かろす物語
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 1〜8 2021.12.26〜2022.1.12

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かろすとは、ギリシャ語でkalos、美しいという意味だそうです。そこで向井浩介は、自分が体験してきたことの顛末を書き残すのに、タイトルを「かろす物語」とするのです。美しいというのは、落合沙織のような女子のことを指して言うのではなかろうかと、浩介は考えます。才女であることは、日本の古典文学を研究していて、それを素材にして文章が書ける才能を持っていることからも伺い知れます。浩介は、後輩の沙織を好きになっていて、沙織は、浩介の言葉を受けいれ、交際らしきことをするようになったのです。浩介は、あそこの橋を渡ったところで、沙織の手を握ってやると、沙織が握り返してきたのです。浩介は、温かくて柔らかい沙織の手の感触を、いつでも思い出すことができます。
「ええ、はい、わたしも好きです、クリムトの絵、接吻とか」
「そうなの、ぼくの趣味と、似てるのかも」
「似てると思います、わたし、浩介さまの心、わかるんです」
沙織は、とっても整った顔立ちで、どう表現したらいいのか、可憐な美女、いやちがう、小悪魔、そうでもない、陶芸作家、といっても陶芸家といえるほどの腕でもない。文章を書いているといっても、出版社が買ってくれるほどのものでもありません。

浩介は27歳、地方銀行の行員です。沙織は、雑貨屋でアルバイトしている23歳です。アルバイトだから、収入が少なくて、生活費がようやく賄えるところです。その点でいえば、浩介はきっちりした職業で、月々のお給料のほか、ボーナスとか、あるから、生活費プラス貯蓄もできる身分です。先輩後輩の関係というのは、大学のオーケストラ部で、浩介がトランペットのOBで、沙織が現役でヴァイオリン、それで練習の場で顔見知りになって、女子に飢えている浩介が、彼氏がいなかった沙織を誘ったら、まんまと会って話をするようになったのです。とはいっても危うい関係です。大学のオーケストラ部の先輩後輩ということがベースにあるというだけですから、危うい、それだけのことです。
「ここのレストラン、古いんですって、京都で老舗のレストラン」
「沙織さんは、音楽家、古典文学研究と、美術史と、陶芸もやる、才女だよねぇ」
「ここのカツレツは、牛さんのお肉なのよ、カツレツ」
「うん、おいしい、あとは、コーヒーだな」
土曜日のデートで、食事は菊水のレストランにして、それから、どうするのか、浩介と沙織は、古い喫茶店へはいって、お喋りをします。

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浩介は、沙織のことを女として見ています。大人の男だから、ごくあたりまえの正常な気持ちです。喫茶店でテーブルを介して、目の前のワンピース姿の沙織を見て、胸のふくらみを見て、ナマのからだの沙織を想像します。沙織は、浩介のことを男として見ますが、地方銀行の行員で、生活を共にするには、堅実な男子だと思っています。たぶん、浩介が沙織をセクシュアルに見るほどには、沙織は浩介をセクシュアルには見ていません。性の衝動は、浩介のほうが即応的で、沙織はむしろオクテのほうです。
「まだ時間あるし、べつの喫茶店へいこうか」
食事もおえたし、ここへきて小一時間お喋りしたところで、まだ夜の八時です。高瀬川沿い、木屋町筋の四条をあがったところにある大人の喫茶店。ミュージカという名の喫茶店です。ジャズを聴かせて、まるで個室になったかのような作りの店内で、浩介が前の彼女とよく来たミュージカです。
「そうですね、まだはやいですね、浩介さまに、お任せます」
沙織には、もう心の準備というか、いい関係になるかもしれない、と夢想していますが、それは成り行きだと思っています。沙織にとって浩介は、恋人ではなくて、オーケストラ部の先輩であり、堅実な勤め人であり、夜遊びする相手にはなっていません。ミュージカは、男と女、ペアで語らう喫茶店。ラブホテルにはいって語らうまでには至っていない恋人たちの、場所なのです。

雑居ビルの地下室で、階段を降りてドアを開けると、レジがあり、真ん中が1mほどの通路になっていて、両サイドが畳半分ほどのボックスが十個、左右でニ十個の席があります。ミュージカ全体は薄暗い橙色、ジャズのボリュームが結構大きくて、小声の会話では、聞こえにくいほどです。男と女が、抱きあうこともできる、空間といえばその意図が、わかります。
「こんなの、初めてです、変わったお店ですね」
沙織が、ミュージカのことを知らなかったわけではなかったけれど、入店するのはもちろん初めてです。
「うん、おもしろい店なんだ、けっこう、いいんだよ、ここ」
ボックスといっても通路側は半分開口になっていて、カーテンはなく、開口です。全体が薄暗く、ボックスの中には横長テーブルのうえにスタンドがあって、手元を照らします。
「なんだか、ふしぎな気持ちになりますね、せんぱい」
座るところは長椅子、横向きで座ると、からだが触れるほどです。前には備え付けの横長テーブルで、運ばれてきたカップは、腰かけて手を伸ばしてとるほどの距離、座ると膝の少し前になるテーブル。もう浩介は、沙織がこのボックスを拒否していないことを察して、安心です。沙織は、おもわずこんなところに連れてこられて、戸惑いがあったけれど、すぐに慣れてしまいます。ジャズの音量と薄暗い全体と、字が読めるくらい、スタンドのスポット照明に、自制心を失ってしまう魔の空間です。

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ボックス席では、沙織が左で浩介が右になる座りです。沙織が奥で浩介が入口のほうです。薄暗いボックスのなか、かなりボリュームがあがったジャズ、トランペットの甲高い音色が、流れています。浩介は、沙織を左において、左腕を背中にまわして、左の肩から抱いてしまいます。沙織は、内心ドキドキ、浩介に誘われてきた同伴喫茶店のボックスの奥、自分を夢の世界へ連れていってもらう感覚です。ああっ、と声を洩らしますが、ジャズの音量にかき消されてしまいます。
<ああっ、どうしょ、ああっ>
沙織の心の内を知る由もない浩介が、沙織の肩を抱きよせ、耳元でなにやら囁いてきます。
「うん、はい、はい」
浩介が、この店、ムードあるでしょ、というのです。沙織は、即答ではないけれど、はい、と応えます。なにやらが起こりそうな気配を感じる沙織。なにかを期待する気持ち、からだがうわずってきて、顔が火照ってきます。
「すきだよ、沙織さん、だから、ぼく」
浩介が右手を、沙織の右手のうえに置いてきます。沙織は、なされるがまま、肩に少し力をいれてしまいます。沙織の背中から肩にまわした左手を、沙織の頬に当ててきた浩介。沙織は引き寄せられ、唇に唇をかさねられてしまいます。沙織は上気しだし、目をつむり、浩介の唇の感触に、唇をすこしひらいてしまいます。

大学のオーケストラ部ではバイオリンを弾いていた沙織です。華奢な指、音楽ができて、文学ができて、とは言いながらもアルバイトで生活費を稼いでいる日々。沙織は、親からの援助はことわり、独り立ちしていこうと思っているところです。大学時代に、好きになった男子がいましたが、親しくなる寸前で、別れるはめになってしまって、その男子とはからだの交感はありませんでした。
「ああ、うう、ううううん」
<せんぱい、浩介さま、あっ、あっ>
銀行員向井浩介からキッスをうける沙織。右手を握られ、唇を重ねられ、からだが疼いてきています。浩介は、沙織の反応に、冷静に対応していきます。舌を絡ませてやると、沙織も舌を絡ませてきます。浩介の性感がぐっと高まってきます。沙織にしても、ジャズのなかキッスされ、手を握られて、からだがうずってきます。
「うっ、うっ、ううっ」
こころの中でことばが渦巻きます。
<だめ、だめ、ああ、せんぱいぃ、浩介さまぁ>
沙織が、自制心を失ってきます。浩介は、沙織の呻きを聞き分けます。進めばいい、このまま、もう少し、推し進めばいい。同伴喫茶店のボックス席のなかです。

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ボックスは半畳の広さ、出入り口のカーテンを引くと、閉ざされた密室になります。浩介がカーテン側に座り沙織が奥です。抱き寄せられて、うっとりしてしまう沙織。キッスされ、舌を絡まされるその感触で、からだのなかが濡れだしてくる沙織。
「ううっ、ふぅうう、ううっ」
ジャスの音量にかき消されてしまう沙織の呻きに、浩介は大胆になります。左の手腕を沙織の背中にまわして抱き寄せ、右手を、ワンピースのうえからですが、太腿のまんなかに置いているのです。太腿を包んでいるサラサラの布地を、浩介が擦りあげ、膝を露出させてしまいます。
「うっ、ううっ、ふぅうう、ううっ」
沙織は、目をつむったまま、深いキッスに酔わされていて、浩介に抱き寄せられ、スカート部を膝からうえへ擦りあげられたのに、気がつきません。薄暗いボックスの席で、沙織が乱れてくるのを、銀行員の浩介が感じます。
「いいね、いいんだよね、沙織さん」
キッスを解いて、浩介が抱き寄せた沙織の耳元で、囁いてやります。沙織がうすく目をあけ、うっとり放心したかの表情で、浩介を見てきます。顔と顔の間は10pほど、浩介の右手が、沙織の胸もとへ触れてきて、前開きワンピースのボタン、その真ん中に手をかけ、ボタンをはずしてしまいます。ボタンを二つはずしてやると、手が胸に入ります。でも浩介、沙織の胸へ、手は入れずに、スカートを太腿の根元にまで擦りあげてしまうのです。

沙織は、浩介に抱かれていることに、なしかしら安心な気持ちになってきます。唇を重ね。舌を絡ませていて、からだの奥が萌えてきています。からだが軽くなっていく感じで、太腿を触られても、こそばゆさは感じません。
<ああ、なに、なに、ああ、触られてる、ああっ>
こころの中でつぶやいて、まるで夢の中をさまよっているような気分で、からだに力を込め、そうして力を抜いてしまいます。
<ああ、お膝が、ああ、ひろげられてるぅ、ああ、だめ、ああっ>
うっとり、沙織、薄暗いボックスのなかです。耳にはジャスのトランペットが聞こえています。前横のテーブルは、小さなスタンドの明かりです。
「沙織さん、沙織さん、いい匂いだよ、沙織さん」
沙織を抱いた浩介が、小さな声で、沙織の名前をつぶやてやります。左の手は沙織の背中から抱き寄せています。ワンピースの胸もとから右手が入れられ、キャミソールのうえから、胸あたりがまさぐられます。
「ああ、だめ、だめです、ああ、浩介さま、だめ、ああっ」
沙織は、もう、うっとり、うわごとのように声を洩らしてきます。

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半畳分のボックス席で、浩介に抱かれている沙織。まだワンピースもインナーもつけたままで、愛撫されている沙織。
<ああ、だめ、浩介さま、ああ>
沙織は、処女ではありません。浩介に抱かれるなか、高校三年の夏の出来事を思い出しています。
「沙織さん、いいんだろ、ねえ、いいんだよねぇ」
耳元で囁いてくる浩介の甘えるような声に、沙織は、うんうんとこころの中でうなずきます。
「ああ、はぁああ、うむううっ」
胸へ入れられた浩介の手が、キャミソールをたくしあげ、ブラジャーを押し上げ、乳房へじかに触れられたのです。ワンピース、スカートがめくられていて、太腿が丸出しの状態です。薄暗い同伴喫茶店のボックスのなかです。ジャズの甲高いトランペットの音が会話をかき消しています。
「やわらかい、おっぱい、やわらかい」
浩介は、あえて拒否しない沙織の上半身をぐっと引き寄せ、背中へ手をまわしてブラのホックを外します。ゆるやかになった胸へ、浩介の手がかぶせられます。沙織は、浩介に抱かれて、胸を張り、顔をあげ、目をつむり、乳房への愛撫を受けいれます。浩介は、胸へ入れていた手を抜いて、沙織の左手首をかるく握って、自分の腰の股のうえへ、持ってこさせます。ズボンを穿いたままの浩介が、ジッパーをおろして、沙織の手がなかに入れられるようにしむけるのです。

沙織の脳裏に、あの忌まわしい記憶がよみがえってきます。男たちに体育倉庫に連れ込まれてしまった沙織。学園祭で合唱の伴奏でピアノを弾く沙織に、男たちが目をつけて、密室で衣類を一枚一枚脱がされ、裸にされて縛られ、恥部をひろげられて写真を撮られ、なかば脅されながらセックスされた記憶です。
<ああ、だめよ、浩介さま、だめ、ああ>
ワンピースを着たまま、胸をひらかれ、スカートをめくられ、そうして浩介の手でなぶられる感触に、沙織は拒否しながらもからだをひらいていくのです。
「ほら、手、いれて、握ってよ、沙織さん」
浩介が、腰の真ん中に沙織の手を置かせ、ブリーフの割れ目から手を入れさせようとします。
「ああ、は、い、ああっ」
沙織は、言われるままに、抵抗はしません、そこへ左手を入れ、浩介のモノ、もう硬くなっているモノを、握ってしまいます。ほぼ暗闇のボックスのなかです。浩介の手は、乳房のところから、股間へと移ります。スカートをめくった沙織の股を、少しだけどひろげさせ、股間を布の上から柔らかく撫ぜあげます。沙織は、勃起する男のモノを握ったまま、股間の布を退けられ、指が直接触れてくるのを感じます。
<ああっ、だめ、だめ、ああ、せんぱいぃ、ああ、浩介さまぁ>
言葉にはならないまま、沙織のこころは動揺し、浩介の手の感触を受けいれてしまうのです。

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同伴喫茶店のボックス席は密室です。畳半分のスペースに二人掛け椅子と横長テーブル。テーブルの隅に小さなスタンドがあり、オレンジ色の電球が灯っているだけの暗さです。ジャス喫茶でもあり、ボリュームがあげられ、ボックスのなかでの会話は、耳元でのヒソヒソ話がわかるだけです。沙織は、アルバイト生活の23歳、浩介は、地方銀行員で27歳です。大学のオーケストラ部の後輩先輩の関係で、かなり親密な関係になってきたところでした。純喫茶でお茶して、まだ夕ご飯を済ませない前に、沙織を誘ったら、この個室の同伴喫茶についてきたのです。
「沙織さん、いいね、いいんだろ」
浩介は、なにげなく、沙織が処女ではないと気づいていて、性器をふれあうところまで進んで、耳元で囁きます。浩介には、経験があります。何人かの女子を、段階を踏みながら、同伴喫茶店のボックス席に誘って、それからより深い関係になって、別れになる経験をしています。初心そうに見える沙織。バイオリニストの沙織。大学を出て、アルバイトしながら、文学をたしなみ、陶芸をたしなむ可憐な沙織。浩介の興味は、恋に発展していて、沙織と関係したいと思っていて、この場になったというところです。
「はぁあ、ああっ、先輩ぃ、ああっ、浩介さまぁ、ああっ」
浩介の指が、陰部の唇を触ってきます。沙織は、その感触に、なにやら不思議な気持ちになってきます。浩介のモノを握っている沙織。硬いような柔らかいような、温かい肉の棒です。大学生の時も、卒業してからも、男の人と関係することが無かった沙織です。男性との接触がなかった沙織は、欲求を解消するのに自慰しています。道具をつかっていい気持ちになる、ということはなくて、もっぱら手指で局所を刺激して、のぼってしまうだけです

浩介が、沙織の顔色を見ながら、股の真ん中へ、直接中指の腹を当てます。沙織は、他人の指の感触に、うっとりしてきます。初めて握る男の勃起棒の感触も、沙織にうずうずと興奮を誘ってきます。
「いいね、沙織、いいねぇ、柔らかいねぇ」
浩介が耳元で囁く声に、沙織はふ〜っとなってきます。
「ああん、はぁああ、先輩ぃ、だめ、ああん」
「なにが、だめなの、いっておくれよ、沙織」
浩介の指が、沙織の秘所の唇をひろげるんです。パンティを穿いたまま、股布を退けられているだけ、指が、這っていていて、沙織、ヌルヌルにしてしまう。
「ああっ、わたし、どないしょ、ああっ」
「さあ、ぼくを、またいで、またいでおくれよ、いいんやろ」
横向きの抱きあっている浩介が、沙織に腰を跨らせるのです。浩介は、ズボンを穿いたまま、尻をまえへずらします。沙織には、右足を床に着けさせたまま、左の足を持ち上げさせ、浩介の腰をまたがらせます。またがらせて、ワンピースのフレアのスカートを、すっぽりとかぶせさせます。
「わかってるやろ、沙織、いれる、いいやろ、いれるの」
浩介が誘導します。ブリーフの割れ目から突き出させた勃起物を、沙織の股の真ん中の、陰部を隠す布を退け、柔らかい処へ、柔らかい頭をあてがってしまうのです。
「腰を、ほら、沙織、腰をおろして、ゆっくりだよ」
「ええっ、ああっ、腰、おろす、このまま、ああっ」
男の勃起物が女の鞘におさまっていきます。またいだ沙織、男のモノが挿入されてきます。
「ああ、はぁああ、うう、ううっ」
疼く声を洩らす沙織、下腹部の奥が疼きだします。パンプスを穿いた両裏が、ペタンと床につけられます。腰をあげても、足裏は床につけられたままです。むきあって抱きあ沙織と浩介、隠れて見えませんが、きっちり女の其処に、男のモノが埋められているのです。

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沙織は、思いもかけない場面に遭遇してしまって、かなり混乱しています。オーケストラ部の先輩であり、銀行員という社会人の浩介には、憧れみたいな好意をいだいていたのは事実でした。でも、手を握りあう関係でもなかった程度の関係、どういえばいいのか、恋人とはいえなくて、ああ、先輩と後輩の関係。それなのにいま、同伴喫茶店のボックス席で、男と女の交合が為されているところです。
「ああっ、先輩ぃ、どないしよ、ああっ」
沙織は、浩介の腰をまたいで、抱きついていて、うずうず、からだのなかが、じんじん、未経験の感覚です。
「沙織、きもちいいんやろ、そうなんやろ」
「うん、ああん、そんなんちゃう、ああん、先輩ぃ、いいっ」
きっちり、浩介と沙織、男と女が交合しているのに、洋服は着たまま、向きあって抱きあっているとしか見えない姿態ですが、核心に至っているのです。沙織は、薄暗いボックスのなか、耳にはジャスの音色が聞こえていて、ああ、からだのなかは、ぐじゅぐじゅ、とろとろ、失神してしまいそうです。浩介は、沙織ほどに夢見心地ではなくて、かなり冷静です。局部にまつわりつく柔らかい襞が、快感をかもしているのがわかります。腰を微妙に動かして、沙織の其処を刺激してやります。沙織は、目をつむり、顔を上向かせ、結合されたまま、乳房をもまれ、乳首に唇を当てられ、もぐもぐの刺激をうけます。23歳のアルバイト、沙織の身の内は、浩介に預けられているのです。
「ああっ、ううっ、ああああっ」
沙織は声を押さえて、でも、それは明らかに快感の極みに達したことを示していて、浩介はそこでストップ、沙織の腰を上げさせて、抜いてしまったのです。

沙織は、高揚してしまって、軽いアクメに達してしまって、声にはならない声を洩らします。浩介が、腰をまたいでいる沙織をはずして、横に座らせます。沙織は、ふううう〜っとなって、めまいがしてきて、なにかしら恥ずかしさに、内心うろたえています。射精していない浩介には、まだ終わった感覚がなく、最後まで、つまり射精させるまで、沙織の世話になろうと思うのです。横に座らせた沙織の背中を、自分の方に向けさせ、まだ露出している男のモノへ、顔をおろさせます。
「くわえて、ほしい、わかるやろ、さおり」
かすかに声になるかならないかの小声で、浩介が、うつむいた沙織にいいます。沙織は、濡れて勃起した浩介のモノを、根元をかるく握って、先っちょに唇を当てます。
「ううっ、ふぅううう、ううっ」
沙織は、先っちょがヌルヌルに濡れているのが、うっすらと意識のなかでわかります。唇にくわえるようにして、咥内へと入れていきます。
「ううっ、うう、ううっ」
根元をかるく握ったまま、顔をあげ、顔をおろし、ぎゅっと吸ってしまいます。なにか、本能的な仕草で、男のモノをくわえているのです。浩介は、無言ですが、はあはあ、息をあらげています。左手を沙織の背中に、右手はうつむいた沙織の胸へいれていて、沙織の乳房をまさぐるのです。暗いボックスのテーブルの前です。窮屈な、窮屈ですが、浩介の股から突き出させた男のモノを、沙織は、初めてのこと、しゃぶるのです。浩介が、握っている沙織の手に手をからませ、上下に動かすようにしむけます。陰茎をしごかせて、射精を促させます。うすうす、沙織にも、そのことがわかります。握ったまま、顔をあげさせられる沙織。浩介が腰をつきあげ、沙織ににぎらせ、いっそう硬くなってくるモノを、しごかせるのです。ビンビンになったところで、沙織に顔を下ろさせ、くわえさせ、浩介が発射させたのでした。

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あのあと、沙織は、浩介の顔をまともに見られず、まだ食事をすませていなにのに、食事をする気にもなれなくて、四条小橋のたもとで別れました。つぎに会う約束をしないまま、別れてしまって、沙織は、このあとどうしたらいいのか、わからなくなっています。行きついてしまった果ては、セックスされてしまったこと。洋服を着たまま、股をひろげられ、挿入されてしまって、そのあとには、浩介のモノをくわえて、精液を飲まされてしまいました。
<ああ、先輩ぃ、浩介さまぁ、わたし、どうしたら、いいの?>
好きな男性は、と問われたら沙織は、いまなら浩介先輩と答えます。表だけのお付き合いではなくなって、へんな格好でしたが、結ばれてしまったから、沙織には、大切な人だと思えているのです。
<ひょっとしたら、もうお年頃なんやから、結婚とかぁ>
沙織23歳、もうお年頃だと自分で思っています。収入が不安定だから、いい男子がいたら結婚して、家庭をもって、子供を産んで、ママしてもいいかなぁ、とも思いをめぐらします。地方銀行員の浩介は、安定した職に就いているし、27歳でお年頃だし、もしかして、わたしの旦那さんになる人かも知れないなぁ、とも思う沙織です。

沙織が、いくつかかけ持ちしているアルバイトに、コンビニのレジ係があります。金閣寺の近くにあるコンビニですが、勤務は月水金の夕方から九時までの時間です。浩介には沙織のこの予定を教えているので、やってくるのを待つ沙織。浩介の住所を知らされているから、訪ねていくこともできますが、訪ねていったことはありません。バイト先へ、浩介が現れたのは、あの時から一週間が過ぎたつぎの水曜日、もう八時を過ぎた頃、コンビニのお客として、入ってきたのです。
<ああっ、先輩、浩介さま、浩介さまやぁ>
レジのカウンターから入口ドアに見えた浩介をみとめて、沙織は、緊張します。浩介は、通勤帰りで、濃紺のスーツ姿です。
「沙織さん、また、会えるかなぁ」
「ああ、どないしょ、会おうかな、どないしょ」
「土曜日やね、しあさっての土曜日、昼ごはんしようか、11時半、四条小橋」
「わかったわ、いきます、かならず」
沙織は、約束してから、浩介がお弁当を買って、店から出ていくのを見送りました。










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