだのちからを抜いて、翔平の胸へ、顔を埋めます。

洋服を着たまま、翔平はジーンズにシャツ、香苗はスカートにシャツ、おたがいに下着をつけています。
「ああん、ううっ、ううううっ」
胸にあてる顔を上へ向けさせられる香苗。翔平がうえからかぶさるようにして、唇に唇を重ねてきます。
「ふうう、ううう」
翔平が、香苗の唇をわって、吸いこみ、舌を挿しいれます。香苗は、それを受け入れ、絡ませていきます。きっちり、唇がふさがれ、舌がからまされて、香苗はもう夢中です。翔平が、シャツの上から胸に右手の平をおいて、まさぐります。翔平の左腕は香苗の背中から肩を抱く格好。キッスを交わすまま、香苗が愛撫を受けだすのです。
「ううっ、ふうううっ」
香苗が着ている黄色いシャツがめくりあげられ、生成りの白いブラジャーが露出させられます。そのブラジャーがはずされ、翔平の右手の平が、露出した香苗の左乳房にかぶせられます。香苗は左腕を翔平の背中にまわし、右腕はだらりとおろし左膝におきます。キッスをしながら、乳房をまさぐられる香苗。からだのなかがあつく萌えてきます。目を閉じ、薄目をあけ、翔平の顔がみえ、そうして目を閉じる香苗。だらりと降ろした左腕の手の平を、翔平の腰へと当てていきます。キッスがはずされ、黄色いシャツを脱がされ、ブラジャーをはずしてしまう香苗。上半身が裸になってしまって、翔平の腕に抱かれます。そのとき、翔平は、ジーンズのベルトをはずし、ファスナーをおろし、脱いでしまいます。シャツと茶色のトランクスだけになる翔平です。

-9-

シャツにトランクスすがたの翔平、ショーツだけになった香苗。六畳一間、香苗のワンルームです。小さな卓袱台のまえ、畳一畳ほどのスペース。抱きあいます。翔平がシャツを脱ぎます。トランクスを脱いでしまいます。抱きあったまま、香苗もショーツを脱いでしまって、全裸です。
「ああ、ああん、いやぁああ、ああん」
「いいじゃん、香苗、見てやるよ、ほら、ひろげろよ」
抱きあって、キッスをしながら、翔平のペニスをにぎっているところです香苗。翔平は、抱いた香苗の外側の膝を立てさせ、足をひろげさせ、股間を露出させてしまうのです。
「ああん、いやぁああん、恥ずかしい・・・・」
縦長の姿見鏡の前へ向けられ、股間を鏡に映しだされてしまう香苗。翔平が、背中からまわした左腕では乳房をまさぐり、右手では、香苗の陰部をひろげてしまうのです。陰毛の下部にピンクの花が咲きます。
「ああん、あああん、だめ、だめ、いやぁああん」
「うううん、とろとろ、香苗、ほら、とろとろだよ」
香苗は、もう、恥ずかしさの限界、鏡に見入ることは羞恥の極みです。握っている翔平のペニスへ、顔をつけてしまいます。ペニスの頭を顔にこすりつけ、その頭を唇に挟み、口の中へ含み入れてしまいます。
「うううっ、うう、うう、うううっ」
裸のからだを折り曲げるようにして、ペニスを口に含んだ香苗が呻きます。翔平のモノを、口のなかに入れ、絞って、舐めて、吸って、ぺろぺろ、堪能するくらいに弄んで愛していく香苗です。

向きあう翔平と香苗、おたがいに全裸です。眺め合います。見つめ合います。心がうごめきます。そうして抱きあい、キッスをします。翔平が足を投げ出す格好のあぐら座り。その翔平の腰をまたいでしまう香苗。香苗は翔平のペニスを、ヴァギナに挿しこみ、そのまま股間を翔平の腰へ密着させていきます。
「はぁああ、翔平さぁん、ああっ、ああっ」
翔平のモノを、からだのなかへ含みこんだ香苗が、咽ぶように声を洩らします。じんじんと感じてくるからだ、快感、じんわり、盛り上がってくるような快感です。
「おおっ、香苗、きっちり密着させろ、きっちり」
「はぁああ、翔平さぁん、みっちゃく、きっちりみっちゃくぅ」
「おれが、こしを、ふってやっから、しりあげてろ」
香苗は言われるままに、密着させたまま、すこしだけ翔平との密着をゆるめます。翔平が、香苗のヴァギナへ挿しこんだまま、腰を左右にゆっくりと、揺するのです。
「はぁああ、ああっ、翔平さぁん、ひぃいい、ひぃいい」
「ええやろ、香苗、感じるんやろ、そうなんやろ!」
「はぁああ、感じる、感じるぅ、感じるぅ、ううっ!」
「ぶすぶすしてやっから、尻、あげてろ」
「はぁああ、ぶすぶす、しり、あげるぅ、あげちゃうぅ」
巧妙に翔平がリードして、香苗の気持ちを揺さぶります。ずんずんと正気を失って、からだの快感に埋没していく香苗です。

-10-

翔平の事故死は突然のことでしたから、香苗の気持ちは奈落の底に落とされてしまって、一年間ほどは、そこから這い上がることができない日々。彼を失ったことの、こころの空白は、悲しみを越えようとして、ただ呆然としているだけの日々でした。会社へは行けたから、死んでしまうほどの落ち込みではなかったけれど、空いた部分を、癒しようがないこころは、彼とのツーショット写真を見ることもできなかったほどです。
<二年、あれから、もう、二年、あの日、庭には、牡丹が咲いてたね・・・・>
その日の記憶が香苗に戻ってきます。どうしたはずみか、その日は、双ヶ岡のやまへ登ろうと翔平がいいだし、人っ気のない登り口から、なだらかな斜面をあがっていったのでした。翔平は、人っ気がないことを幸いにして、頂上の石棺のそばで、香苗を抱いたのです。
「ああん、翔平さまぁ、ああっ、ううっ・・・・」
双ヶ岡は三つの岡が連なった山で、頂上から東を向けば京都市内が見下ろせます。西を向けば山に沿って嵐山の方が見えます。翔平に抱かれて、キッスされ、洋服のうえからだけどからだをまさぐられた香苗。
<あのとき、なにかしら、いやな予感が、なんやったんやろ、あの夢のような・・・・>
双ヶ岡から降りてきて、JRの花園駅のほうへきたとき、左手に<花の寺>と書かれたお寺の門があって、法金剛院と書かれた表札がかけられていたのです。

「入ってみようか、まだ間に合うやろ、記念に、入ろう」
翔平が香苗を促し、門をくぐって左側が中へ入る入り口です。拝観料をふたり分、払ったのは翔平でした。
「人がいない、静かな池、せまいけど、なんだか静寂だね」
「うん、そうね、静かね」
お堂のなかにはいると、阿弥陀如来さまの大きな像が立っていらして、翔平と香苗を迎えてくれます。
「阿弥陀如来って、やさしいね、おれ、天国へいけるかなぁ」
翔平が、突飛にへんなことをいうのです。天国へいけるかなぁ、なんて、どこからこんな言葉がでてきたのか、香苗にはわかりませんでした。
「あっ、これ、これって、なにっ?」
「十一面観音だろ、ここのん、けっこう有名だよ」
厨子に入っていらしたのは、十一面観音さまがお座りになった像、厨子の内側びは、色彩に満ちた絵が描かれていて、観音像と一体になって、香苗には、目を見張るばかりの美しさ、と思えたのです。
「翔平さまが、こんな仏像さんが、好きとはおもわなかった・・・・」
「おれだって、好きだとはいいがたいが、まあ、好きになってしもた」
「わたしは、けっこう、好きかなぁ、宇治の平等院とか」
「平等院か、ほな、つぎは、宇治へ行こうか」
牡丹の花がぽってりと咲いていました。紫の牡丹、香苗の記憶には、そのように残っています。

-11-

工藤智之と初めて会って行ったお寺は、花園にある法金剛院でしたが、香苗はそのとき、前に来たことがあるとはいいだせなくて、あたかも初めての訪問だということにしてしまいました。というのも、香苗には、二年前に亡くなってしまった恋人の翔平と来たことがあって、その思い出を思い出して、いいだせなかったのでした。
<あのとき、あんなふうに、あそこへ、いくなんて、思いもかけなかった>
翔平との日々がよみがえってくるなか、もう忘却、忘れかけていた気持ちが、工藤といっしょに行ってぶりかえってきたのです。
<ああ、どうして、翔平、もう、いないのに、辛い・・・・>
翔平の顔や姿は、記憶だけではなくて写真や映像に残されているから、それを見ればなまなましく想い起こされます。最近は、ほとんど見ることもなく、忘れてしまうほどにまで、遠のいていた感情でした。それが、ふたたび、香苗の胸にせまりあがってくるのです。
<うんうん、おかずは、これでいいか、焼き魚>
香苗が仕事の帰りに立ち寄るスーパーマーケットは、すでに時刻は午後八時になっていて、調理されたおかずは、割引になっています。そのなかで、ワンルームへ帰って手軽に食べられるものを買うのです。

一人住まいの香苗、夜にワンルームのカギをあけ、電灯をともし、空調にスイッチをいれます。もう二年間、ひとり住まいしてきたワンルーム。翔平がいなくなって、香苗は、別のところへ引っ越そうかと思ったけれど、翔平と過ごした痕跡が残る部屋に、未練もあったから、そのままにしているところでした。
<ううん、工藤さん、学校の先生、でも、おじさんだよなぁ・・・・>
声にはならなくて、こころのなかで呟くだけですが、ひとり食事をしながら、思いをめぐらす香苗です。まだ二回会っただけ、なんにも知らない、知ってるのは、学校の先生、それくらいです。あの日、祇園の石段下でお別れして、香苗の方からメールすることもなく、工藤の方からメールがくることもなく、五日がたって木曜日です。彼というには、それほど魅力を感じないけれど、なにかしら気になる工藤智之のことです。
「大山さんには、恋人、いるんかなぁ」
なんて歩きながら質問してきた工藤に、香苗は、ふふふと笑って済ませました。それよりも工藤に、同じ質問をしてみたかった香苗ですが、それを問うことはありませんでした。

-12-

(2)
工藤智之の本業は、中学校で理科を教える教員です。ことし40になる年齢ですが、独身、恋愛経験は10数年まえ、二十歳代にありましたが、それ以来、深い恋愛はなく、気ままに一人暮らしを満喫しているところです。
「あの、大山香苗って子、不思議な子だよ、まるで天からやって来たような子、いや、女子」
最初に巡り会ったのが、京都の嵯峨野へ行ったときに声をかけ、花園の本金剛院へいっしょに行ったこと。警戒するようすもなく、連れ添って案内してくれた香苗の振る舞いに、わすれられない女子となってしまって、その後にメールを送ると、会えるという答え。清水寺まで歩いて散策、そうして撮らせてもらった写真が、工藤の手元に残され、いま、自室でその写真を眺めているところです。
「不思議なひとだ、やっぱり、天からやって来たようなひとだ」
きりっとしまった表情をした香苗の顔は、ほとんど化粧をしていない、とはいえ唇は薄いピンクの色をしているから、化粧をしていることがわかる。イヤリング、ネックレスはしていない。
「デザイナーの仕事をしていると聞いたけど、なにのデザイナーなんだろ」
知らない、かいもくわからない、工藤智之が知る大山香苗のことといえば、京都に住む25才の女子。定職をもっていて、どうも独身らしい、ということくらいです。

工藤のこころに香苗のことが占めだしたのは、二回目、清水寺へ赴いたあとのことですが、それは最初の、あの、嵯峨野の、落柿舎の道筋で見かけたときに、なにかテレパシーのようなものを感じたのです。一目惚れとはいえないけれど、もうそのときには、普段でない、特別な女性と思うほどではなかったけれど、やっぱり特別な女性に思える素質があったようだと思うのです。
「あの、十一面観音坐像の美しさは、まるで彼女のような感じがするなぁ」
どこがどうなのか、まったく違う、とはいえ工藤のなかでは、香苗の上半身正面写真が、あたかもその仏像の美しさと混同してしまうのです。
「おれ、どうかしてる、大山香苗、なにかの縁、惹かれるなにかがある・・・・」
学校には女子中学生が数百人、どこをどう歩いても、街中だから女性の姿が見られます。関係の遠近はあるけれど、それらの女性とは、ちがう、なにかを感じるのです。
「恋、恋してる、そうかも知れない、恋心・・・・」
工藤智之は、かって知り合った女性、そうして別れた可奈子のことを思い出しながら、香苗のことを引き合いにだしてしまうのです。





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最新更新日 2015.10.17


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